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金髪騎士はオレの嫁

オンスタイン

11話 「兆し」

  暗闇が立ちこめる夜の路地。負の感情に侵された俺にとっては、この景色がより一層暗く感じられた。しかし、そんな時だからこそ、目の前にいる彼女の金色の髪が、よく輝いて見える。

「あの2人、どこか見覚えがあるな」

  ラルちゃんは、前にいる男2人を見てそう呟く。彼女の言う通り、自分もあの容姿には見覚えがある。色々なことがありすぎて混濁した記憶の中を必死にさかのぼると、すぐに答えが出てきた。

「思い出した! あの2人、昨日家の前で俺たちを襲った凶刃会の人たちだよ」

  とっさに彼女へ報告すると、驚いた様子でこちらに振り返ってきた。

「お、お前……。下がれと言っただろう」

「感情的にならず冷静に判断した結果、ラルちゃんから離れすぎない方がいいと思っただけだよ」

「なにが“冷静に”だ。危ないから早くどこかに隠れていろ」

  こちらを睨むラルちゃんを横目に、俺は男たちを観察した。というのも、さっきから俺の体調が悪いのは、きっとあの2人の影響なのだ。

その証拠に、男たちから人間とは到底思えないような異質な気配を感じる。自分でもバカげたことだと思うが、その異様さは彼らの見た目からも見て取れるのだ。

  生気をまるまる吸い取られたような目。体は糸で繋がれた人形のように無気力な状態。そして極めつけに、両者の瞳が時々、白く光っていた。

  信じられない……。俺が今見ているのは本当に現実のものなのか?

  狼狽える俺に追い討ちをかけるかのように、次の瞬間、男たちは一斉に動き出した。ふらふらだった状態からは想像がつかないほどの猛スピードで、こちらに全速力で走ってくる。

「考え無しに突っ込んでくるとは、相変わらず舐めたやつらだな!」

  ラルちゃんは軸足を後ろに下げて身構える。正面から向かってくる敵が、彼女の間合いに物怖じせず入り込む。

「ラルちゃん気をつけて!! そいつら、昨日とはまるで別人____」

  そう言いかけたところで、事態は思わぬ方向に進んでしまった。

「なっ……!!」

  ────男たちが彼女の横をするりと通り過ぎたのだ。というか、彼女のことなど眼中にも入れていない様子だった。

  そのおぞましい眼は今、本当の標的に狙いを定めている───

「真っ! 早く逃げろ!!」

  顔を真っ青にして、ラルちゃんがこちらに叫びながら走ってくる。しかし、先頭を切っているのはもちろん、目を光らせた怪物2人組。彼女がヤツらに追いつく気配もない。

「ど、どうしよう……!」

  どうするもなにも、このまま後ろを向いて逃げるのが正解なのだろうが、いかんせん背中を向けるのが怖すぎる。というかもう手遅れな気がする。

  男たちの振りかぶった拳が、すでに自分の頭上へ影をつくっていた。もう次の瞬きをする間もなく、その拳は振り下ろされるだろう。

  もう無理だと思って、反射的に手で頭を覆った。

  その時だ。無意識に死を予感した瞬間、俺は突然、なにかに体の自由を奪われた。具体的にいうと、自分の足が勝手に動いたのだ。

その足は、俺に鉄槌を下そうとしていた怪物の腹にものすごい勢いで捻り込み、まるで真空の音が聞こえてくるかのような衝撃のあとに男の体を数メートル先へと吹き飛ばした。

「えっ!? い、今のやつ、俺がやったのか……?」

  訳が分からないまま、今度は腕が動き出した。握り拳になった自分の手の甲が、残った男の顔面に打ち付けられ、かさず伸びてきたもう片方の腕によって、男は横にあった電柱まで飛ばされた。

  自分を襲ってきた怪物は、もう両方とも動いていない。目の前に残っているのは、唖然とした顔でこちらを見つめる金髪碧眼の少女ただ1人。

「ら、ラルちゃん……俺……どうしちゃったんだろ……?」

  呆然としながらラルちゃんに歩み寄るも、途中で足に力が入らなくなって、俺はその場に崩れこむ。

「お、おい……! 大丈夫か!?」

  慌ててやってきたラルちゃんが、その場にしゃがみこんで、俺の体を一瞥した。

「外傷はなさそうだが……どこか痛むか?」と彼女が顔をのぞかせた。

「怪我は……大丈夫だと思う。ただ、体調はあまり良くないみたい……」

  頭はズキズキ痛むし、少量の吐き気と目眩もする。これ以上にない最悪のコンディションだった。

「さっきのお前の動き……少し心当たりがあるかもしれない」

「えっ……? ほんとに……?」

「ああ。だが、その話は明日にしよう。今はその死にそうな顔をなんとかするべきだ────家まで歩けるか? 真」

「う、うん。なんとか頑張るよ……」




  ふらつき気味な体を、ラルちゃんに支えてもらいながらも、なんとか家まで帰ってきた。

ポケットから鍵を取り出してドアノブに差し込むと、ラルちゃんが代わりに扉を開けてくれた。

「ありがとう……」

  中に入り、すっからかんの玄関口に靴を脱ぎ捨てて、俺は足早にリビングの寝床へと倒れ込んだ。ドっと押し寄せる疲労感と共に、今日一日の様々な記憶がフラッシュバックしていく。

