水月のショートショート詰め合わせ

水月suigetu

コンステレーション・メイドイン・ホーム

カラガラガラと、ガラスに氷の角が当たる。コップに勢いよく入れた氷の一つが、ぽーんと外に跳ねていった。落ちた氷は床の硬いタイルの上で派手に砕けた。

透明な欠片が、キッチンの小窓から入る早朝の淡い光に反射している。星みたいだ。線でつなげてみる。ちょうど、双子座のような形。

しゃがんで、氷の欠片を回収する。気を取り直して、再びカルピス作りに集中した。慎重に水を注ぐ。ちょっと薄めに。スプーンでしっかり混ぜる。完成。

キッチンから外に出ると、エメラルドブルーの羽根の蝶々がリビングの中を浮遊していた。窓から入ってきてしまったのだろうか?地球のような色の蝶々はゆっくりと近づいてきて、私のコップの縁にとまった。

「あ」

カルピスが無い。一瞬で、カルピスが消失した。手品のように。蝶々は満足したようにコップから離れ、優雅にリビングを飛び回る。どう見ても空のコップと、神秘的な蝶々を見比べる。私のカルピス。どうなってる?あれは本当に蝶々か?

蝶々は私の元に再び戻ってきて、額にとまった。その瞬間、視界が歪む。瞬きを数回すると、正常な視界になった。優しい日が差し込むキッチンの中が見える。

奇妙なほどの満ち足りた感覚。身体が浮き上がりそうだ。そう思った通りに、私の身体は重力に反して浮かんだ。ふわふわと揺れる視界に私の驚いた顔が入ってくる。

ああ、そうか。これまでの諸々の出来事が急速に繋がっていく。深い納得。私を圧倒していく直感。蝶々が私で、私が蝶々。カルピスの甘い、微かな後味。

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