金髪騎士はオレの嫁
8話 「定例会」
  あれから恋白さん先導のもと、長い距離をバイクで走ってきたわけだが……正直、死ぬかと思った。免許をとってから今までの約2年間、バイクにはほとんど乗ってこなかったとはいえ、それがこんなにも自分を苦しめることになるとは……。
「ふむ、バイクとは実に便利な乗り物だな。個性的な運転だったぞ、真」
「あぁ、気に入っていただけたようで良かったよ……」
「おい2人とも、こっちに来い」
  そう催促されて、2人でバイクの元を離れる。今いるここは、渋谷から少し離れたところにあるとある歓楽街だった。夕方前とはいえ、街の表には、早くも酒に酔わされた人間がちらほらと目につく。
「──着いたぞ。ここが定例会の会場だ」
  連れてこられたのは、こじんまりとした外観の商業ビルだった。奥にある入口にはエレベーターがぽつりと佇んでいるだけ。
「ここが? ずいぶんと地味なところですね」
  そう言うと、恋白さんと一緒にいる策くんから苦笑いされた。
「ほかの人たちに言わない方がいいですよ……? 多分、殴られます」
「だ、だよね。忠告ありがとう……」
  ほんとに生きて帰れるだろうか……?
そんな不安を抱えながら、俺はエレベーターに乗り込む。中の操作盤を見ると、1~3階までのボタンがあり、恋白さんが押したのは最上階の3階だった。
  ドアが閉まり、空間がゆっくりと上昇を始める。その間、ふと後ろを見やると、金髪の少女が何やら考え事をしながら、壁に背中を預けていた。
「────」
  声はかけない。だって彼女が考えていることはきっと、自分がいた元の世界のことだろうから。無関係の俺が口を出したところで、また行きしの時のように彼女を怒らせてしまうだけだ。
  俺がそう割り切って待っていると、いつの間にかエレベーターは、3階に到着していた。ピコーンという開閉音と共に扉が開き、最初に目に飛び込んできたのは、“長靴のネコ”と書かれた飲食店の入口だった。───店名のインパクトがすごいのは言うまでもない。
「この中に組員たちが集まっている。虎姐もここにいるだろう」
「僕、先に入ってお父さんに到着したって伝えてきますね」
  そう言って策くんは、一足先に店の中へと入っていってしまった。一瞬開いた扉の隙間から、中のガヤガヤとした声が漏れ出てくる。
「やっぱり会長さんもいるのか……」
「いなきゃ定例会にならんからな。──怖いのか?」
「……会っていきなり、小指切れとか言われませんよね?」
「それはお前の態度次第だな」
  やばい、今すぐ回れ右して帰りたい。  
「そんな顔をするな。心配しなくても、親っさんはカタギに手は出さないさ」
「はぁ……ならいいんですけど」
  これもラルちゃんを助けるため……腹を決めよう。
「───入るぞ」
  いよいよ恋白さんが入口に手をかけた。さっきと同様、扉が開いたとたんに声が騒がしくなる。ヤクザの定例会っていうのはもっとこう、厳格な雰囲気でやるもんじゃ……いや、もし本当にそんな大事な会なんだったら、虎姐もわざわざ俺を呼んだりしないか。
  ふぅー……
  長く息を吐いて、気持ちを引き締める。会長さんに会ったら、まずは頭を下げて挨拶……いや、土下座の方が誠意がこもってていいのか……?
