剣と魔法と銃の関係性について世界観設定マニアが思いを巡らせる散文

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

剣と魔法と銃の関係性について世界観設定マニアが思いを巡らせる散文

 剣と魔法の世界に銃の存在はあり得るのか、という論点を見てちょっと考えてみます。


 先に言っておきますと、これは人の創作にどうこう言いたいとか、かくあるべしと言いたいわけではありません。
 世界観構築とか思考実験が好きな僕の趣味です。


 ちなみに本稿での銃は、火薬もしくはそれに類する爆発物の燃焼ガスで銃身内の物理的な弾丸を射出する武器、まあ要するに我々の世界の銃と類似的なものとします。
 火薬や銃身に錬金術とかドワーフの特殊技術が入ってるのはアリとします。
 魔法を射出するようなものは除きます。


〇銃の歴史


 銃の原型、つまり火薬で銃身内の弾丸(初期は石だったそうですが)を撃ち出す武器自体は南宋(1200-1300頃)あたりで出来た突火槍あたりが原型でしょうか。それが鹵獲され金を経てモンゴル帝国で使われて欧州まで伝わったそうです。
 アンゴルモア(対馬編)でもモンゴル旗下の中国兵が使ってますね。


 この時代の銃は木の棒の先に火薬と弾を詰めた銃身(当初は竹だったらしい)をつけて、穴に火縄を差し込むタッチホール式というものでした。
 なので棒を支える人と着火する人の二人体制でないと運用できない。
 まあ小型化が進んで最終的には一人でも打てるようになりますが、まともに構えられないでの命中率は最悪。


 冶金技術が低い時代は爆圧に耐え切れず銃身が爆発するということも多々あったそうです。
 狼の口ヴォルフスムントというマンガでは自殺兵器とか描かれてますね。
 つーか手榴弾的な物の方がよくないか、これ。


 時代を経て火縄式マッチロックから火打石式フリントロックと着火方法が改善され、冶金技術の改善により暴発も減っては行きますが。
 火縄式マッチロックは火を絶やすと打てないので軍隊での集団運用は兎も角として、個人で使うなら難しかったでしょう。
 火打石式フリントロックが普及してようやく個人携行のピストルが出てきました。
 これが諸説あるようですが16世紀後半から17世紀前半辺り。


 着火方法は改善されましたが、いわゆる三銃士も使っていたマスケット銃も命中率は惨憺たるもので、黒目が見える距離でないと当たらないという有様。
 当たらないなら、みんなで横列を組んで当たる距離まで近づけばいいじゃない(そして敵味方が大量に死ぬ)、人命とはなにかと聞きたくなる戦列歩兵も大体この辺です。
 具体的に見たい人は、パトリオット(ローランド・エメリッヒ監督作)をご覧ください。あれは酷い。


 1775年のアメリカ独立戦争でこの戦術は使われていたので、銃が生まれてから400年たってもこの状況。
 また弾と火薬を銃口から入れて突き固めるという前装式の装填方式なので、速くても20秒に一発程度の速射性能でした。


 この後、銃は産業革命の機械技術の発展などもあり急激に発展します。
 ライフリングによる螺旋の溝を銃身に彫り弾丸に螺旋回転を与えて命中率を上げる構造。これ自体は15世紀くらいにはすでにあったそうですが、加工が難しく量産は難しかったそうですね。
 あと銃身が厚くなって重くなっていたとか。


 弾丸も丸い形ではなく今のような形になり、ライフリングの効果をより活かすためミニエ弾という弾が作られました。これが1849年。
 まあミニエ弾は前装式銃が前提だったようで、すぐに後装式にとってかわられますけど。


 そして雷管により着火方法が安定しその後雷管により後装式銃、つまり今の様な弾と火薬が一体になった薬莢が生まれるわけです。
 雷管が出来たのは1807年。それまでは火縄や火打石で着火するので雨に弱かった。
 そして、後装式の発想自体はこれまた15世紀には有ったそうですが金属加工の問題もあり、マトモに実用化されたのは1841年のドライゼ銃が最初でしょう。


 今の銃の原型は多分これだと思います。
 この間の進歩に要した時間は500年以上です。長い。


 ここまで書いてきましたが、要は何が言いたいかと言うと、武器や道具の発展には、長い時間と費用と人命を要するということです。
 そして、それは必要性があるから投入されるわけですね。


