金髪騎士はオレの嫁
4話 「帰路にて」
  逃げるようにして事務所を飛び出したのはいいものの、かなり困った状況になってしまった。夜のネオンで照らされた帰路を進みながら、俺は頭を悩ませる。
「おい、下を向いてないで、前を見て歩け。危ないだろ」
「君が家までついてくるなんて言いだすから困ってるんだよ! なんでそのまま帰らないのさ……!?」
  ほんとにこのまま家までこられたりしたら、俺が家賃1万円のボロアパートに住んでるってバレちゃうじゃないかぁ!……っていうのは冗談。あの辺りは時々、危ない人たちがウロウロしてるから、この子を巻き込みたくない──というのが本音だった。
「魔王である貴様を、私がおいそれと1人で帰すと思うか? 覚悟しろヘリオス! なにを目論んでいるのかは知らんが、このラル=フィナリアがいる限り、貴様に安息の地はないぞ!」
「そんな場所、俺には元からないよ……っ!!」
  覚悟を決め、俺は全速力で走り出した。どうせ、口で言ったって聞きやしないんだから、無理にでも諦めてもらうしかない!
「なっ! 今さら逃げるとは……往生際が悪いぞ!」
  当然、彼女は黙って見逃してはくれない。だが生憎、俺には中高共に陸上部所属というハンデがあるんだ。男勝りなラルちゃんが相手でも、足の速さは俺に軍杯が上がる。
このまま適当なところで振り切って、家に帰ろう。
それから約20分、走るに走った俺は、ヘトヘトの状態で我が家に着いた。
着いたのだが……
「ここが貴様の根城か? ずいぶん地味だな」
  1人余分に連れ帰ってしまった。
「はぁはぁ……なん……でっ! 付いて……きちゃうのさ!?」
「貴様が魔王だからだ」
  過呼吸になりながら膝に手を着くこちらとは違い、追いかけてきた少女は一欠片の疲れも見せていない。“実は私、ターミネーターでした”って言われても、今なら信じれる。
「いいから早く中に入れろ。体が冷える」
「はぁ……はいはい、わかりました」
  俺は観念して、扉に鍵を差し込んだ。ドアノブをひねって前に押すと、まるで幽霊屋敷のようにドアが軋む。ただでさえ小汚いアパートだというのに、こんな音が鳴っては印象最悪だ。
「一応、きれいに掃除してはいるんだけど……嫌なら靴は脱がなくてもいいよ」 
  靴ぐらい脱ぐ。と言って、彼女は中へ入った。
  見た目はこんなとこでも、中の部屋自体は思ったより綺麗だし、シャワールームもついてる。女の子を招き入れるには、少し不十分な場所ではあるが、なにより1番大切なのは、おもてなしの心だ。
  そう意気込んで、部屋へ入ろうとした時、
「女連れてるなんて珍しいじゃねえか兄ちゃん、ナンパでもしたか?」
  突然後ろから肩を掴まれ、強引に振り向かされる。体中に緊張が走ったのは言うまでもない。なにしろ、絡んできたのは男2人組。1人は丸刈りの頭に派手柄のシャツ、もう1人はスーツを着たオールバックの男、どっちもこの辺でよく見かけるヤクザだ。
「あ、あはは……そうなんですよ……街歩いてたら、偶然可愛い子見つけたもんで__」
  ダメだ……! 緊張と恐怖で、上手く言葉が続かない── この人たち……一体何する気なんだ?
「おい、中の女連れ出せ」
「えっ!? ちょっ……!! ダメですって!」
  急いで男の侵入を食い止めようとするが、当然敵うはずもなく、すぐに突き飛ばされてしまった。なんとか……なんとかしないと……!
「なぁ、お前が連れてる女、指輪つけてねえか? 赤い宝石がついてる、派手な指輪だよ」
  彼女を連れ出すように指示した丸刈りの男が、そんなことを聞いてきた。
「知りませんよ……そんなこと」
「あっそ、まぁ今から調べりゃわかることだ。ついでに女がどんな美人なのかも見てやるよ」
  勝ち誇ったような笑みを浮かべて、男は俺を嘲笑った。
部屋の中からは、まだ何も聞こえない……男が中に押し入ってからそこそこ経つというのに、いったいあの子はどうなって__
「ぐはぁッ!!」
  一瞬、なにが起きたのか分からなかった。なにかの悲鳴が聞こえたと思ったら、静かだった部屋から突然、男が吹き飛んできたのだ。
「な、なんだ!  女はどうしたっ!?」
  俺と同様の景色を見ていた男が、慌てて中の様子を確認しにいく。が、なぜか扉の前で固まってしまう。
「まったく気が抜けないな……」
  今度は、丸刈りの男が宙を舞った。あんなに脅威的だった男たちが、気づけば2人とも鎮圧されていた。
「これは貴様が仕組んだことなのか? ヘリオス」
  彼女は部屋から出てきてそう言った。自分がさっき襲われたことなど気にも留めていないような、平然とした顔で。
「ち、違うよ! それより、大丈夫だった? どっかケガしたりとか__」
「なんともない、負傷しているのは貴様の方だろう」
「えっ?……あぁ、別になんともないよ」
  とりあえず、ラルちゃんのおかげでなんとかなった。まぁ、この子が家まで付いてこなかったらそもそもこんな事にならなかったかもだけど……。
なんかやけに忙しい1日だな、今日は。
  
「おい、下を向いてないで、前を見て歩け。危ないだろ」
「君が家までついてくるなんて言いだすから困ってるんだよ! なんでそのまま帰らないのさ……!?」
  ほんとにこのまま家までこられたりしたら、俺が家賃1万円のボロアパートに住んでるってバレちゃうじゃないかぁ!……っていうのは冗談。あの辺りは時々、危ない人たちがウロウロしてるから、この子を巻き込みたくない──というのが本音だった。
「魔王である貴様を、私がおいそれと1人で帰すと思うか? 覚悟しろヘリオス! なにを目論んでいるのかは知らんが、このラル=フィナリアがいる限り、貴様に安息の地はないぞ!」
「そんな場所、俺には元からないよ……っ!!」
  覚悟を決め、俺は全速力で走り出した。どうせ、口で言ったって聞きやしないんだから、無理にでも諦めてもらうしかない!
