水月のショートショート詰め合わせ

水月suigetu

ロングフォー・イカロス

足元に散らばった線香に、君の最期の姿を思い出す。

君は快晴の日に飛んでしまった。透明な重い翼を背負いながら。イカロスみたいに。



線香を一本一本、拾い上げる。



君はずっと憤っていた。神でなく、人が神も人も見捨ててるんだと。優しさが惨たらしく消費されていると。君の怒りは、無尽蔵の優しさに見えた。だから、君は群がられて、命ごと食い尽くされてしまったのだろう。

君と私はめったに会わないけれど、親友だった。少なくとも、私はそう思っている。

君といると、何でか、遠足に浮足立つ子供みたいな気持ちになって、次から次へとくだらないことを言ってしまう。普段無口なのに。

君が奇跡的なタイミングで小気味いいツッコミを入れるものだから、調子に乗ってしまって。私たちは、もしかしたら漫才師に向いていたかもしれない。

線香の束の先端に、ライターで火を付ける。その束を空に掲げて、大きく振った。

私はまだ君が空を飛んでいると確信している。合図をキャッチしたら、降りてきて。また無意味で馬鹿な話をしよう。待ち合わせ場所は君の墓だ。ずっと待ってるからさ。

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