水月のショートショート詰め合わせ
ドュヴェイ・デイの輪廻プレリュード
外の喧騒から隔絶された狭い部屋の中に響く、薄い紙同士が擦れ合う音。
薄い毛布の中で、その音だけを拾い続ける。最近また、睡眠薬を飲んでも眠れなかったのに、うとうとしてきた。あともう少し。深い眠りの谷底まで落下できそうだ。
ペリ………………ペリ……
私を季節毎に見舞ってくれる稀有な存在である、たった1人の幼馴染みは、いつも無口だ。今日は特に。
一体何の本を読んでいるのだろう。気になって、ちょっと冴えてきてしまった。しかし、今は言葉を発したくない。
…………ペリ……
壊れてしまった日の朝を思い出す。突然、身体が鉛のように重くなり、スマホを持つこともできなくなった。
それからあれよあれよという間に、まともな社会生活、まともな食事と睡眠、まともな思考力と判断力を失った。得たものは、周囲からの嘲笑と失望とうつ病という病名。
長い時間をかけて、ぐらつく地面になんとか立ち上がったものの、まだ歩けない。直立しているだけで、体中の大切な部品が落ちて行ってしまう。焦って広い集めているうちに、また他の部品が落ちる。
………ペリ……………………ペリ…
疲れた。なんでいつも、布団の中で嫌なことを思い出してしまうのだろう。眠ろう。今はただ、眠ろう。あの微かな紙の音だけに集中して。
ペリ、ペリ……………………ペリ………
”死の瞬間は眠りに落ちる瞬間と一緒なのかな”
ふやけてきた意識の中に、本を読む友人の過去の言葉が唐突に蘇る。
ペリ………………ペリ…………………パタン
ああ読み終わらないで。あともう少し、読んでいて。私は今、本を読んでいる君に看取られたい。
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