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金髪騎士はオレの嫁

オンスタイン

13話 「策略」

  まずい……この上なくまずいことになったかもしれない。

  ラルちゃんと虎姐の待つ事務所に駆け出しながら、俺はひたすらに焦っていた。

“凶刃会のチンピラ2人の死体が出てきた”

さっき家に来た警察が言っていたことだ。まさかと思って被害者のことを尋ねたけど、知らないならいいんだと返され、そのまま帰られてしまった。

「警察の人が言ってたの、ほんとに昨日の人たちだったらどうしよう……」

「どうもこうも、殺したのは私たちじゃないだろう」 

「でもさ! 昨夜のことを考えると、俺が2人を殺した可能性だって___」

「変な思い上がりはよせ、真。心配しなくても、あの程度で人は死んだりしない」

  ラルちゃんの言葉で、少しだけ体の緊張が解けたような気がした。俺と違って、この子は極めて冷静だった。彼女の世界で4年前に起こった厄災では、魔物によってたくさんの人たちが命を落としたという……。もしかすると、彼女はその影響で人の死に慣れているのかも────いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

死んだ2人の正体は誰なのか……。2人はなんで殺されたのか……。仁龍会と繋がりのある虎姐なら、きっと何か知っているはずだ。

  そんな考えを胸に、俺は突き動かされるようにして、事務所へ走り続けた。




「虎姐っ!!」

  事務所の扉を押し開けるや否や、俺は彼女の名を叫んだ。奥でデスクに突っ伏していた虎姐が何事かと顔を上げる。しかし、俺に返事を返したのは手前のソファーに腰掛けた赤髪の女性だった。

「2人とも、朝からずいぶん慌ただしいのね」

「エナさん……? なんでここに?」

「昨日、ここに泊まったのよ。定例会で酔いつぶれた虎子を介抱してたら、いつの間にか終電逃して帰れなくなっちゃったものだから」

「な、なるほど……」

  昨日は一晩中、虎姐に付いてたのか。相当仲がいいんだなこの2人。

「虎姐、真の家の近くで、男2人の死体が見つかったそうだ。なにか知っていることはないだろうか?」

  エナさんと世間話に突入しそうになっていた俺の代わりに、後ろにいたラルちゃんが本題を切り出してくれた。彼女の声に反応した虎姐が、薄くクマができてしまっている目をぱちぱちさせながら、その口を開く。

「あー……凶刃会の連中だよね、その死体って。誰から聞いたの?」

「警察の人です。ここに来る前、俺の家に来たんですよ────それより虎姐」

  俺はとびつくように、彼女の座るデスクへ駆け寄った。

「被害者が誰かわかりませんか!? 顔がこんなやつとか、小さな特徴でもいいんです! 知ってること教えてくださいっ!!」

「ちょ、ちょっと……! 落ち着きなって真くん! なんで君がそんな必死なの!?」

「……俺も関わってるかもしれないんですよ。今回の事件に……」

「えっ? なんで真くんが?」

  俺は彼女に、昨日の夜のことを話した。定例会から帰ったあと、自分たちは凶刃会の連中2人に襲われ、それを退けたのは、良くも悪くも俺だったと。もちろん、オーバーリミットの話はしてないし、連中の目が白く光っていたことも、話がややこしくなりそうなので伏せておくことにした。

「私がダウンしてた時、2人にそんな事があったとはねぇ……」

  しみじみとした面持ちで、虎姐は数回うなずいて見せる。
 
「あの場はなんとかなりましたけど、俺が凶刃会の人たちに手を上げたのは事実です……。もちろん殺したつもりなんてないですけど、その翌日に、同じ凶刃会の人間の死体が出てくるなんて……!!」

  気が気じゃなかった。暴力すら振るったことのなかった自分が、いきなり人を2人殺しましたなんてことになったら……。そう思うと、溢れ出るほどの罪悪感で、胸が押しつぶされそうになる。