  そんな情けないシュミレーションをしながら、店の中へと入っていく。
  中の様子はさぞかし賑やかなものだった。手前にあるカウンター、奥に見えるお座敷、どこも組織の関係者でいっぱいみたいだ。そのうちの何人かは虎姐の事務所でも見かけたことがあるが、あとの人たちはまったく知らない。ああそれにしても……いい匂いだなぁ。
「真くぅ〜ん!!」
  死角から聞こえてきた正体不明の大声。一体だれだ? そんなことを確認する間もなく、声の主は俺に抱きついてきた。
「う、うわぁ!!」
  その勢いの強さに、俺の体はバランスを崩して転倒してしまう。尻の痛みに顔を歪ませながら上を見上げると、抱きついてきた犯人がふわついた笑顔でこちらを見ていた。
「いってぇ……! いきなり何するんですか!虎姐!」
「いやぁ、ごめんごめん。まさか真くんが来てくれるとは思ってなかったからさぁ〜」
「は、はぁ!? あんたが俺を来させるように仕組んだんでしょうが!」
「えぇ〜? やだなぁもう。細かいことは気にしない気にしな〜い」
  そんな調子のいいことを言って、彼女は俺の肩を掴んでグラグラと揺らしてくる。あーもう……どんだけ酔ってんだよこの人。
「──虎姐、会長は奥のお座敷に?」
「あ〜うん。じっちゃんなら奥で元気にやってるよぉ」
「分かりました。───真、お前たちは虎姐に用があるんだろ?」
「え、ええ。でも会長さんがいるなら、先に俺たちも挨拶した方が……」
「いや、それはまた今度でいい。もうここまで場が盛り上がってるんだ、きっと親っさんも、すっかり酔いが回りきってるさ」
  そう言葉を残すと、恋白さんは店の奥へと行ってしまった。酔いきってるのは虎姐も同じなんだけどなぁ……。
「私に用? なんの話ぃ?」
「あー……虎姐の知り合いに、異世界から来たっていう人、いるんですよね?」
「んん……ちょっとよくわかんなぁい」
  わかんなぁいって……とぼけてんのか酒で記憶が飛んでるのかどっちなんだよ。
   虎姐のはっきりしない物言いに嫌気がさしたのか、そばで見ていたラルちゃんが圧をかけるように虎姐へと詰め寄る。
「人を振り回すのもいい加減にしろ。なんの説明もなく私たちをこんなところに招待して、あなたは一体なにを考えているんだ……!?」
「ま、まぁラルちゃん! ちょっと落ち着いて……!」
  なんだかまずい空気になりそうだったので、俺は慌てて彼女を止めた。こんな大勢の人がいる前で、修羅場を展開させるわけにはいかない。
  たしかに、一刻も早く元の世界に戻りたいラルちゃんにとって、今の虎姐の態度は完全にふざけたものに見えるだろう。実際俺も虎姐が今なにを考えているのか、よくわからない。
「ではどうするのだ? これでは聞きたいことも聞けないだろう」
「うん。だからまずは酔いを覚まさせよう。ラルちゃん、コップに水くんできてくれない?」
「ああ、構わないが……。そんなもので酔いが覚めるのか?」
「この人の場合は覚めるんだ。次の日にはしっかり二日酔いするけどね」
  そうして虎姐に水を飲ませたあと、俺たち3人は、一旦店の外にでた。
「用件って、てっきり昨日電話で話したことだと思ってたんだけどー?」
  すっかり元の調子に戻った虎姐が、首をかしげながらそう口にする。
「たしかにそれも気になりますけど、今はそれよりも重要なことがあるというか……」
「重要って、私の知り合いの話? なんでそこまで知りたいの?」
  ……。そう聞かれると、なんて答えればいいのか分からない。仮にラルちゃんの身の上話をしたところで、すんなり信じてくれるかどうか……。
「──まぁいいや。会わせてあげる」
「えっ!? いいんですか!?」