 例えば、進撃の巨人の立体機動装置は一つの例になると思います。
 あれは、巨人を倒すためと言う必要性があるからこそ作られて発展しました。
 あの壁の中の技術を遥かに超えるマーレで立体機動装置が出来なかったのは必要なかったからなわけです。


〇その世界の魔法の位置づけと銃の運用方法。


 上記の通り、武器や道具は必要があるからこそ発展します。
 作る必要が無かったり、それを作るコストがメリットを上回れば発展はしないわけです。


 魔法がある世界で銃が発展するか。
 これは作品によって結構まちまちで、魔法がスキルとかそう言うので割と一般的な世界もありますし、逆に選ばれた素養を持つ人しか使えない世界もあります。
 そういう意味ではその世界における魔法がどの程度の地位を占めるかが銃の発展に大きくかかわるでしょう。


 また、軍勢で扱う武器として使われるか、個人での携行武器となるかという、運用法も影響しそうです。





 まず魔法が誰でも使えるレベルで一般的な場合、銃は生まれないでしょう。
 よしんば生まれても恐らく発展はしません。魔法を使う方が早いからです。
 コストと人命をかけて得体のしれない武器を試行錯誤するより魔法使いを育成する方向になると思います。


 完成品の銃を我々は知っていますから、頑張って開発すればこんなものができあがる、と分かりますが、手探りで開発する側はそんなものができるかどうか知らないわけです。
 試行錯誤は失敗に終わる可能性も高いですからね。 


 なので、銃と魔法が共存する世界は前提として


①魔法使いが一般的ではない(生得的な素養に左右される等)、


②素質に左右されないが魔法使いの育成に相当のコストが掛かる


③魔法の何らかの制限がある(そもそもそこまで魔法が強くない、詠唱が長い、金属鎧を着れないなど武装に制約がある、MP的なものの消耗が激しい等)


 このあたりが必要だと思います。


 軍勢の武器として使われる場合、つまり歩兵の武器のような感じで運用される場合比較的ハードルは低めだと思います。
 フス戦争(1420年)の時点で、前装式装填、タッチホール式点火、銃身に棒をつけただけの一人用の小型の火砲を集団で運用して農民兵が騎士で編成された十字軍を打ち破っています。
 具体的な描写は乙女戦争が参考になるので読んでみてください。


 銃の発明から200年弱ですが、この時点では構造的には突火槍を小型化しただけのものです。
 そこまでの技術革新は必要ありません。
 命中精度がクソとか装填が遅いとかその辺の欠点は集団運用でどうにかなります。


 では個人兵装としての銃はどうか。


 これは完全な私見ですが、銃で魔法と撃ち合うためには最低限でも三銃士とかあの辺のレベルで無いと話にならないと思います。
 火打石フリントロック式着火方式が最低限。装填方式は前装式でも可。
 具体的には片手で構えられ、20メートル程度の距離で命中が期待できて、懐から抜いて即射撃可能、雨にある程度強い。こんな感じ。


 だって、火縄式マッチロックだと、火縄に火がついているので懐に携行するのは難しいですし(一応あったらしいけど)、打つ前に火縄をフーフー吹いているうちに魔法で吹き飛ばされますよ。


 そして、このレベルに到達するために、我々の世界では300年ほどかかっているはずです。
 ただ、各種三銃士の映像作品の描写を見ても、装填済みのピストルを発砲してあとはレイピアで切り合いやってるので、このレベルでもサブアーム的扱いでしょうが。


 主武器として使うなら、装填しやすい後装式くらいは必要だと思いますね。
 三銃士の時代からさらに200年ほどの時間を要することになります。
 また、金属加工の技術も要求されますから文明レベルにも影響受けそうです。


〇その世界で銃は発展するかのキーポイント


 我々の世界でも銃の進歩は試行錯誤と失敗と犠牲の歴史でした。 
 一般的に想像される銃床を肩に当てて構え引き金を引く長銃や、片手で保持し狙いをつけて引き金を引く短銃は、それなりに長い試行錯誤のもとに出来上がっています。


 最低でも弓や弩を上回るメリットが無ければ高度に発展はしないでしょう。
 ドリフターズでドワーフたちが、なんでこんなメンドクサイことするんだ、弓でいいやんけって言ってますね。
 初期段階の銃はそもそも命中率がクソとか、装填が弓より遅いとか欠点だらけですし。


