短編集

あまにゆ

幽霊と僕 其の一

痛いよ...
助けてよ...
誰か...





長い夢を見ていた気がする。
目を擦りながら乱れた毛布をたたみ、
焼いた魚のにおいに釣られ部屋を出る。
ああ、大きな背中だ。
調子の良いリズムで切られていくネギ。
玄人技と言える。
皿を取ろうと振り返る僕のおばあちゃん。
こちらに気づき、おはようと優しい声で微笑む姿はいつもと変わらない。
変わったところといえば僕の生活だろう。
両親と暮らしていた頃は寝るのは夜遅く、起きる時間といえば、登校班の集合時間ギリギリで起きて、登校しながら朝ごはんを食べていた。
今はこんな田舎でもあるので夜はすぐ寝てしまう。
なので、朝は早く、大人であれば煙草を一服できるほどの余裕はあった。
勉強も退屈なので、することが少ない時には早く寝てしまった方が、体にいいことは知っていた。
おばあちゃんのご飯は美味しい。
少し質素ではあるが香りもよく、まさに和室に合うような朝食である。
味は薄めで、たまには濃いものも食べてみたいものだが、これらの料理が好きだ。
「いただきます。」
どうぞと言った後におばあちゃんもいただきますと一言いって食べ始めた。
先に食べ終わった僕はご馳走様と言うと、食器を片付けた。
学校に行く準備をした後、縁側で日向ぼっこをした。

時間が来たのでおばあちゃんの作ってくれた握り飯をカバンに入れ家を出た。
おばあちゃんは、いってきますと言うといってらっしゃいと言い、僕が見えなくらるまで玄関前で見送ってくれる。
僕の小さな背中を。
にこやかな顔で。

集合場所に着くと、待ちくたびれたのか、草をむしっている子が2人。
ゲンタとトウコだ。
残りはあと2人、キイチとアイがいない。
あいつらまた遅刻かとゲンタが言うと、おーいと遠くから声がする。
すまんすまんとキイチはアイと手を繋いでやってきた。
もう見なれた光景だ。
彼らは4つ離れた兄妹で、みんなより少し学校との距離が遠いのもあって、遅れることも少なくない。
2人が追いついたところで僕達は少し足早に学校に向けて歩み始めた。
後ろでゲンタは宿題はやったかと聞くと静かに手を握っているアイの横で、なにかあったっけと苦笑いするキイチの反応に、トウコは、えぇ!と少し大袈裟な反応をする。
確か今日の宿題はなかったはずだ。
悪い顔でニヤニヤする2人の横で、ありもしない宿題を必死に思い出そうと焦っている。
そこでアイが、お兄ちゃん。今日は宿題ないよと言うと、ほんと?とキイチは安堵の表情で聞き返すと、うんと小さく頷いた。
少し不服そうな2人を横目に、キイチは騙したなと睨むと、トウコは、アイちゃんはお兄ちゃんとは違ってよく覚えてるわ。
お兄ちゃんと違って。
と鼻で笑うように言ったが、自慢の妹ですからと胸を張って嫌味を上手く受け流した。
アイは恥ずかしいと言ってキイチの手を強めに握った。

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