金髪騎士はオレの嫁
1話 「運命の出会い」
  時は2021年10月中旬。春夏秋冬でいうところの冬にあたる時期だ。
「今年ももうすぐ見納めか」
  若くしながら借金を背負った20歳の青年、八目 真はそんなことを呟く。
  渋谷の街は、恐ろしい冷え込み具合だった。言葉を吐くたびに出てくる白い息を見ると思い出したかのように体が冷気に包まれていく。
ブルブルと震える両手は、大量のお酒やお菓子が詰められた袋を握っていて、ポケットへの避難が困難な状態にある。
  一刻も早く暖房のきいた室内に逃げ込まなければ。
立て続けに並んだビルの横を、俺は足早に進んでいく。が、運悪く横断歩道の信号が赤に変わり足止めをくらった。そんな時だ、ふと横を見ると4,5人ほどの婦人がなにやらごちゃごちゃと騒ぎ立てている。
「だから私はモデルとやらではない! いい加減、話を聞いてくれないか!?」
  明らかに婦人たちとは違う声色に眉をひそめる。
もう1人誰かいる……?
気になって人だかりに近づいた俺は、思わず驚愕した。
 
「か、可愛い……」
  無意識にそんな言葉が漏れた。婦人に囲われた空間の先には、まるでアニメや漫画の中から飛び出してきたような絶世の美少女が降臨していたのだ。
  外国からきた子なのか、黄金色に輝く艶やかな髪は綿毛のようにふわふわとしていて、ちょうど肩にさしかかるくらいの長さだ。
若干の幼さを残した顔つきは、透き通るような蒼色の瞳と合わさっておとぎ話に出てくる妖精を連想させる。
そんな果てしない魅力にあふれる彼女を見て、これが一目惚れというやつなんだろうと、自分で強く実感した。
「……あっ」
  つい見とれていると、彼女と目が合ってしまった。急激に上昇していく心拍数、脳は落ち着けと必死に訴えてくる。
もしかすると、今の自分は息も荒らげているのかもしれない。だというのに、彼女は怪訝な顔をしてはいるものの、さも俺に興味があるかのように見つめてきた。しばらく2人で見つめあうが、やがて俺の方が気まづくなって顔をそらした。
 まったく俺はなにを考えてるんだ。金も地位も名誉もないのに、名前も知らない女の子に一目惚れとか抜かして、一声掛けてみようかななんて思ってしまった。そんなことしたって、相手に嫌な思いをさせるだけだろ。
 ひと時の感情で無謀なことを強行しようとした自分に呆れつつ、前へと向き直る。すると信号はその瞬間を待っていたかのように青へと変わった。
このまま行っていいのだろうか……。
 声はかけなかったとはいえ、さっき変に見つめたせいで、不愉快な気持ちにはさせてしまっただろう。やっぱり、一言ぐらい謝っておこう。
 そう思って彼女のいたところに視線を戻す。が、いつの間にか姿を消していた。
「あれ? どこ行ったんだろう」
 横断歩道から離れて辺りを見回していると、横から強い視線を感じたような気がして振り向いた。そこにいたのは、間違いなくさっきの少女だった。
「こんなところにいたのか、ヘリオス」
  ツンとした鋭い声が横から突き刺さる。声の主は、先ほどの美少女だ。やはり、変態がバレてしまったか。
  なんて冗談を言えるような状況でもなかった。なにしろ彼女は、悪鬼のような形相でこちらに近づいてきている。
「あっ、その……さっきのはボーとしてただけで」
  なぜか俺は無意識に言い訳をしていた。普通この状況は即刻、土下座して許しを乞うのが正解だろうに……これじゃあ、火に油を注ぐだけじゃないか!
「すみませんでし__」
  今度は謝ろうとしっかり頭を下げた。それだけなのに、俺の体は宙に浮き上がる。
「グホッ……!!」
信じ難いことに、彼女はそのスレンダーな足で突然俺のことを蹴り飛ばしたのだ。
息が詰まるほどの衝撃と激痛に顔を歪めながら、勢いよく地面に叩きつけられる。
「魔人ヘリオス……いや、魔王と呼ぶ方が正しいか。こんな所で再会できるとは思っていなかったぞ」
  人生でこんな痛い思いをしたのは初めてかもしれない。いくら俺が社会のカースト最底辺の人間だったとしても、ここまで罰を受ける必要はないはず。それに、この子が言ってることもまったく理解できない。魔王とか魔人とかアニメじゃあるまいし……
「貴様だけは……貴様だけは、なんとしてでも殺す!」
「ちょちょちょ、ストップストップ!!」
またもや彼女の足が飛んできたのを見て、慌てて、頭を伏せる。
「ヘリオスって誰だよ!? 絶対、人違いだって!!」
  そう弁明すると、凶暴な金髪娘はようやく攻撃を止めてくれた。
「人違いだと?」
「そうそう……!  そもそも俺、魔人でも魔王でもないただの人間だし」
  彼女は、眉間にくっきりとシワを寄せて、こちらの顔をまじまじと見つめた。頼む……!勘違いだと気づいてくれ!
