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金髪騎士はオレの嫁

オンスタイン

10話 「不吉な予感」

  エナさんとの話が終わったあと、俺たちは一足先に帰路へとついた。あんな話を聞いたあとで、定例会にい続ける気にはなれなかったのだ。

「____」

  スロットを握り、ただ無言でバイクを走らせ続ける。もう左胸の痛みは治まったが、それでもまだ、体には違和感が残っている。

  人間じゃないんだよな……俺って。

  そう思うと、体が無意識に震えだした。自分が何者なのかを見失ったとき、人はこんなにも恐怖するのだと、身をもって実感した。

「───おい……おい真!」

「は、はい!!」

  突然後ろから肩を揺らされ、驚きのあまりハンドルをふらつかてしまう。慌てて軌道修正したのはいいものの、心臓はバクバクだ……。

「あ、危ないから肩を掴むのはやめ___」

「うるさい! さっきから何回声をかけたと思っているのだ!?  エナ殿の話を聞いて動揺しているのか知らないが、いい加減、現実を受け止めろ!」

「うっ……。ご、ごめん。まだ気持ちの整理がついてなくてさ……。虎姐にも、心配かけちゃったし」

  帰り際、やつれた俺の顔を見た虎姐が、不安げな表情で駆け寄ってきてくれた。いつもは人をこき使ったりやりたい放題の彼女だが、なんだかんだで俺の面倒を見てくれているのも事実。

  カジノに置き去りにしたことも含めて、後日またちゃんと謝ろう。

「真、お前、本当にあの話を知らなかったのか? ヘリオスと同じ親のもとに産まれたはずのお前が、異世界のことはおろか、やつのことをなにも知らないというのはおかしいだろう」

  そんな問い詰めるような口調で、ラルちゃんが俺に語りかけてきた。

  俺は困った。彼女の質問に答えるには、1番人に言いたくない自分の生い立ちのことを説明しなければならないからだ。上手くごまかそうとも考えたが、今の状況でそんなことをしたら、底をついた彼女からの信頼をさらに下げてしまう。それなら、すべてを話した方がマシだ。

「俺さ……捨て子だったんだよ。赤ん坊の時から」

「なに?」

「道端に放置されてたのを、孤児院の人に引き取られたみたいでさ。物心ついたときには、今の里親のところにいたんだよ。だから本当の親は見たことがないし、どこの誰なのか今でもわからない」

「……ヘリオスは、先代のデルカ国王“エンデ”と王妃“エリザ”の間にできた子だ。お前の肉親にあたる人物も、この2人で間違いないだろう。だが───」

  彼女はそこまで話して、なぜか気まずそうに言葉を切った。

「なにかあったの? その2人に」

「───2人とも、4年前に死んだのだ。ヘリオス1人を残してな」

「えっ!?」

  なんてことだ……。20年間知りえなかった肉親の正体がようやく分かったと思ったのに、2人ともすでに死んでいるなんてあまりに衝撃的すぎる。

  ……死んだのは、4年前か。確かエナさんの話で出てきた“厄災”っていうのが、同時期に向こうの世界で起きたって、ラルちゃんが言ってたな。────もしかして、肉親の死にもそれが関わってるのか?

「2人は、厄災が起こった日に殺された。───いや、2人だけじゃない……。あの惨劇は、各国に住まう罪なき人々の命を大勢奪ったのだ……!!」

  彼女の吐き出す声は、救いようのない悲しみと憎しみに満ち溢れていた。背中越しに、彼女の息が荒くなっているのを感じる。

「ラルちゃん……厄災ってなんなの?」

「───4年前に突如として起こった、凶暴な魔物による一斉襲撃事件のことだ。デルカやブルタニア、その他3カ国すべてを巻き込む大惨事となったが、その原因は不明とされてきた……」

「でも、エナさんは言ってたよね。“厄災は、死んだ魔人から抜け出た魔力に釣られて、魔物たちが集まってくるから起こるんだ”って」

「ああ。4年前に起こった厄災も、魔人の死によってもたらされたのだろう。問題は、事件のトリガーを引くこととなった魔人が誰なのかという点だ」

  なるほど。ようやく状況が飲み込めてきた。

  俺とヘリオスを産んだ両親が死んだ4年前。そして、それと同時期に起こった、魔人の死によってもたらされる厄災という惨劇。今までの話を聞く限り、この2つの事件が無関係とは到底思えない……。となると、厄災の引き金をひいたのは───

「俺の肉親……。4年前に死んだ魔人っていうのは、きっと2人のことなんじゃないかな」

「そうだな、私も同じ考えだ。魔人であるお前とヘリオスを産んだ親が、普通の人間だなんてことはまずないだろうからな」

  そう聞いて、記憶にもない自分の親の姿を想像する。魔人という人ならざる存在だった父と母は、おそらく今までの俺と同じように、普通の人間として生活していたんだと思う。そうしなければ、魔人である2人は、人々の敵になってしまうはずだから。

