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金髪騎士はオレの嫁

オンスタイン

12話 「2日目の朝」

  波乱万丈の夜が過ぎ去った次の日の朝。アパートの窓から差し込む陽の光で目を覚ます。

  昨日の不調がすでに収まっていることを感じて、寝起き直後の虚ろな意識でなんとなく辺りを見回す。とはいっても、目に留まるものは少ない。今いるこの部屋だと、あるのは机とベットの2つだけ。服はクローゼットの中にすべて入れてしまっているので、なんとも殺風景な空間だ。

そんな中で、机を隔てた先に、ラルちゃんがタオルケットに身を包んですぅすぅと寝息を立てていた。昨日はラルちゃんに言われたとおり、夕飯を食べてすぐ寝てしまったのたのだが、机の上から食器や鍋などがなくなっているところを見ると、彼女が後片付けまでしてくれたのだろう。

「さすがに……申し訳ないな……」

  半開きの目を擦り、ベットから体を起こす。今思うと、働き者の彼女が地べたで寝ているというのに、何もしていない俺がベットを使うのはおかしな話ではないだろうか?────いや、さすがにラルちゃんも男の寝床なんて使いたくないか……。

とはいえ、体調が良くなったのだから、この子に昨日の恩返しくらいはしなければ。

  俺は枕元からスマホを取って、ベットを下りる。そうだ、朝ごはんを作ろう。目玉焼きトーストぐらいなら、料理センス皆無の俺でも作れるし、パンならラルちゃんも喜んで食べてくれるだろう。
 
我ながら素晴らしい考えだと思いながら、意気揚々とキッチンへ足を運ぶ。カップ麺などが入った棚から食パンを取りだし、2切れ分をオーブントースターに入れてスイッチを押す。次に冷蔵庫を開けて卵を───あと一つしかない……。

ラルちゃんに2日間、ご飯を作ってもらったことで、冷蔵庫の中身はだいぶん少なくなっていた。元々、この中にあったものは、ここのアパートの大家さんが、毎月『みかじめ料です!』とか訳の分からないことを言って押し付けてくるものだったのだが、とりわけ自炊はしないタイプだったので、もらっても消費に困っていた。

「まぁ、目玉焼きはラルちゃんの分だけ作れればいっか」

  最後の卵を冷蔵庫から出して、空になった卵パックをゴミ箱に投げ捨てる。それからフライパンをコンロにセットしてガスを点火し、鉄板が温まるまでの待ち時間に入る。ポケットからスマホを取り出して時間を見ると、今は9時50分だった。

ラルちゃんも、そろそろ起きてくるかもしれないな。




  結局、朝食が出来上がってもラルちゃんはぐっすりと寝たままだった。起こすのも悪いので彼女の向かい側に座ってスマホでもいじることにした。ウチにはテレビがないので、たまには携帯でニュースでも確認しないと、世間話がなにも入ってこない。

ブラウザを開けば、トップページには様々な記事が流れてくる。政治家の汚職話、芸能人の不倫騒動、行方不明となった児童の話────なんだよ、嫌な話ばっかりだな……。

中でも一際目にとまったのが、数日前に新宿で起きたという暴力事件だ。なんでも、街中のナイトクラブで、ガラの悪い集団客がスタッフと揉めて、大事になったらしい。

「やっぱり新宿は怖いなー……。凶刃会が管理してる地区だって聞くし」

  もちろん、ヤクザが管理している街という点でいえば、新宿に限らずこの渋谷も危険な街ではある。しかし、我らが仁龍会は、凶刃会とは違って自分たちの町を守るための組織だ。と虎姐が前に言っていた。まぁ、本当かわからないが……。

なんてことを考えていると、狙ったかのように虎姐からメーセージが届いた。

『おっは〜。昨日、定例会を途中リタイアした真くん。罰として、君には二日酔いとなった虎子所長の看病を命じます。昼からでいいから事務所にきてねー……』

  なんとも自分勝手な文章にため息をつきたくなったが、今は不思議と笑えた。事務所のデスクで突っ伏している虎姐の姿を想像しながら、俺は『今度は事務所にいてくださいね』と彼女に返信してスマホを閉じた。

