水月のショートショート詰め合わせ

水月suigetu

テロメアなデジャビュ


「えー、てぃーは3つ」「じー、しーは2つ」


怪しげにつぶやきながら、細い糸を結び続ける青年は真剣そのものだ。数年前は時計職人だったらしい。彼は最近ほぼ毎日、公園の地面に網のようなものを広げ、早朝から謎の作業をしている。

「いい加減さ、何作ってんのか教えてよ」

青年はこちらを向くが、首を横に振った。無邪気に笑っている。

「あともう少し、ちょっと待って」

道行く人は彼を透明人間のように扱うが、私は何となく気になって、数ヶ月前に話しかけてみた。彼はある程度の世間話や身の上話はしてくれるものの、頑なに名前は教えてくれない。それでも、何となく、現在まで緩く薄い交流が続いた。

仕方なく近くの自販機に移動する。少し迷って、ボタンを押した。

戻ると不思議な青年はどこにもいない。二本の麦茶のボトルを持ちながらキョロキョロしていると、下の方から小さい声が聞こえた。残された網の中から。麦茶を置いて、声に集中する。

「広げてみて」

あの青年の声だ。困惑しながら、塊となっていた網を一気に広げる。

網は引っかかることなく、美しく広がった。赤と青、白と灰色の網は、規則正しく結ばれて、連なる幾何学模様になっていた。かすかに既視感がある。

「分かった?」

今度ははっきり、声が聞こえた。やはり、網から。いや、作品から。

「さっぱり。作品名は?」

「10億回まで続くプログラム!どう?」

今までで一番、元気な青年の声が聞こえてくる。なぜか、笑いが込み上げてくる。

「さっぱり分からん!」

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