金髪騎士はオレの嫁
3話 「手がかり」
「ヘリオスって、なんか聞いたことある名前だな……」
  さりげない虎姐の呟きに、ラルちゃんが大きく反応した。
「やはりあなたも知っているんだな?  この男の正体をっ!」
  彼女は半ば興奮した様子で虎姐に詰め寄り、俺の顔を指さした。つくづく悪者扱いされる俺を滑稽に思ったのか、虎姐はこちらを見てクスクスと笑う。ほんと、ひどい人だ。
「笑ってないで少しはこっちの味方してくださいよ、虎姐」
  取り付く島のない俺の悲痛な叫びに、虎姐はようやく笑うのをやめた。
「ごめんごめん。ヘリオスっていう名前は、前に知り合いから聞いたことがあるんだよ。自分は“異世界から来た”なんて言う変わったやつだから、本当の話かわかんないけど」
「異世界?」
  話を聞いた俺とラルちゃんは、2人して同じワードを口にする。
「えっ、どうしたの? 2人とも」
  俺たちの反応が予想外だったのか、虎姐が少し呆気にとられた顔をする。
  異世界というワードに引っかかったのは、ラルちゃんに対して、ある仮説が思い浮かんだからだ。
“ もしこの子が、こことは違う別の世界からやって来たのだとしたら?”
  とてもありえない話だが、とっさにその考えが頭をよぎった。アニメや漫画に出てくるファンタジーな異世界がほんとうに存在するのだとしたら、彼女の厨二病的発言にも説明がつく……
なんて──さすがに考えすぎだろうか。
しかし、そんな俺の仮説を裏付けるかのように彼女は動いた。
「その知り合いとやらは誰だ? どこで会える?」
「それは個人情報だから。教えることはできないなぁ」
「な、なんだとっ!?」
  まさかこの人に他人のプライバシーを尊重する意志があったとは驚きだ。でも、このままではラルちゃんが困ってしまう──どうやら、ここは俺の出番みたいだな。
「いいじゃないですか教えてくれたって、わざわざ引っかかるような説明付け足したの虎姐ですよ?」
異世界のことは俺も少し気になるし、初対面のラルちゃんと違って、付き合いのある俺になら、虎姐も口を開いてくれるはず……!
「むーりー。そんなこと言われても知らないよーん」
  無理でした。
「ふん、役に立たんやつめ」
  完全敗北した俺に、ラルちゃんのオーバーキルが炸裂する。なにもそんな言い方しなくたって……
「ひどい顔だね〜真くん。そんなにこの子が好きなの?」
 哀れむような眼差しで、虎姐がこっちをじーっと見つめる。なにがひどい顔だ、他人事みたいに言うんじゃないよまったく……ラルちゃんのことが好きなのは認めるけど。
「な、なにを嬉しそうにしているのだ貴様は……っ!」
  ほっぺに広がるジーンとした痛み。どうも自分は思ったことが顔に出やすいらしい……にしても、ビンタなんていつぶりにくらっただろうか? 
まぁ、そんなことはどうでもいいか。なんたって、この子は今猛烈に顔を赤らめているんだから。
きっと俺に好意を抱かれていると分かって、たまらず羞恥心を抱き、衝動的に俺の頬を叩いてしまったのだろうが──大変結構っ!!
  役立たずなんていう烙印を押しておきながら、なんだかんだ言って俺を異性として認識してくれているんだきっと。ああ、そうに違いない。
「ごめん、ラルちゃん可愛いからさ。俺も自分の中で、本当は君に恋しちゃってるんじゃないかって__」
「なにを意味のわからんことをごちゃごちゃと。気持ち悪いぞ貴様」
「ようやくヘリオスって呼ぶのやめてくれたねラルちゃん。でも、貴様じゃなくて真って呼んでほしいな」
「断る」
  ──もう自分の妄想で、突っ走るのはやめにしよう。
  それから、少し時間が経った頃。俺は当初の目的を思い出し、空腹に苦しむ少女にパンをくわえさせていた。
「んんーっ!! 美味い……! 美味いぞ!」
  なんて幸せそうな顔なんだ……彼女に与えたのは、本場フランスから直送されたわけでもなければ、国内の三ツ星ベーカリーに並んで買ったわけでもない、ごくごく普通のコンビニで買ったメロンパンだ。それをこんなに美味しそうに食べてくれるなんて……
「そんなにパン好きなの?」
  そう聞かずにはいられなかった。ラルちゃんは、はちきれんばかりの笑みでこちらを見ると「もちろん大好きだっ!」と強く頷いた。そのあまりの可愛さに心臓が飛び跳ねる。
 出会いがどうであれ、彼女との距離もこれで少しは縮まったかもしれない。
そんな淡い期待に胸を躍らせながら、ふと窓の外を見る。ここに来て少しくつろぎすぎたのか、辺りはもうすっかり日が落ちきってしまっていた。
「ま、まずい……!」
  もうじき、ここで働く調査員の人たちが一斉に帰ってくる。もちろん、全員ヤーさんだ。
悪い人たちじゃないのは確かだが、あの強面揃いを前にすると、寿命が縮む。ラルちゃんもいることだし、あの人たちが戻ってくる前に退散しなければ……っ!!
