水月のショートショート詰め合わせ
最後の午餐タイムリープクイズ
着地の瞬間、力を入れた右足の足首に激痛が走った。
まずい、捻った。焦って左足を次の段に着地させようとする。しかし、踵が引っかかっただけで、すぐに両足は完全に階段を離れた。
視界がスローモーションに流れる。
死ぬ瞬間に、もっとオフィスで時間を過ごしたかったと思う人はいない。そんな異国のことわざが、唐突に脳裏に浮かんだ。
その言葉を、全力で肯定する。
せめて職場以外の階段で転びたかった。もっとも自分らしさから離れた場所で、この世から離脱する。それが、猛烈に嫌だ。
「司会進行は、私、天津丼が務めさせていただきます」
スローモーションの時間がやけに長いなと思っていた時、テレビ番組の音声が流れて来る。さらに目の前に、丼とマイクを持ち、黒いサングラスをかけた中肉中背の男が忽然と現れた。喪服のような、黒いスーツ。死神だろうか。
「幸運なことに、今この瞬間、強くタイムリープしたいと思っている人の中から、あなたは選ばれました。今日のお昼休みの直前に戻れるチャンスです。クイズに1問正解するだけ!」
ワー!という無数の観客の歓声。男の周りには、いつの間にか、様々な形や柄の弁当箱が集まっていた。パカパカと蓋が開閉している。耳をつんざく歓声は、明らかに弁当箱の群れが発している。
「オーディエンスも湧いております。チャレンジなさいますか。猶予はあと3分。私としては、ぜひチャレンジしていただきたい」
マイクを向けられて、困惑する。静まり返り、固唾を飲んで私を見守る弁当箱たち。チャレンジしないと言ったら、ブーイングの嵐なのだろう。死ぬ直前に大量の弁当箱にブーイングされるのも、嫌だ。
「……はい、じゃあ、チャレンジで」
私の一言で、弁当箱たちがまた一斉に歓声を上げる。
「素晴らしい選択です!では、早速クイズです!」
弁当箱たちの激しい蓋の開閉が、一瞬で止まる。妙な緊張感。
「戻った時に、本当に食べたいランチは?」
簡単すぎる質問に拍子抜けする。適当にパスタと答えかけて、口を閉じた。本当に食べたいランチ。心から、食べたいと思うランチ。そういうことか。
考えるが、なかなか思い浮かばない。思えば昼食を選ぶ時、自分が本心から食べたいと思っているものを、選んでいただろうか。いつも忙しさと健康への不安に、選ばされていた気がする。
弁当箱に囲まれた死神、自称司会者がサングラス越しに見つめてくる。
戻れたなら、私はいつもの社員食堂でランチだ。メニューを必死に思い出す。
どれだ。どれが食べたい?
何が食べたい?
「……カレーライス!!」
出した大声に自分で驚く。沈黙が、息苦しい。全てが静止している。
「大正解!!」
司会者の合図で、弁当箱たちが一斉に狂喜乱舞する。割れんばかりの歓声は、意識と一緒にフェードアウトしていった。
食券と引き換えに、熱々のカレーライスが乗っているトレーを受け取る。やっと、この時が来た。ほっと息を吐いてから、窓際の席に座る。
スパイシーな香りでお腹が鳴った。両手を胸の前で合わせる。
「いただきます」
まずい、捻った。焦って左足を次の段に着地させようとする。しかし、踵が引っかかっただけで、すぐに両足は完全に階段を離れた。
視界がスローモーションに流れる。
死ぬ瞬間に、もっとオフィスで時間を過ごしたかったと思う人はいない。そんな異国のことわざが、唐突に脳裏に浮かんだ。
その言葉を、全力で肯定する。
せめて職場以外の階段で転びたかった。もっとも自分らしさから離れた場所で、この世から離脱する。それが、猛烈に嫌だ。
「司会進行は、私、天津丼が務めさせていただきます」
スローモーションの時間がやけに長いなと思っていた時、テレビ番組の音声が流れて来る。さらに目の前に、丼とマイクを持ち、黒いサングラスをかけた中肉中背の男が忽然と現れた。喪服のような、黒いスーツ。死神だろうか。
「幸運なことに、今この瞬間、強くタイムリープしたいと思っている人の中から、あなたは選ばれました。今日のお昼休みの直前に戻れるチャンスです。クイズに1問正解するだけ!」
ワー!という無数の観客の歓声。男の周りには、いつの間にか、様々な形や柄の弁当箱が集まっていた。パカパカと蓋が開閉している。耳をつんざく歓声は、明らかに弁当箱の群れが発している。
「オーディエンスも湧いております。チャレンジなさいますか。猶予はあと3分。私としては、ぜひチャレンジしていただきたい」
マイクを向けられて、困惑する。静まり返り、固唾を飲んで私を見守る弁当箱たち。チャレンジしないと言ったら、ブーイングの嵐なのだろう。死ぬ直前に大量の弁当箱にブーイングされるのも、嫌だ。