「そんなわけないだろっ!!」
  願望は儚く散った。今度は蹴りはされなかったものの、胸ぐらを乱暴に掴まれる。
「顔がまったく同じではないか!! この期に及んでシラを切るなど、命乞いでもしているつもりか!?」
「そんなこと言われたって、俺は君を知らない!」
  こんな美少女、一度見たら忘れるはずがない。念のため、過去の記憶をさかのぼってみるが、やはりこの子とは会ったことがないように思う。今日が初対面のはずだ。
しかし、彼女がそれをわかってくれるとは思えない……
  どうしようもなく焦る俺に、チャンスは突然やってきた。
  かすかだが、耳に“くぅー”という情けない音が響いてきたのだ。腹がガス欠に陥ったときに漏れる空腹の音が。
  もちろん俺が鳴らしたわけじゃない。借金を抱える貧乏な身であることは認めるが、それでも食えてはいる。音の発生源は紛れもない、目の前で恥ずかしそうに赤面している彼女のお腹っ!!
「……もしかして、お腹空いてるの?」
「う、うるさい……! 今はそんなこと関係ないだろ!」
  間違いない、これは天がくれた起死回生のチャンス……!! 逃すわけにはいかない!
「俺、世話になってる人からお使い頼まれててさ、ちょうど今戻るところなんだよ。 お腹すいてるなら、向こうでなにかごちそうするよ! ご飯とかパンとか、なんでもござれだから!」
「ぱ、パン……!?」
  なぜかパンに興奮気味な彼女は、さりげなく掴んでいた胸元を離してくれた。
その隙に彼女から距離をとり、蹴られた際に散らばってしまった袋の中のお酒とお菓子を拾い集める。  
「それじゃあ行こっか」
「あ……ちょ、おい待て!」
  とんだ災難だったが、なんとか収まりがつきそうで良かった。そう心の中で安堵する俺は、密かに野心を抱いていた。
腹を空かせたこの子に腹いっぱいのご飯をご馳走する……この展開、上手くいけば彼女と関係を築けるのではないだろうか??
  変な勘違いをされていることが気がかりだが、この野望さえ叶えば、これまでのクソみたいな人生は一変するに違いないっ!!
「なにをニヤニヤしているのだ? 気味が悪いぞ」
「えっ!? ああ……ごめんごめん」
  いけないいけない、煩悩に意識を完全に乗っ取られていた。
頭のスイッチを切り替え、俺は彼女と帰路についた。
  
「今年ももうすぐ見納めか」
  若くしながら借金を背負った20歳の青年、八目 真はそんなことを呟く。
  渋谷の街は、恐ろしい冷え込み具合だった。言葉を吐くたびに出てくる白い息を見ると思い出したかのように体が冷気に包まれていく。
ブルブルと震える両手は、大量のお酒やお菓子が詰められた袋を握っていて、ポケットへの避難が困難な状態にある。
  一刻も早く暖房のきいた室内に逃げ込まなければ。
立て続けに並んだビルの横を、俺は足早に進んでいく。が、運悪く横断歩道の信号が赤に変わり足止めをくらった。そんな時だ、ふと横を見ると4,5人ほどの婦人がなにやらごちゃごちゃと騒ぎ立てている。
「だから私はモデルとやらではない! いい加減、話を聞いてくれないか!?」
  明らかに婦人たちとは違う声色に眉をひそめる。
もう1人誰かいる……?
気になって人だかりに近づいた俺は、思わず驚愕した。
 
「か、可愛い……」
  無意識にそんな言葉が漏れた。婦人に囲われた空間の先には、まるでアニメや漫画の中から飛び出してきたような絶世の美少女が降臨していたのだ。
  外国からきた子なのか、黄金色に輝く艶やかな髪は綿毛のようにふわふわとしていて、ちょうど肩にさしかかるくらいの長さだ。
若干の幼さを残した顔つきは、透き通るような蒼色の瞳と合わさっておとぎ話に出てくる妖精を連想させる。
そんな果てしない魅力にあふれる彼女を見て、これが一目惚れというやつなんだろうと、自分で強く実感した。
「……あっ」
  つい見とれていると、彼女と目が合ってしまった。急激に上昇していく心拍数、脳は落ち着けと必死に訴えてくる。
もしかすると、今の自分は息も荒らげているのかもしれない。だというのに、彼女は怪訝な顔をしてはいるものの、さも俺に興味があるかのように見つめてきた。しばらく2人で見つめあうが、やがて俺の方が気まづくなって顔をそらした。
 まったく俺はなにを考えてるんだ。金も地位も名誉もないのに、名前も知らない女の子に一目惚れとか抜かして、一声掛けてみようかななんて思ってしまった。そんなことしたって、相手に嫌な思いをさせるだけだろ。
 ひと時の感情で無謀なことを強行しようとした自分に呆れつつ、前へと向き直る。すると信号はその瞬間を待っていたかのように青へと変わった。
このまま行っていいのだろうか……。
 声はかけなかったとはいえ、さっき変に見つめたせいで、不愉快な気持ちにはさせてしまっただろう。やっぱり、一言ぐらい謝っておこう。
 そう思って彼女のいたところに視線を戻す。が、いつの間にか姿を消していた。
「あれ? どこ行ったんだろう」
 横断歩道から離れて辺りを見回していると、横から強い視線を感じたような気がして振り向いた。そこにいたのは、間違いなくさっきの少女だった。
「こんなところにいたのか、ヘリオス」
  ツンとした鋭い声が横から突き刺さる。声の主は、先ほどの美少女だ。やはり、変態がバレてしまったか。
  なんて冗談を言えるような状況でもなかった。なにしろ彼女は、悪鬼のような形相でこちらに近づいてきている。
「あっ、その……さっきのはボーとしてただけで」
  なぜか俺は無意識に言い訳をしていた。普通この状況は即刻、土下座して許しを乞うのが正解だろうに……これじゃあ、火に油を注ぐだけじゃないか!