  しかし、虎姐はやけに落ち着いた様子で俺を見ていた。

「大丈夫だよ、真くん。君は連中を殺した犯人じゃない」

  にんまりと笑みを浮かべて、彼女はそんなことを口走る。君は犯人じゃないなんて、根拠もなく言われてもなぁ……なんて思いながらも、その言葉に少し救われた。

なんて思えたのも一瞬だ。虎姐は自分のデスクの引き出しをあけて、中から現像された写真を2枚とりだすと、俺に見せるように机の上に並べてきたのだ。そこに写ったものを見て、俺は思わず声が漏れた。

「こ、これは……!?」

「今回殺された被害者2人の写真だよ。実は私、警察に知り合いがいてさ。この写真は、今朝そいつがここに持ってきたものなんだ」

  全身から血の気が引いていく。2枚の写真にそれぞれ写る男2人は、間違いなく昨日と一昨日、俺とラルちゃんを襲った凶刃会の連中だ。

「その反応だと、真くんを襲ってきた2人組は、こいつらで間違いないみたいだね」

「ええ、そうですよ……。君は犯人じゃないとか言っといて、なんてもん見せてくれるんですか……」

「別にいじわるしたつもりはないよ。被害者のこと知りたがってたのは真くんの方じゃん」

「そ、それはそうですけど……」 

「そんなに心配しなくてもさ、君が犯人じゃないってことには変わりないんだよ? これにはちゃんとした根拠があるんだから」

「なんなんですか? その根拠って」

  俺からの問いに、虎姐は小さくうなずきを返した。そこから少し視線を横にずらすと、彼女は机上にストックされたチョコ菓子に手を伸ばし、フリスクのように口の中へと放り込む。そんな食べ方をして、いつか喉をつまらないか心配だ。

「────殺された2人はさ、どっちも胸を撃ち抜かれて死んでるんだよ。真くん、銃なんて持ってないでしょ?」

「は、はい……。そりゃ、持ってないですけど」

  銃で撃たれた? いったい誰に……。

「銃なんか持ってるのは、この街じゃ凶刃会と警察くらいだよ。ウチは平和主義だから、そんな物騒なものは持ってないしね。だから警察も、今回の事件は凶刃会内部の内輪もめってことにしようとしたらしいんだけど……」

「なにかあったんですか?」

「2人の死体を鑑識に回したところで、とんでもない事実が浮かび上がったんだよ。それのおかげで、警察の見立ては白紙に戻った」

「えっ……!? じゃあ、内輪もめじゃなかったかもってことですか?」

  警察の考えが振り出しに戻るほどの新事実だったわけか。正直、自分じゃあまったく想像がつかないが……。

「問題になったのは、被害者の死亡推定時刻。これまでの話を考えると、2人が殺されたのは、昨晩真くんと一悶着あったあとってことになるけど……鑑識が死体の腐敗具合を見た時に、被害者が死んだのは2日前だって言い出したらしいんだよ」

「ふ、2日前!?」

  2日前といえば、ラルちゃんと会った日だ。朝から晩までとんでもなく忙しい1日だったけど……あの日の夜も、凶刃会の2人は俺たちを襲ってきた。たしか、いきなり家におしかけられて、中にいたラルちゃんが2人をボコボコに────。

  俺の目は無意識にラルちゃんの方を向いた。彼女も虎姐の話を聞いて困惑しているような様子だったが、俺からの視線に気づいた途端、急に動揺が激しくなった。

「あ、あの時はもちろん加減したぞ!?」

  どうやら俺の考えていることがそのまま彼女に伝わったらしい。そりゃラルちゃんだって、初対面の相手をすぐ殺しにかかろうとはしないだろうけど……いや、そうでもないか……。

  でも、どのみち虎姐の話じゃ、あの2人は射殺されてるわけだから、俺たち以外の誰かが、一昨日2人を殺したってことになる。でもそうなると、なんで昨日の夜、殺されたはずのあの人たちが俺らの前に現れた? 意味がわからないぞ……。