  昨日は知り合いについて聞かれても答える素振りすら見せなかったというのに。今日になっていきなり会わせてくれるだなんて……いったいどんな風の吹き回しなのだろうか。
「そんな目で見なくたって、別にやましい事なんて考えてないよー? 昨日あれだけ気にしてたから、今日会わせてあげようと思ってたんだ。2人をここに呼んだのもそのため」
「そうだったんですね……。んっ? 俺たちをここに呼んだってことは、その知り合いの方も今日ここに来てるんですか?」
「イエス」
  すると虎姐は、俺とラルちゃんをエレベーターへと誘導した。この階に虎姐の知り合いはいないということだろうか? このビルは3階立てで1階は外に繋がる出入口だけ。残るは行ったことのない2階のフロアだけということになるのだが……。
「ほいほいほいっとー」
  中に入るやいなや、彼女は1~3の数字が描かれた操作盤のボタンを、不規則に何度も押してみせた。はたから見れば遊んでいるようにしか見えない。
「なにしてるんです……?」
「映画とかでよくあるじゃん? エレベーターのボタンを決められた順番で押すと、どこの階でもない隠し部屋に行くってやつ」
「ま、まあたしかにありますけど」
  このビルにもそういう仕組みがあるってことか? なんでそんなものを……。
  動き始めたエレベーターには、階数表示がされていなかった。感覚的に下に降りていっているのは分かるのだが、もう出入口である1階を通り越しているような……そう思ったところで、到着を告げる機械音が鳴った。
  扉の先に広がった光景は、3階とはまったく違うものだった。外の町と同じくらいにライトアップされたその空間は、ひと言で言ってしまうとカジノだった。普通に違法だ。
「なんというか……こういうの見ると、ヤクザって感じしますね」
「失礼だな〜。私のお気に入りの場所なのにー」
  そんな虎姐のつぶやきを聞き流しながら、カジノ全体を見渡す。中年層中心となった客が、ポーカーやブラックジャックといった代表的なテーブルゲームを楽しんでいる中で、一際目立つ赤髪の女性が目に入った。
「真! きっとあいつだぞ」
  俺と同じ女性に目をつけたラルちゃんが即座に駆け出していく。
「ちょ、ラルちゃん!」
  やや興奮気味なラルちゃんを慌てて追いかけると、赤髪の女性はこちらに気づいたようたようで、自分の持っていたカードをテーブルの上に置いた。
「はじめまして、カップルのお二人さん。お姉さんになにか用?」
  水色のカーディガンに身を包んだその女性は、思わず見入ってしまうような笑みをこちらに浮かべてくれた。
「あーもう……急に2人とも走り出すからびっくりしちゃった」
「あら虎子、久しぶりね 」
  後から来た虎姐が、女性に対して軽く手を振る。この人なのか……? 異世界から来た虎姐の知り合いというのは。
「そう。名前は平田 エナ、自称“異世界から来た魔法使い”で、私の親友だよ」
  
  
  
  
  
「ふむ、バイクとは実に便利な乗り物だな。個性的な運転だったぞ、真」
「あぁ、気に入っていただけたようで良かったよ……」
「おい2人とも、こっちに来い」
  そう催促されて、2人でバイクの元を離れる。今いるここは、渋谷から少し離れたところにあるとある歓楽街だった。夕方前とはいえ、街の表には、早くも酒に酔わされた人間がちらほらと目につく。
「──着いたぞ。ここが定例会の会場だ」
  連れてこられたのは、こじんまりとした外観の商業ビルだった。奥にある入口にはエレベーターがぽつりと佇んでいるだけ。
「ここが? ずいぶんと地味なところですね」
  そう言うと、恋白さんと一緒にいる策くんから苦笑いされた。
「ほかの人たちに言わない方がいいですよ……? 多分、殴られます」
「だ、だよね。忠告ありがとう……」
  ほんとに生きて帰れるだろうか……?