「なっ! 今さら逃げるとは……往生際が悪いぞ!」
  当然、彼女は黙って見逃してはくれない。だが生憎、俺には中高共に陸上部所属というハンデがあるんだ。男勝りなラルちゃんが相手でも、足の速さは俺に軍杯が上がる。
このまま適当なところで振り切って、家に帰ろう。
それから約20分、走るに走った俺は、ヘトヘトの状態で我が家に着いた。
着いたのだが……
「ここが貴様の根城か? ずいぶん地味だな」
  1人余分に連れ帰ってしまった。
「はぁはぁ……なん……でっ! 付いて……きちゃうのさ!?」
「貴様が魔王だからだ」
  過呼吸になりながら膝に手を着くこちらとは違い、追いかけてきた少女は一欠片の疲れも見せていない。“実は私、ターミネーターでした”って言われても、今なら信じれる。
「いいから早く中に入れろ。体が冷える」
「はぁ……はいはい、わかりました」
  俺は観念して、扉に鍵を差し込んだ。ドアノブをひねって前に押すと、まるで幽霊屋敷のようにドアが軋む。ただでさえ小汚いアパートだというのに、こんな音が鳴っては印象最悪だ。
「一応、きれいに掃除してはいるんだけど……嫌なら靴は脱がなくてもいいよ」 
  靴ぐらい脱ぐ。と言って、彼女は中へ入った。
  見た目はこんなとこでも、中の部屋自体は思ったより綺麗だし、シャワールームもついてる。女の子を招き入れるには、少し不十分な場所ではあるが、なにより1番大切なのは、おもてなしの心だ。
  そう意気込んで、部屋へ入ろうとした時、
「女連れてるなんて珍しいじゃねえか兄ちゃん、ナンパでもしたか?」
  突然後ろから肩を掴まれ、強引に振り向かされる。体中に緊張が走ったのは言うまでもない。なにしろ、絡んできたのは男2人組。1人は丸刈りの頭に派手柄のシャツ、もう1人はスーツを着たオールバックの男、どっちもこの辺でよく見かけるヤクザだ。
「あ、あはは……そうなんですよ……街歩いてたら、偶然可愛い子見つけたもんで__」
  ダメだ……! 緊張と恐怖で、上手く言葉が続かない── この人たち……一体何する気なんだ?
「おい、中の女連れ出せ」
「えっ!? ちょっ……!! ダメですって!」
  急いで男の侵入を食い止めようとするが、当然敵うはずもなく、すぐに突き飛ばされてしまった。なんとか……なんとかしないと……!
「なぁ、お前が連れてる女、指輪つけてねえか? 赤い宝石がついてる、派手な指輪だよ」
  彼女を連れ出すように指示した丸刈りの男が、そんなことを聞いてきた。
「知りませんよ……そんなこと」
「あっそ、まぁ今から調べりゃわかることだ。ついでに女がどんな美人なのかも見てやるよ」
  勝ち誇ったような笑みを浮かべて、男は俺を嘲笑った。
部屋の中からは、まだ何も聞こえない……男が中に押し入ってからそこそこ経つというのに、いったいあの子はどうなって__
「ぐはぁッ!!」
  一瞬、なにが起きたのか分からなかった。なにかの悲鳴が聞こえたと思ったら、静かだった部屋から突然、男が吹き飛んできたのだ。
「な、なんだ!  女はどうしたっ!?」
  俺と同様の景色を見ていた男が、慌てて中の様子を確認しにいく。が、なぜか扉の前で固まってしまう。
「まったく気が抜けないな……」
  今度は、丸刈りの男が宙を舞った。あんなに脅威的だった男たちが、気づけば2人とも鎮圧されていた。
「これは貴様が仕組んだことなのか? ヘリオス」
  彼女は部屋から出てきてそう言った。自分がさっき襲われたことなど気にも留めていないような、平然とした顔で。
「ち、違うよ! それより、大丈夫だった? どっかケガしたりとか__」
「なんともない、負傷しているのは貴様の方だろう」
「えっ?……あぁ、別になんともないよ」
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なんかやけに忙しい1日だな、今日は。
  
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