「────んん……なんだ、もう朝なのか……?」

  机の向こう側で、ラルちゃんが眠そうに目を擦りながら起き上がった。

「ああ、おはようラルちゃん。昨日は色々とありがとね。おかげさまでもう体調はバッチリだから!」

「そうか、それはなによりだ……。んっ? これは────」

  机に置かれたプレートを見て、彼女が目を丸くする。

「朝ごはん作ったんだ。すごく簡単なものだけど、パンならラルちゃんも喜ぶと思っ___」

  そう話すのも束の間、ラルちゃんは俺のことを無視して、幸せそうに朝食を頬張っていた。

「うむ……うむうむ……!! 美味だ……! 最高に美味だぞこれはッ!」

「もー! 最後まで聞いてよぉ!」




  お互いのお皿が空になった後、ラルちゃんが「真、昨日のことだがな」と真剣な面持ちで話を切り出した。

「昨日のこと?」

「ほら、お前は昨日、帰りに襲ってきたチンピラ2人を、素手で打ちのめしただろう?」

「あぁ……うん。あの時は、勝手に体が動いたんだよ。比喩表現とかじゃなくて、ほんとに手足が自我を持ったように動き出して……。そういえばラルちゃん、昨日なにか心当たりがあるって言ってたよね?」

  うむ。と彼女が頷く。正直、あの時のことは思い出しただけで頭痛がする。目が白く光ったヤクザに狙われ、それに抗うかのように自分の手足が勝手に動き出したのだ。そんなの、あまりに非現実的すぎるじゃないか……。

「昨夜、お前の身に起きた現象、あれは魔物のオーバーリミット限界超過によく似ていた

「オーバーリミット……?」

「魔物が瀕死に陥った際に起こる現象だ。翼のない魔物が空を飛んで逃げたり、小柄で軟弱な魔物が自分の倍以上の岩を持ち上げてなげつてきたり、普通では考えられないような動きをとる。言うなれば、迫り来る死を回避するために、魔物が自身を急速的に進化させているようなものだな」

「な、なるほど。つまりあの時、俺の体が勝手に動いてヤクザを倒したのは、そのオーバーリミットっていうやつのおかげなのか────でも、それって瀕死の魔物に起こるものなんだよね? 別に俺、あの時は瀕死どころか無傷だったし……そもそも、魔物に起こる現象が魔人にも起きるの?」

  重なった俺からの質問を受け、ラルちゃんが水の入った自分のコップに口をつける。それから一呼吸を置いて、彼女は再び口を開いた。

「起こるさ。魔人は、人型の魔物と言っても差し支えないからな。それと、これは私の推測になるが、オーバーリミットの発動に、瀕死かどうかはおそらくそこまで影響しない。肝心なのは、自身が命の危険に晒されているという強い危機感を持つことだ」

  「心当たりがあるだろう?」とラルちゃんが机に身を乗りだしてきた。いきなり顔が近くなったことにドキリとしながらも、俺はその問いに頷く。この子の言うとおり、あの時は襲いかかってきた2人を前に為す術もなく、自分はこのままだと殺されると反射的に思ったはずだ。

「じゃあ俺って、めでたく人間卒業……?」

「そんなめでたいものではない。まぁ、これで私も心置き無くお前を魔人扱いできるというわけだな」

  なんてことを言いながら、ラルちゃんがフッと鼻を鳴らす。もっとも、俺は彼女と出会ったときからすでに人間扱いされていなかったのだが。

  目の前の少女に自分の不満を表現しようと、唇をとがらせていると、滅多にならないインターホンの音が部屋中に響いてきた。一体どこのだれがこんなニートのところに呼び鈴を鳴らしに来たんだ??

変な人だったらどうしよう……という一抹の不安を抱えながら腰をあげると、即座にラルちゃんが俺を手で制してきた。

「私が出よう。昨日の今日でやつらがまた仕掛けにきたのかもしれん」 

「えぇ……。さすがにそれはないと思うけど」

  いいからそこにいろと彼女に言われて、渋々うなずくと、ラルちゃんは用心深く玄関へと忍び寄っていく。ジリジリと1歩ずつ丁寧に。

“ピンポーン”

  出るのが遅いために、再びインターホンが鳴らされたので「早く開けてあげて……!」とラルちゃんに声をかける。まさかあの子、ドア開けた瞬間に殴りかかったりしないよな……?

ようやく少女の手がドアノブまで伸ばされ、玄関がゆっくりと開かれる。反対側の手を見ると、案の定、彼女が握り拳を作り始めていたので、俺は慌てて止めに入った。

「あっ、朝からすみませんねぇ。警察のものですが────」

  尋ね人は、俺たち2人を見て目を丸くしていた。いや、おそらく目を引いてるのはラルちゃんの方なのだが……。

「何の用だ?」

  敵意丸出しなラルちゃんの声に、警察の男は焦って「は、はい! えっとぉ……」と言いながら後ろ髪を掻き回していた。

「昨日、ここの近所で凶刃会のチンピラ2人の死体が出てきたんだけど……君たちなにか知らないかな?」












  
  

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