「……はい、じゃあ、チャレンジで」
私の一言で、弁当箱たちがまた一斉に歓声を上げる。
「素晴らしい選択です!では、早速クイズです!」
弁当箱たちの激しい蓋の開閉が、一瞬で止まる。妙な緊張感。
「戻った時に、本当に食べたいランチは?」
簡単すぎる質問に拍子抜けする。適当にパスタと答えかけて、口を閉じた。本当に食べたいランチ。心から、食べたいと思うランチ。そういうことか。
考えるが、なかなか思い浮かばない。思えば昼食を選ぶ時、自分が本心から食べたいと思っているものを、選んでいただろうか。いつも忙しさと健康への不安に、選ばされていた気がする。
弁当箱に囲まれた死神、自称司会者がサングラス越しに見つめてくる。
戻れたなら、私はいつもの社員食堂でランチだ。メニューを必死に思い出す。
どれだ。どれが食べたい?
何が食べたい?
「……カレーライス!!」
出した大声に自分で驚く。沈黙が、息苦しい。全てが静止している。
「大正解!!」
司会者の合図で、弁当箱たちが一斉に狂喜乱舞する。割れんばかりの歓声は、意識と一緒にフェードアウトしていった。
食券と引き換えに、熱々のカレーライスが乗っているトレーを受け取る。やっと、この時が来た。ほっと息を吐いてから、窓際の席に座る。
スパイシーな香りでお腹が鳴った。両手を胸の前で合わせる。
「いただきます」
「水月のショートショート詰め合わせ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
1,391
-
1,159
-
-
2.1万
-
7万
-
-
6,681
-
2.9万
-
-
176
-
61
-
-
66
-
22
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
450
-
727
-
-
5,039
-
1万
-
-
5,217
-
2.6万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
8,191
-
5.5万
-
-
3,152
-
3,387
-
-
2,534
-
6,825
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
3,548
-
5,228
-
-
6,199
-
2.6万
-
-
89
-
139
-
-
1,295
-
1,425
-
-
2,860
-
4,949
-
-
218
-
165
-
-
6,675
-
6,971
-
-
6,044
-
2.9万
-
-
3万
-
4.9万
-
-
344
-
843
-
-
6,237
-
3.1万
-
-
65
-
390
-
-
76
-
153
-
-
1,000
-
1,512
-
-
62
-
89
-
-
10
-
46
-
-
3,653
-
9,436
-
-
3
-
2
-
-
1,863
-
1,560
-
-
108
-
364
-
-
14
-
8
-
-
7,474
-
1.5万
-
-
187
-
610
-
-
71
-
63
-
-
104
-
158
-
-
86
-
893
-
-
477
-
3,004
-
-
33
-
48
-
-
2,951
-
4,405
-
-
83
-
250
-
-
4
-
1
-
-
10
-
72
-
-
2,629
-
7,284
-
-
47
-
515
-
-
4
-
4
-
-
27
-
2
-
-
6
-
45
-
-
2,799
-
1万
-
-
7
-
10
-
-
17
-
14
-
-
9
-
23
-
-
18
-
60
-
-
614
-
221
-
-
116
-
17
-
-
164
-
253
-
-
4,922
-
1.7万
-
-
88
-
150
-
-
614
-
1,144
-
-
265
-
1,847
-
-
213
-
937
-
-
83
-
2,915
-
-
398
-
3,087
-
-
215
-
969
-
-
9,173
-
2.3万
-
-
1,301
-
8,782
-
-
29
-
52
-
-
2,431
-
9,370
-
-
3,224
-
1.5万
「SF」の人気作品
-
-
1,798
-
1.8万
-
-
1,274
-
1.2万
-
-
477
-
3,004
-
-
452
-
98
-
-
432
-
947
-
-
432
-
816
-
-
415
-
688
-
-
369
-
994
-
-
362
-
192
コメント