  本当に今日は色んなことがありすぎた。

  1番の特ダネはもちろん、俺が魔人だったということだが、正直未だに信じきれてはいない。

─────俺は改めて自分の手を見つめた。

  さっき男たちを退けた自分はなんだったのだろう?────眉をひそめて考えていると、ラルちゃんが遅れてリビングに入ってきた。

「お前、本当に怪我はしてないんだな?」

  ラルちゃんがもう一度注意深く俺の体を観察しながらそう言った。

「してないよ……。そんなに俺がすぐ死ぬと思ってるの?」

  つい不機嫌そうに返してしまったことを後悔して、枕に顔をうずくめる。

「別にそうは思っていない。ただ、万が一ということがあるからな。お前も今まで以上に、自分の体を気遣え」

  ラルちゃんはそう言うと、「夕飯を作ってくる」とキッチンの中へ消えてしまった。

  どんだけ心配されてるんだよ……。

  キッチン入口の角を見つめながら、俺は鼻で、ため息をつく。

  彼女がこんなに疑い深く聞いてくるのは、きっと俺に死なれては困るからだろう。4年前に彼女が体験した厄災という惨劇、魔人である自分が死ねば、再びそれが起こってしまう。だからこそ、彼女は俺の身を案じている。

  あの子が俺を守ると言ってくれた時、心の底から嬉しかった。自分は彼女にとって大切な存在なんだって、そんな都合のいい思い上がりをしていた。というか、男が女の子に体を張って守られていること自体、恥ずかしい話だと思う。

  でも結局、ラルちゃんが気にかけているのは、魔人としての俺の命だけ。彼女に恋をしている八目 真という人間は、しょせん赤の他人ぐらいのものなのだろう。そんな当たり前のことが、悔しくてたまらなかった。

「もしかして怒っているのか? 真」

  キッチンからそんな言葉が飛んできて、俺は飛び跳ねるようにベットから起きた。

「えっ!? ど、どうしたの? いきなり」

「先ほど私と話したとき、不満そうな顔をしていたからな」

  あぁ良かった……。あんな事を考えてたもんだから、てっきり頭の中でも読まれたのかと思った。内心ドキドキしながらも、俺は見えない彼女に返事をする。

「べ、別に怒ってたわけじゃないよ?───さっきのはその……ちょっと寂しくなっただけだよ」

「寂しく……? なぜ寂しくなるのだ?」

「恥ずかしいから言いたくありません」

  今度は少し意地悪っぽく返してやった。「変なやつだ」という言葉がすぐに飛んでくる。きっと訳がわからず顔をしかめているんだろうな。

  気がつけば、ラルちゃんのいる方からはとてもいい匂いがし始めていた。俺は料理にあまり詳しくないからなんて例えたらいいのかわからないが、和風……? よりのなにかだと思う。もしかして、ラルちゃんのいた世界でも、和風料理は存在するのだろうか?────思い返せば、昨日彼女が作ってくれた野菜炒めも、いちおう和食に属するはず。

「ラルちゃんのいた世界の人たちって、普段どんなもの食べてるの?」

「そうだな……。ブルタニアでは小麦を使ったパンなどが主食とされていたな。パンとは一言で言っても、小麦の種類によって味や食感が異なる。我が国で小麦の生産が始まったのは、王暦12年のことなのだが、その頃の国民は、食に対する価値観が────(以下省略)」

  恐ろしいほどの饒舌っぷり。あの子の異常なパン好きは、自分の国の食文化が影響してたんだな……。いつまで続くんだろ、パンの話。

「つまり、私のいた世界とこちらの世界、両方とも食文化はさほど変わらないんだ」

  それから続けざまに「夕飯、出来たぞ」と言って彼女がキッチンから体を出してきた。調理用の鍋をまるまる運んできて、リビングの机に置こうとしていたので、俺は慌ててチラシを下に敷いて鍋敷きとした。

今日の献立は、雑炊だった。卵がとじられてるオーソドックスなものだったが、だしのいい匂いが鼻をかすめてきて、食欲を奮い立たせる。

「雑炊かぁ……!! 食べるのすごい久しぶりだよ!」

「体調が悪いときにはちょうどいいと思ってな。これを食べたら、また横になって休んでおけ」

  鍋の中の雑炊をお椀によそって、ラルちゃんはこちらに差し出す。

「ラルちゃん、なんだかお母さんみたいだね」

  そう言って笑いながらお椀を受け取ろうとすると、俺の手は何も掴めずに虚しく空をきった。前を見ると、彼女の咎めるような視線とばっちり目が合ってしまい思わずビクリとする。

「ずいぶんとふざけたことを言うではないか────お椀に土でもよそってやろうか?」

「本当にごめんなさい」

  ため息をつきながら再度差し出された雑炊を、ありがたく受け取り、俺は疲れきった自分の体に、ラルちゃんの手料理を腹いっぱい流し込むのだった。




















  
  

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