そんな不安を抱えながら、俺はエレベーターに乗り込む。中の操作盤を見ると、1~3階までのボタンがあり、恋白さんが押したのは最上階の3階だった。
  ドアが閉まり、空間がゆっくりと上昇を始める。その間、ふと後ろを見やると、金髪の少女が何やら考え事をしながら、壁に背中を預けていた。
「────」
  声はかけない。だって彼女が考えていることはきっと、自分がいた元の世界のことだろうから。無関係の俺が口を出したところで、また行きしの時のように彼女を怒らせてしまうだけだ。
  俺がそう割り切って待っていると、いつの間にかエレベーターは、3階に到着していた。ピコーンという開閉音と共に扉が開き、最初に目に飛び込んできたのは、“長靴のネコ”と書かれた飲食店の入口だった。───店名のインパクトがすごいのは言うまでもない。
「この中に組員たちが集まっている。虎姐もここにいるだろう」
「僕、先に入ってお父さんに到着したって伝えてきますね」
  そう言って策くんは、一足先に店の中へと入っていってしまった。一瞬開いた扉の隙間から、中のガヤガヤとした声が漏れ出てくる。
「やっぱり会長さんもいるのか……」
「いなきゃ定例会にならんからな。──怖いのか?」
「……会っていきなり、小指切れとか言われませんよね?」
「それはお前の態度次第だな」
  やばい、今すぐ回れ右して帰りたい。  
「そんな顔をするな。心配しなくても、親っさんはカタギに手は出さないさ」
「はぁ……ならいいんですけど」
  これもラルちゃんを助けるため……腹を決めよう。
「───入るぞ」
  いよいよ恋白さんが入口に手をかけた。さっきと同様、扉が開いたとたんに声が騒がしくなる。ヤクザの定例会っていうのはもっとこう、厳格な雰囲気でやるもんじゃ……いや、もし本当にそんな大事な会なんだったら、虎姐もわざわざ俺を呼んだりしないか。
  ふぅー……
  長く息を吐いて、気持ちを引き締める。会長さんに会ったら、まずは頭を下げて挨拶……いや、土下座の方が誠意がこもってていいのか……?
  そんな情けないシュミレーションをしながら、店の中へと入っていく。
  中の様子はさぞかし賑やかなものだった。手前にあるカウンター、奥に見えるお座敷、どこも組織の関係者でいっぱいみたいだ。そのうちの何人かは虎姐の事務所でも見かけたことがあるが、あとの人たちはまったく知らない。ああそれにしても……いい匂いだなぁ。
「真くぅ〜ん!!」
  死角から聞こえてきた正体不明の大声。一体だれだ? そんなことを確認する間もなく、声の主は俺に抱きついてきた。
「う、うわぁ!!」
  その勢いの強さに、俺の体はバランスを崩して転倒してしまう。尻の痛みに顔を歪ませながら上を見上げると、抱きついてきた犯人がふわついた笑顔でこちらを見ていた。
「いってぇ……! いきなり何するんですか!虎姐!」
「いやぁ、ごめんごめん。まさか真くんが来てくれるとは思ってなかったからさぁ〜」
「は、はぁ!? あんたが俺を来させるように仕組んだんでしょうが!」
「えぇ〜? やだなぁもう。細かいことは気にしない気にしな〜い」
  そんな調子のいいことを言って、彼女は俺の肩を掴んでグラグラと揺らしてくる。あーもう……どんだけ酔ってんだよこの人。
「──虎姐、会長は奥のお座敷に?」
「あ〜うん。じっちゃんなら奥で元気にやってるよぉ」
「分かりました。───真、お前たちは虎姐に用があるんだろ?」
「え、ええ。でも会長さんがいるなら、先に俺たちも挨拶した方が……」
「いや、それはまた今度でいい。もうここまで場が盛り上がってるんだ、きっと親っさんも、すっかり酔いが回りきってるさ」
  そう言葉を残すと、恋白さんは店の奥へと行ってしまった。酔いきってるのは虎姐も同じなんだけどなぁ……。
「私に用? なんの話ぃ?」
「あー……虎姐の知り合いに、異世界から来たっていう人、いるんですよね?」
「んん……ちょっとよくわかんなぁい」
  わかんなぁいって……とぼけてんのか酒で記憶が飛んでるのかどっちなんだよ。
   虎姐のはっきりしない物言いに嫌気がさしたのか、そばで見ていたラルちゃんが圧をかけるように虎姐へと詰め寄る。
「人を振り回すのもいい加減にしろ。なんの説明もなく私たちをこんなところに招待して、あなたは一体なにを考えているんだ……!?」
「ま、まぁラルちゃん! ちょっと落ち着いて……!」