 銃が持つ弓や魔法を超えるメリットは、これまたドリフターズで織田信長が言ってましたが、殺意の簡便化と調練の速さ、そして銃声で人を威圧したり騎馬突撃を妨害することでしょうか。
 ただ、銃の発展の副産物であり、当初からそれを目的としたものではありません。


 あと、初期段階では製造コストが弩とかに比べて低い点もメリットと言えるかもしれません。
 初期の銃は鉄の筒に持ち手の木の棒を付けただけですから。
 軍隊とかでの集団運用を前提とするなら、配備コストが低いのはメリットです。
 性能のアレさ加減も集団運用でカバーできますしね。


 こうして書いてみると、やはり初期段階が鍵でしょう。
 初期段階の時点でこの手の銃の有用性に気付く人がいるかいないか。


 いなければ誰か暇な人が原型を作っても魔法に押されて消えていくでしょう。
 一方で誰かがこの辺のメリットの気づけばある程度は開発が進んでいく可能性はあります。


 そう言う意味では技術的な天才よりも、運用の天才がいるかどうかが分かれ目ですかね。
 誰かが有用性に気付けば、戦場で銃兵の集団運用により魔法使いを圧倒する国とあくまで魔法に拘る国とかのような対比が出来て面白いと思います。


 そして、一度有用性に気付いて開発が進めば、その先の進歩については割と簡単に理由づけができます。
 冶金技術とかはドワーフの独自の金属加工により強度を確保した、着火方式や形状は天才的な発明家がいた、とでもしておけばいいわけです。
 現実にも時計の歴史を2世紀進めたと言われる天才が居たりしますし。


 もし銃が進歩し続けて、命中精度が高いライフルや連射可能な初期のリボルバーのようなものが出来てくると、今度は魔法使いが銃に対して不利になる場面もあるでしょう。
 連射の可能な銃が出てこれば、初弾をなんとかしても詠唱してる間に二発目が飛んできますし。
 そういう銃が発展して魔法使いが追いやられる世界とかも面白いかもしれません。


 とまあ、こんな感じで思いを巡らせるのもまた一興と思います。


 ちなみに僕は銃剣付きマスケット長銃が大好きなので、風戸君の武器はマスケット銃+銃剣ですし、自作TRPGではすべての世界観にマスケット銃を出しています。
 基本的には上記①の世界観で書くことが多いですね。


 では、御清聴に感謝




・追記


 本稿はすでに魔法が存在する世界で銃が発明され発展するのか、という論点で書いています。
 銃の発展可能性についてばかり書きましたが、魔法の発展の視点が欠けていたので追記します。


 端的に結論を言うと、銃が一技術として発展軌道に乗った場合、発展が立ち遅れたいずれかが時代遅れのものとして競争に敗れ駆逐されていくと思います。
 例えば欧州の戦場において弩が初期の銃に押されて消えていったようなものですね。


 だから、魔法が進歩せず停滞すれば銃が魔法を圧倒して廃れていくでしょう。
 一方、魔法が進歩していけば銃はマイナーで趣味的な武器に落ち着くと思います。


 ただし、一度地位を確立すれば消えることは多分無いと考えます。
 弓はもはや戦場の主役ではありませんが、クロスボウや機械式コンポジットボウはいまだに実戦での使用者がいますし、弓道やアーチェリーとして競技としても残っています。


 魔法の定義もまあ色々あるんで一概には言えませんが、上記①~③の制約があるとした場合について考えてみます。
 私見ですけど、銃が発展し続ければ後装式ライフルやリボルバー式拳銃が現れる辺りで、魔法の方が詠唱が長く連射できない、育成コストがかかる等の理由で不利になると思います。


 先天的資質に左右されるという点は人為的には克服が難しいのでさておくとして。
 教育システムの改善による育成コストの低減や、詠唱破棄などの高速詠唱、魔力回復薬の開発のような感じで進歩していくことになるのでしょうか。


 両方が別用途で発展することも勿論あり得ると思います。
 個人攻撃としては魔法が優位であるが、大規模な戦場での砲撃は大砲が優位になるとか。
 もしくは直接攻撃は銃に譲り、魔法は防御壁の展開などの補助的な方向に進歩する可能性もあり得ますね。


 正直言って、両者の発展まで加味するとどうなるか分からない、と言うのが本音です。
 逆に、だからこそ作者側の設定の理由づけが大事だと思います。


















 

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