【書籍化】王宮を追放された聖女ですが、実は本物の悪女は妹だと気づいてももう遅い 私は価値を認めてくれる公爵と幸せになります【コミカライズ】

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第四章 ~『王宮で兄を問い詰める』~


 攫われたクラリスを探しに、アルトは王宮へと出向いていた。ハラルドが逃げるならここだろうと、最初に頭に浮かんだからだ。

 王宮前の広場に馬を止め、階段を登る。見覚えのある憲兵たちが、アルトの前に立ちふさがった。

「アルト公爵様、申し訳ございませんが、ここを通すわけにはいきません」
「誰かの差し金か?」
「王子より命じられております」
「つまり兄上は中に居ると?」
「つい先ほど戻られました」

 王宮の中にクラリスが捕らえられている疑いを強める。憲兵にジッと目を向けると、彼は申し訳なさそうに視線を逸らした。

「私はアルト公爵様が貧困で苦しむフーリエ領を救ったとの話を聞いて以来、あなたのファンです。そのため頼み事は可能な限り叶えたい。しかし……」
「王子に雇われているなら命令を無視できないか」
「申し訳ございません」
「君は悪くない。謝らないでくれ。それよりも教えてくれ。兄上は金髪の女性を連れていなかったか?」
「いえ、王子は一人でした」
「そうか……」

 憲兵が嘘を吐いているように見えないため、本当に一人で戻ってきたのだろう。やはり本人を問い詰めるしかない。

「アルト公爵ではないかっ」
「君は……グスタフ公爵っ!」

 筆頭公爵であるグスタフが王宮から顔を出す。丸太のように太い腕と、凛々しい髭面、そして鷹のような鋭い瞳の彼には、国王の面影があった。

「会うのは久しぶりだな。呪いは解けたと聞いていたが、随分と美しい顔になったな」
「ええ、まぁ……」
「そう、堅苦しくなるな。叔父であり、年齢も私の方が上だが、身分は同じ公爵なのだからな」

 グスタフは昔から気さくに接してくる人物だった。彼の顔が醜かった時から変わらない態度に心が安らぐ。

「そういえば私の弟が世話になっているらしいな」
「弟?」
「クルツのことだ。母親違いの弟でな。立場上、表立っての助力ができないのだ。アルト公爵が負傷したあいつを受け入れてくれたことに感謝させてくれ」

 貴族の家庭では、権力争いが絶えない。特に王国では一夫多妻が認められているため、婦人が二人いる場合があるからだ。

 その場合、争いは顕著になる。どちらの婦人も自分の子供を領主の座に据えようとするのだ。

 グスタフ公爵はクルツとの領主争いに勝利し、領主の椅子を手に入れたのだろう。だが争った仲でも弟であることに変わらない。心の底では心配していたのだ。

「それで、アルト公爵はここで何を?」
「兄上と会うために。いいや、妻を取り返すためにやって来たのだ」
「妻とは聖女様のことか。なるほど。王子がご執心だとは聞いていたが、まさか他人の婚姻相手にまで手を出すとはな。先が思いやられる」

 頭が痛くなると、目頭を抑える。次期国王の愚行はそのまま王国の危機に繋がる。大きな悩みの種になっていた。

「聖女様の居所についてだが、私の部下にも探らせよう。何か分かるかもしれない」
「恩に着るぞ」
「気にするな。この貸しはいずれ返してもらう。そうだなぁ、アルト公爵が国王に就任した時でどうだろうか?」
「私はただの公爵だ。玉座に座る資格はない」
「分かっているとも。ただの冗談だ……本心の望みではあるがね」

 それだけ言い残してグスタフは階段を降りていく。次期国王の座をハラルドから簒奪する。危険な可能性が頭の中に残った。

「馬鹿らしい。私が国王などと……」

 クラリスが傍にいてさえくれれば多くは望まない。今更、兄弟で醜い権力闘争に身を投じるつもりもなかった。

「アルト、お前、ここで何をしている」
「兄上!」

 宮廷からハラルドが顔を出す。彼の態度は誘拐犯のそれではない。自分が正義だと信じ、アルトこそが悪だと確信する狂信者のそれだった。

「兄上、クラリスを返してくれ!」
「断る。大切な女を洗脳するような卑劣漢に渡せるものか」
「な、何を言っているのだ……」
「誤魔化さなくていい。お前がクラリスを洗脳し、自分に愛情を向けさせていることは聞いているからな」

 荒唐無稽な言い分に呆れ果てる。

 ハラルドが頼んでも応じることはないと察し、威圧するように鋭い視線を向ける。

「クラリスはどこにいる?」
「俺たちだけが知る愛の巣だ」
「教える気はないのだな?」
「ない。なにせ直属の部下にさえ秘密にしているからな」

 アルトはクラリスの居場所を聞き出すために、頭に決闘の二文字を浮かべる。しかしそれを口にすることはない。

 もし決闘の結果、アルトが瀕死の重傷にでもなれば、クラリスの居場所が分からなくなるからだ。

「兄上がいくら隠そうとも関係ない。私は必ず探し出してみせる」

 ハラルドに決別を告げるように、強い言葉を投げる。向けられた背中は怒りで大きく膨らんでいた。

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