「すみませんでし__」
  今度は謝ろうとしっかり頭を下げた。それだけなのに、俺の体は宙に浮き上がる。
「グホッ……!!」
信じ難いことに、彼女はそのスレンダーな足で突然俺のことを蹴り飛ばしたのだ。
息が詰まるほどの衝撃と激痛に顔を歪めながら、勢いよく地面に叩きつけられる。
「魔人ヘリオス……いや、魔王と呼ぶ方が正しいか。こんな所で再会できるとは思っていなかったぞ」
  人生でこんな痛い思いをしたのは初めてかもしれない。いくら俺が社会のカースト最底辺の人間だったとしても、ここまで罰を受ける必要はないはず。それに、この子が言ってることもまったく理解できない。魔王とか魔人とかアニメじゃあるまいし……
「貴様だけは……貴様だけは、なんとしてでも殺す!」
「ちょちょちょ、ストップストップ!!」
またもや彼女の足が飛んできたのを見て、慌てて、頭を伏せる。
「ヘリオスって誰だよ!? 絶対、人違いだって!!」
  そう弁明すると、凶暴な金髪娘はようやく攻撃を止めてくれた。
「人違いだと?」
「そうそう……!  そもそも俺、魔人でも魔王でもないただの人間だし」
  彼女は、眉間にくっきりとシワを寄せて、こちらの顔をまじまじと見つめた。頼む……!勘違いだと気づいてくれ!
「そんなわけないだろっ!!」
  願望は儚く散った。今度は蹴りはされなかったものの、胸ぐらを乱暴に掴まれる。
「顔がまったく同じではないか!! この期に及んでシラを切るなど、命乞いでもしているつもりか!?」
「そんなこと言われたって、俺は君を知らない!」
  こんな美少女、一度見たら忘れるはずがない。念のため、過去の記憶をさかのぼってみるが、やはりこの子とは会ったことがないように思う。今日が初対面のはずだ。
しかし、彼女がそれをわかってくれるとは思えない……
  どうしようもなく焦る俺に、チャンスは突然やってきた。
  かすかだが、耳に“くぅー”という情けない音が響いてきたのだ。腹がガス欠に陥ったときに漏れる空腹の音が。
  もちろん俺が鳴らしたわけじゃない。借金を抱える貧乏な身であることは認めるが、それでも食えてはいる。音の発生源は紛れもない、目の前で恥ずかしそうに赤面している彼女のお腹っ!!
「……もしかして、お腹空いてるの?」
「う、うるさい……! 今はそんなこと関係ないだろ!」
  間違いない、これは天がくれた起死回生のチャンス……!! 逃すわけにはいかない!
「俺、世話になってる人からお使い頼まれててさ、ちょうど今戻るところなんだよ。 お腹すいてるなら、向こうでなにかごちそうするよ! ご飯とかパンとか、なんでもござれだから!」
「ぱ、パン……!?」
  なぜかパンに興奮気味な彼女は、さりげなく掴んでいた胸元を離してくれた。
その隙に彼女から距離をとり、蹴られた際に散らばってしまった袋の中のお酒とお菓子を拾い集める。  
「それじゃあ行こっか」
「あ……ちょ、おい待て!」
  とんだ災難だったが、なんとか収まりがつきそうで良かった。そう心の中で安堵する俺は、密かに野心を抱いていた。
腹を空かせたこの子に腹いっぱいのご飯をご馳走する……この展開、上手くいけば彼女と関係を築けるのではないだろうか??
  変な勘違いをされていることが気がかりだが、この野望さえ叶えば、これまでのクソみたいな人生は一変するに違いないっ!!
「なにをニヤニヤしているのだ? 気味が悪いぞ」
「えっ!? ああ……ごめんごめん」
  いけないいけない、煩悩に意識を完全に乗っ取られていた。
頭のスイッチを切り替え、俺は彼女と帰路についた。
  
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