  なんだかまずい空気になりそうだったので、俺は慌てて彼女を止めた。こんな大勢の人がいる前で、修羅場を展開させるわけにはいかない。
  たしかに、一刻も早く元の世界に戻りたいラルちゃんにとって、今の虎姐の態度は完全にふざけたものに見えるだろう。実際俺も虎姐が今なにを考えているのか、よくわからない。
「ではどうするのだ? これでは聞きたいことも聞けないだろう」
「うん。だからまずは酔いを覚まさせよう。ラルちゃん、コップに水くんできてくれない?」
「ああ、構わないが……。そんなもので酔いが覚めるのか?」
「この人の場合は覚めるんだ。次の日にはしっかり二日酔いするけどね」
  そうして虎姐に水を飲ませたあと、俺たち3人は、一旦店の外にでた。
「用件って、てっきり昨日電話で話したことだと思ってたんだけどー?」
  すっかり元の調子に戻った虎姐が、首をかしげながらそう口にする。
「たしかにそれも気になりますけど、今はそれよりも重要なことがあるというか……」
「重要って、私の知り合いの話? なんでそこまで知りたいの?」
  ……。そう聞かれると、なんて答えればいいのか分からない。仮にラルちゃんの身の上話をしたところで、すんなり信じてくれるかどうか……。
「──まぁいいや。会わせてあげる」
「えっ!? いいんですか!?」
  昨日は知り合いについて聞かれても答える素振りすら見せなかったというのに。今日になっていきなり会わせてくれるだなんて……いったいどんな風の吹き回しなのだろうか。
「そんな目で見なくたって、別にやましい事なんて考えてないよー? 昨日あれだけ気にしてたから、今日会わせてあげようと思ってたんだ。2人をここに呼んだのもそのため」
「そうだったんですね……。んっ? 俺たちをここに呼んだってことは、その知り合いの方も今日ここに来てるんですか?」
「イエス」
  すると虎姐は、俺とラルちゃんをエレベーターへと誘導した。この階に虎姐の知り合いはいないということだろうか? このビルは3階立てで1階は外に繋がる出入口だけ。残るは行ったことのない2階のフロアだけということになるのだが……。
「ほいほいほいっとー」
  中に入るやいなや、彼女は1~3の数字が描かれた操作盤のボタンを、不規則に何度も押してみせた。はたから見れば遊んでいるようにしか見えない。
「なにしてるんです……?」
「映画とかでよくあるじゃん? エレベーターのボタンを決められた順番で押すと、どこの階でもない隠し部屋に行くってやつ」
「ま、まあたしかにありますけど」
  このビルにもそういう仕組みがあるってことか? なんでそんなものを……。
  動き始めたエレベーターには、階数表示がされていなかった。感覚的に下に降りていっているのは分かるのだが、もう出入口である1階を通り越しているような……そう思ったところで、到着を告げる機械音が鳴った。
  扉の先に広がった光景は、3階とはまったく違うものだった。外の町と同じくらいにライトアップされたその空間は、ひと言で言ってしまうとカジノだった。普通に違法だ。
「なんというか……こういうの見ると、ヤクザって感じしますね」
「失礼だな〜。私のお気に入りの場所なのにー」
  そんな虎姐のつぶやきを聞き流しながら、カジノ全体を見渡す。中年層中心となった客が、ポーカーやブラックジャックといった代表的なテーブルゲームを楽しんでいる中で、一際目立つ赤髪の女性が目に入った。
「真! きっとあいつだぞ」
  俺と同じ女性に目をつけたラルちゃんが即座に駆け出していく。
「ちょ、ラルちゃん!」
  やや興奮気味なラルちゃんを慌てて追いかけると、赤髪の女性はこちらに気づいたようたようで、自分の持っていたカードをテーブルの上に置いた。
「はじめまして、カップルのお二人さん。お姉さんになにか用?」
  水色のカーディガンに身を包んだその女性は、思わず見入ってしまうような笑みをこちらに浮かべてくれた。
「あーもう……急に2人とも走り出すからびっくりしちゃった」
「あら虎子、久しぶりね 」
  後から来た虎姐が、女性に対して軽く手を振る。この人なのか……? 異世界から来た虎姐の知り合いというのは。
「そう。名前は平田 エナ、自称“異世界から来た魔法使い”で、私の親友だよ」
  
  
  
  
  
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