  迷宮入りしそうな思考に頭を悩ませていると、ふと後ろの方で誰かが席を立った。 

「────真くんとラルちゃん、少し話があるわ。外に出てくれないかしら」

  突然そんなことを言い出したのは、今までずっと口を出してこなかったエナさんだった。なんというか、少し怒っているような気がする……。

「急にどうしたのエナ。話ならここですればいいじゃん」

「残念だけど、二日酔いのあなたには頭が痛くなる話なのよ。悪いわね」

  エナさんはそういうと、俺たちのことを顧みずに1人、玄関の方から出ていってしまった。

「あーあ、ほんと自分勝手なんだから」

「虎姐も人のこと言えないですけどね」

「うるさいなぁー。もう分かったから、2人ともエナのとこに行ってあげな」

  虎姐に背中を押され、俺たちはすぐにエナさんの後を追った。




「いきなり連れ出してごめんなさいね」

  ビルの階段を降りた先、通路の壁に背中を預けたエナさんが、こちらを見てそう言った。

「それは構わないが、突然どうしたのだ? 私たちに話があると言っていたが……」

「ええ。さっきの話を聞いて分かったことを、2人に伝えたくてね」

  この人がなにを話す気なのかはわからないが、虎姐を抜きにして俺ら2人だけを集めたとなると────。

「まさか、異世界絡みの話ですか?」

  俺がそう尋ねると、彼女は黙ってうなずいた。

「────今回の事件、主犯格は間違いなく魔人よ。真くん以外のね」

「えっ?」

  主犯が魔人……? いやいや、向こうの世界で起きたことならともかく、なんでこっちの世界で起きた殺人事件に魔人が関わってるんだよ。それに、俺以外の魔人って……。

「ヘリオスか……? エナ殿は、あいつが今回の事件を引き起こしたというのか!?」

  ラルちゃんが必死な様子でエナさんを問いただす。

「そうよ。あの魔王様が黒幕だっていうなら、話の筋が通らないこともないわ」

「……どういうことか説明してくれ」

  ラルちゃんはそういうと、エナさんの話を聞くために食い下がった。やはり魔王が絡んだ話になると、この子は少し取り乱してしまうところがあるようだ。俺だって、こんなところでヤツの名前が上がったことに驚いている。

「さっきの話、色々と引っかかる点が多いのよ。死んだはずの死体が動き回ってたのはもちろんおかしいけど、1番疑問なのは、昨日の夜、その2人が真くんを狙って襲ってきたというところよ」

「えっ? あぁ……それは単に俺が弱そうだったからじゃないですか? あの人たち、1回ラルちゃんに襲いかかって返り討ちにされてるわけだし……」

「バカね。相手は死んだ人間なのよ? そんなこと考える頭なんて残ってないわ」

「じゃあ、なんで……?」

「簡単なことよ。誰かがあの死体を操って、真くんを襲わせたってこと」

  いやいや……なにが“簡単なこと”だよ。

「し、死体を操る……? さすがに意味がわからないんですけど……」

「まぁ、普通に考えたらそうね。死体を操るなんて、あまりに非現実的で、ありえないことだわ」

「で、ですよね! それなら___」

「でも、そのありえないことをやってのけるのがあいつら魔人なのよ。人間がこれまで築き上げてきたものを世の理とするのなら、魔物や魔人は、その理から外れた異端の存在よ。だから人間は、やつらを敵とみなして戦ってきた。向こうだってそれは同じ」

  彼女はそう語ると、「ちょっと話が逸れたわね」と苦笑した。あんな力説をされてしまったら、こちらも反論する気にはならない。たしかにエナさんの話は、昨日も今日も現実離れしすぎているものだったが、正直どの内容にしても完全否定はできないというのが現実だ。今回のことだって、あの2人が操られていたと言われると、心当たりがないこともない。実際、昨晩会ったあの2人は、色々と様子が変だった。

「仮にあの2人が本当に操られていたとして、俺が襲われた理由はなんなんですか? 全部魔王がやったことなんですよね?」

「ええ。連中はもしかすると、魔人である真くんを殺すことで、意図的に厄災を起こしたかったのかもしれないわね。あれだけ大勢の人が死ぬんだもの、向こうにとっては大きなメリットになるはずよ」

