水月のショートショート詰め合わせ

水月suigetu

真珠の連なりをたぐって―シュステーマ・ソーラーレ計画の後先―

ガラガラガラ、ゴロゴロゴロゴロ、バリバリバリ、ドーン。

分厚い雲から鳴り響く雷の音に、広げたばかりの傘に大粒の雹が当たる音が重なる。とうの昔に生身の身体を脱ぎ去った僕には、不必要な傘だ。常に降っている雷と雹は、僕を通り抜けていく。僕は、この木星そのものだから。

しかし、今日は懐かしい来客がある。身体を持っていた頃の僕をよく知っている友人たち。数人の仲間が持つ超能力を活用して、太陽系の星を創るなんて計画に、大真面目で取り組んだ気のいい仲間たち。

リーダーから「今度行くよー」という軽いメッセージを受け取った直後から、僕は必死に遠い遠い過去の記録を引っ張り出して、材料を集めて傘を手作りした。

少しでも人間っぽく見せたかったから。のっぽで気弱で、取り柄は指先でほんの少し静電気を操れることだけだった過去の自分。今では液体水素の中だって泳げる。でも、彼らには人間だった頃の僕として再会したい。

それにしても、遅い。約束の時間はとうに過ぎた。宇宙での星間移動には危険が伴う。何か起きたのだろうか?不安になりながら傘の柄に掴まって漂っていると、メッセージが来た。

「遅れてすまない。あと5秒後に到着」

金星担当のヘリオの声だ。

5、4、3、2、1とカウントしたら、厚い雲の中から1本の巨大な光の矢が降ってきた。矢は中空で止まり、すぐに溶けて、懐かしい2人の姿になる。僕は胸を詰まらせながら、友人たちの元に走った。




――◎――




「だから、もうちょいスピード落としてくれないかな……うぇ……気持ち悪い」

「リーダー、これ以上速度は落とせません。まだまだ他の星を巡回するんですよ。それぞれの星で、皆あなたを待ってる。今のところ星間移動できるのは僕だけですから、慣れてもらわないと」

宇宙酔いで蹲っている私に、腕組みをしたヘリオは相変わらず冷静な視線と言葉をくれる。

「了解……それにしても、すごいエネルギッシュで綺麗な星だ。外から見た時は、真珠みたいな雲が8つ。中では雷と雹の嵐。何かピリピリするし。さすがアイザックの木星だねぇ。下のは海……じゃないか」

「そうですね。彼らしい木星だ。あと、下のは十中八九、海じゃないです」

「ヘリオ!リーダー!」

大きな桃色の傘を持ちながら浮かぶアイザックが、ふよふよと優雅に飛んでくる。なんとまぁ、可愛らしい。ヘリオと顔を見合わせ、吹き出してしまった。アイザックも笑っている。

私はアイザックを真正面に見据えて、両足と両手を広げた。

「ただいま!おかえり!」と叫びながら。


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