「ら、ラルちゃん、食べてるとこ申し訳ないけど、そろそろここを出よう! そのパン、持って帰っていいからさ!」
「な、なんだ急に? お、おい……! 引っ張るな!」
  パンを頬張る彼女の手を引いて、 俺は出口へと一目散に駆け寄った。去り際に放たれた、虎姐の忠告を聞き流して。
「最近は物騒だから、夜道には十分気をつけるんだよー? 真くん」
 
  さりげない虎姐の呟きに、ラルちゃんが大きく反応した。
「やはりあなたも知っているんだな?  この男の正体をっ!」
  彼女は半ば興奮した様子で虎姐に詰め寄り、俺の顔を指さした。つくづく悪者扱いされる俺を滑稽に思ったのか、虎姐はこちらを見てクスクスと笑う。ほんと、ひどい人だ。
「笑ってないで少しはこっちの味方してくださいよ、虎姐」
  取り付く島のない俺の悲痛な叫びに、虎姐はようやく笑うのをやめた。
「ごめんごめん。ヘリオスっていう名前は、前に知り合いから聞いたことがあるんだよ。自分は“異世界から来た”なんて言う変わったやつだから、本当の話かわかんないけど」
「異世界?」
  話を聞いた俺とラルちゃんは、2人して同じワードを口にする。
「えっ、どうしたの? 2人とも」
  俺たちの反応が予想外だったのか、虎姐が少し呆気にとられた顔をする。
  異世界というワードに引っかかったのは、ラルちゃんに対して、ある仮説が思い浮かんだからだ。
“ もしこの子が、こことは違う別の世界からやって来たのだとしたら?”
  とてもありえない話だが、とっさにその考えが頭をよぎった。アニメや漫画に出てくるファンタジーな異世界がほんとうに存在するのだとしたら、彼女の厨二病的発言にも説明がつく……
なんて──さすがに考えすぎだろうか。
しかし、そんな俺の仮説を裏付けるかのように彼女は動いた。
「その知り合いとやらは誰だ? どこで会える?」
「それは個人情報だから。教えることはできないなぁ」
「な、なんだとっ!?」
  まさかこの人に他人のプライバシーを尊重する意志があったとは驚きだ。でも、このままではラルちゃんが困ってしまう──どうやら、ここは俺の出番みたいだな。
「いいじゃないですか教えてくれたって、わざわざ引っかかるような説明付け足したの虎姐ですよ?」
異世界のことは俺も少し気になるし、初対面のラルちゃんと違って、付き合いのある俺になら、虎姐も口を開いてくれるはず……!
「むーりー。そんなこと言われても知らないよーん」
  無理でした。
「ふん、役に立たんやつめ」
  完全敗北した俺に、ラルちゃんのオーバーキルが炸裂する。なにもそんな言い方しなくたって……
「ひどい顔だね〜真くん。そんなにこの子が好きなの?」
 哀れむような眼差しで、虎姐がこっちをじーっと見つめる。なにがひどい顔だ、他人事みたいに言うんじゃないよまったく……ラルちゃんのことが好きなのは認めるけど。
「な、なにを嬉しそうにしているのだ貴様は……っ!」
  ほっぺに広がるジーンとした痛み。どうも自分は思ったことが顔に出やすいらしい……にしても、ビンタなんていつぶりにくらっただろうか? 
まぁ、そんなことはどうでもいいか。なんたって、この子は今猛烈に顔を赤らめているんだから。
きっと俺に好意を抱かれていると分かって、たまらず羞恥心を抱き、衝動的に俺の頬を叩いてしまったのだろうが──大変結構っ!!
  役立たずなんていう烙印を押しておきながら、なんだかんだ言って俺を異性として認識してくれているんだきっと。ああ、そうに違いない。
「ごめん、ラルちゃん可愛いからさ。俺も自分の中で、本当は君に恋しちゃってるんじゃないかって__」
「なにを意味のわからんことをごちゃごちゃと。気持ち悪いぞ貴様」
「ようやくヘリオスって呼ぶのやめてくれたねラルちゃん。でも、貴様じゃなくて真って呼んでほしいな」
「断る」
  ──もう自分の妄想で、突っ走るのはやめにしよう。
  それから、少し時間が経った頃。俺は当初の目的を思い出し、空腹に苦しむ少女にパンをくわえさせていた。
「んんーっ!! 美味い……! 美味いぞ!」
  なんて幸せそうな顔なんだ……彼女に与えたのは、本場フランスから直送されたわけでもなければ、国内の三ツ星ベーカリーに並んで買ったわけでもない、ごくごく普通のコンビニで買ったメロンパンだ。それをこんなに美味しそうに食べてくれるなんて……
「そんなにパン好きなの?」
  そう聞かずにはいられなかった。ラルちゃんは、はちきれんばかりの笑みでこちらを見ると「もちろん大好きだっ!」と強く頷いた。そのあまりの可愛さに心臓が飛び跳ねる。
 出会いがどうであれ、彼女との距離もこれで少しは縮まったかもしれない。
そんな淡い期待に胸を躍らせながら、ふと窓の外を見る。ここに来て少しくつろぎすぎたのか、辺りはもうすっかり日が落ちきってしまっていた。
「ま、まずい……!」
  もうじき、ここで働く調査員の人たちが一斉に帰ってくる。もちろん、全員ヤーさんだ。
悪い人たちじゃないのは確かだが、あの強面揃いを前にすると、寿命が縮む。ラルちゃんもいることだし、あの人たちが戻ってくる前に退散しなければ……っ!!
「ら、ラルちゃん、食べてるとこ申し訳ないけど、そろそろここを出よう! そのパン、持って帰っていいからさ!」
「な、なんだ急に? お、おい……! 引っ張るな!」
  パンを頬張る彼女の手を引いて、 俺は出口へと一目散に駆け寄った。去り際に放たれた、虎姐の忠告を聞き流して。
「最近は物騒だから、夜道には十分気をつけるんだよー? 真くん」
 
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