「大きなメリットって……人が大量に死ぬのがやつらにとっての利益ですか……?」

「当たり前じゃない。命を奪いあう敵なんだから」

  あっさりと放たれた彼女の言葉に、俺ははらわたの煮え返るような怒りをおぼえた。

「なにが命を奪い合う敵だよッ!! 厄災で死んでいく人達の中には、戦う術をもたない人たちだってたくさんいるはずでしょ!? だからラルちゃんだってこんなに必死なんだ!!」

「真────お前……」

  怒りでこんなに声を荒らげたのは初めてだった。正直、今までラルちゃんの話を聞いても、魔王がどういう存在なのかいまいち理解できなかった。そりゃあ、ラルちゃんを傷まみれにしたひどいやつだとか、そんな風には思っていたけど、ようやく今回の件ではっきりした。

  魔王は人の命をなんとも思っていない正真正銘の悪魔────俺1人すら自分で殺せないヘタレ野郎だ……ッ!!

「感情的になっても仕方ない────と言いたいところだけど、連中のやり方に腹を立ててるのは、お互い同じみたいね」

  エナさんはそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。彼女は突然、街の方へ自分の両腕を突き出すと、神経を研ぎ澄ますようにそっとまぶたを閉じた。

「お、おいエナ殿、何をする気だ?」

「────今から3人で、あの魔王様のとこに殴り込みしてやるのよ。どのみちラルちゃんも、あいつに聞きたいことが山ほどあるでしょ?」

「も、もちろんだ……! だが、いったいどうやってヤツのところに___」

  瞬間、エナさんの体を稲妻のような赤い光が覆った。ズシャン!という雷が落ちたような音、彼女の背中を流れる深紅の髪が、そんな激音と共に荒々しくなびいていく。

  その光景は、今までのどんなことよりも非現実的で────目を惹かれるものだった。

  やがて、街の外には幾何学的な模様の……言わば魔法陣のようなものが、大々的に光を放っていた。

「さぁ、準備は整ったわ! 2人とも早く、今すぐあの中に飛び込むのよっ! 急いで!」

  エナさんはとんでもなく焦った様子だった。それどころか、肩で息をするくらいに疲れ果てているようだった。

あの魔法陣みたいものは、おそらく向こうの世界に繋がる入口のようなものなのだろう。一度入ってしまえばおそらく、エナさんの手を借りない限りこっちの世界にはもどってこれないだろう。

「いまひとつ理解が追いついていないが、これでようやく元の世界に戻れるわけだな……! エナ殿、本当に感謝する!」

  まるで先陣をきるようにして、ラルちゃんはためらない無く光の中へと飛び込んでいき、消えてしまった。

「ほら真くん、君も早く行って……!! このままじゃ、私が入る前に魔力が尽きてしまうわ……」

「────あの……エナさんはここに残ってくれませんか?」

「えっ!? な、なに言ってるの! 私が一緒に行かなかったら、こっちの世界に帰って来れなくなるのよ!?」

「それは分かってます! でも、向こうがこっちの世界に手出しできる以上、いつまた無関係の人たちが標的にされるかわからない……。もしそれで虎姐たちが巻き込まれたりしたら……そう考えると耐えられないんです……」

  図々しいことは自分でも分かってる。だが、連中の狙いが俺である以上、今自分が虎姐のそばにいるわけにはいかない。もしまた向こうがなにかを仕掛けてきたとしても、俺は周りの人たちを守れる自信がないんだ。なにしろ相手は、死んだ人間を操り人形にするような狂った連中なのだから。

「────ああもう! 分かったわよ……。 こっちの世界でなにかあっても、必ず私がなんとかするわ
。だから真くん、なにがあっても怯まないで、あのクズの思い通りになんかさせては駄目よ」

「もちろん、分かってますよ!」 

  こんな俺のわがままを素直に受け止めてくれたんだ。エナさんの分まで、あの魔王にはありったけの怒りをぶつけてやる……!

  そんな思いを胸に、俺は全速力で魔法陣の中へと飛び込んだ。

  


  











  

  






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