「2人は、なんで死んだのかな?」

  そんな素朴な疑問を口にしてみたが、ラルちゃんからの返答はすぐ返ってこなかった。
   
  束の間の沈黙のあと、彼女は頭に浮かんだ推測を絞り出すかのように、か細い声で話し始めた。

「考えられるのは、魔人であることが外に漏れて暗殺されたという可能性だな。腕利きの魔術師に囲まれたりすれば、魔人2人といえど、さすがに苦戦を強いられると思うのだが……。すまない、私もその辺はよく分かっていないんだ」

「そっか……。教えてくれてありがとう、ラルちゃん」

  そう言うと、ラルちゃんは少し照れくさそうに、気にするなと返してくれた。俺が魔人とわかってなお、彼女がそういう反応をしてくれることに強く心を惹かれながらも、俺は安堵していた。

「とにかく、厄災が魔人の死によってもたらされると知った今、お前とヘリオスを死なせるわけにはいかない。やつの安否を確かめるためにも、早急に向こうの世界に帰るぞ」

「うん……!────い、いや、ちょっと待って。俺も向こうに行くの?」

「当たり前だろう。お前は私が付きっきりで監視をする。本人に自覚がなかったとはいえ、腐っても魔人であるお前を、私は信用しないからな?」

「えぇ……なんだよそれ。さっき普通に俺の話聞いてくれてたじゃん……」

「そ、それとこれとは話が別だ」






  それから程なくして、俺たちは虎姐の事務所まで帰ってきた。携帯を取りだして時刻を確認すると、今はちょうど8時を超えたあたりだった。
ただでさえ人気がないこの路地は、夜になっても活気づくことはない。暗闇を街灯で照らすだけの静かな空間には、もはや不気味さすら感じられる。

「なぜここで降りる? どうせなら家まで乗った方が早いではないか」

  駐輪場でエンジンを切ると、ラルちゃんがそんな不満を口にしてきた。  

「それはそうなんだけど、あくまでこれ、事務所のバイクだからさ。俺が勝手に乗って帰ったら、きっと恋白さんが怒ると思う」

「恋白……昼間、少年と一緒にいたあの女のことか。───あいつ、只者ではないぞ」

  ラルちゃんが急に顔を強ばらせてそんなことを言うものだから、俺の体にも変な緊張が走ってしまった。

「それって……腕っぷしが強いってこと? まぁ確かに恋白さん、ヤクザになる前も、学校とかで色々と暴れたりしてたらしいし、喧嘩の場数とかは踏んでるんじゃないかな……。でも、ラルちゃんだって負けず劣らずの強さだと思うよ?」

「ふん、余計なお世話だ。───まぁいい、外は冷えるし、早く家に帰るぞ」

「そうだね。夕飯もまだ食べてないし……」

  そう言いながら、ラルちゃんに媚びるような視線を送ってみる。

「……まさか、また私に夕食を作れというつもりか? 」

  よく分かってるじゃん!という意味合いを込めて、俺は数回頷いた。ため息をつかれたものの、ほどなくして、彼女は了承の返事をしてくれた。

「まったく、なぜ私が魔人の空腹を満たしてやらねばならんのだ。バケモノらしく、その辺の土でも食っていればいいものを」

「ひ、ひどいなぁ。バケモノでもさすがに土は食べ___」

  思わず言葉が切れた。信じられないほどの強烈な寒気が、なんの前触れもなく突然、俺の体を襲ってきたのだ。

  前の視界がぐにゃりと歪み、自分が今どこに立っているのかを一瞬見失う。

「真……? どうかしたのか」

  横にいるラルちゃんが、不安そうな顔でこちらを覗き込む。

「わ、わからない……。でも、なにか良くないものが、こっちに近づいてきてる気がする……」

  苦し紛れになりながら顔を上げると、少しはっきりとした視界に、人影が2人映りこんだ。それを認識したとたん、頭にピキリとした痛みが何度も走っていく。

「くっ……!」

  苦しい……怖い……!

  俺は、たまらなくなってその場から逃げ出そうとする。が、なぜか足が思うように動いてくれない。

「なんで動かないんだよっ!」

  やり場のない焦りと苛立ちを、役立たずな自分の足にぶつける。するとラルちゃんが「落ち着け!」と怒鳴って、強引に俺の腕を足から引き離した。

「いいかよく聞け。真、お前の命は私が守ってやる。だから、お前はなにがあっても冷静でいろ。不安や恐怖で感情的になることだけは避けるんだ」

  彼女は俺の両肩に手を添えて、「いいな?」と優しく問いかけてきた。それにぎこちない様子で頷くと、彼女は羽のように柔らかい笑みをこちらに返して、それから背を向けた。

  彼女の見つめる先には、有無を言わない不気味な男が2人立っている。

「真、巻き込まれないように下がっていろ」

  そう言って、ラルちゃんは虎視眈々と男たちに詰め寄っていくのだった。

 


 


  






  
  

 

 











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