水月のショートショート詰め合わせ

水月suigetu

量子なグッピースフィア

さらさらとした砂のようなエサを水面にふりかける。カラフルな裾の長いドレスを揺らめかせながら優雅に泳いでいたグッピーたちが、一斉にエサをついばみ始めた。

数ヶ月前、家にやってきた数匹のグッピーたちは、大きな水槽の中で悠々と過ごしている。外側にいる人間の部屋が狭いことなんて、全く気付いていない。

いそいそと最近衝動買いしてしまったデジタルカメラを取り出して、レンズをグッピーに向けた。


このグッピーたちは、レンズ越しで見ると姿を変える。特徴的な尾ヒレは無くなって、完全な球体になるのだ。

色はそのままだから、その姿はまさに、色彩豊かなビー玉。

初めて気付いた時、何枚も写真を撮った。動画も。しかし、保存した画像や動画には、なぜか通常の姿のグッピーが映っているだけだった。

メガネや拡大鏡、コップや鏡などで試してみたが、丸いグッピーは見えない。カメラレンズ越しで見た時だけ、必ず球体になるグッピー。私が不安と困惑で右往左往していても、グッピーたちは元気に泳いでいた。



スフィア型グッピーたちは、今日も水中を縦横無尽に漂っている。しっかり眺めよう。記憶に残しておくために。


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