高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
知恵のある魔獣との戦い・上
「ここで出会うとはな」
蜘蛛を見下ろしてシューフェンが苦々し気にいう。
「いかがいたしますか?」
「愚問だ……が」
シューフェンがこっちを向いた
「カタオカ、あれを駆除する。助力せよ」
「それはこっちのセリフだと思うけど……僕等の世界に来たんだから」
あれが何であれ、僕たちが倒すのが筋だろう、むしろ。
「あれは刺槐の中でも特別だ。后種という。見たことは?」
「ない」
ツフェンなるものはあの虫、というか奥多摩ダンジョンの敵のことだろう。
野良ダンジョンでは僕は奥多摩系にはあまり遭遇したことがない。
これについては人によるようだけど。
「あれは普通の蟲どもとは格が違う、寸毫も気を抜くな。瞬き一つするうちに首がおちるぞ」
レイフォンが旗を傘立てに立てて腰からもう一本剣を抜いた。
改めて蜘蛛を見る。
蜘蛛の下半身に人間の上半身。3メートル近い巨体だ。ゲームとかで見たアラクネっていうモンスターに似ている
女に見える上半身だけど、ところどころにタトゥのような黒い筋が走っていて、髪に見えるのも黒い角だ。
手は大きく膨らんだ黒い鎧のような表皮に覆われていて長い爪が生えている。
真っ黒い目に裂けた口が生理的におぞましさを感じさせる。
その黒い眼には何の感情も浮かんでいなかった。虚無としか言いようがない。
「三田ケ谷、ルーファさん!下がってろ!生徒たちを守ってくれ」
三田ケ谷が警告を発するスマホを見て舌打ちした。
「……分かった」
「ご無事で、片岡様!」
三田ケ谷とルーファさんが階段を降りていく。
「……僕等はどうする……降りて戦う?」
「いや、おそらく奴からくる。迎え撃つが得策」
シューフェンが答える。
いや、ここ2階だけど、というより早く巨体が跳ね上がった。
蜘蛛が二階の壁にとりつく。あのデカさでなんて身軽なんだ。校舎の壁が揺れて赤い光に波紋が走る。
女を模したような上半身、黒い隈取だらけの顔と目があった。一瞬笑みを浮かべる。
目が合ったと同時に、窓を突き破って槍のような足が飛び込んできた。
◆
硬いコンクリの壁に尖った脚がめり込んだ。
砕けたガラスの破片が飛び散る。バキバキと音を立ててアラクネの巨体が二階の廊下に入り込んできた。
巨体が天井にぶち当たって電球が飛び散る。でも、背の高さ以上に長い脚が威圧感を感じさせた。
岩の塊のような巨体。ミノタウロス以上だ……こんなの倒せるのか?
アラクネが僕等を見下ろしてきた。 
こっちも刀を構える。
≪不味そうだな≫
唐突に甲高い頭の中に声が聞こえた。
◆
何かと思ったけど、アラクネが薄笑いを浮かべるように表情を崩した。
≪人の雄は骨ばっていて不味いが……その雌は良さそうだ≫
節くれだった黒い手をあげる。長い爪のついた指が檜村さんを指した。
檜村さんが怯えたように僕に寄り添ってくる。
≪差し出せ。そうすればお前は食わないでおいてやる≫
また同じ声が聞こえた。気のせいじゃない。
まさか。
「こいつ……知恵があるんですか?」
「知らぬのか?」
シューフェンが当たり前のように言う。
知恵のある魔獣なんて聞いたことがない。
格が違う、という意味が分かった。知恵があるかないかってのは全然違うだろう。
「蟲よ。この私の前で人を食うことができると思うな」
シューフェンが剣を構えて進みでる。
≪獣人か≫
「今よりお前を駆除する。覚悟せよ」
アラクネがシューフェンを見下ろして薄笑いを浮かべるように表情を変えた。
≪兎と鹿は美味かったな。狼は吠え声が勇ましいだけだった≫
アラクネが言って、シューフェンの表情がわずかに変わった。
≪だが、死に際の鳴き声は惨めたらしくていい。肉は不味いがな≫
◆
「行くぞ!」
シューフェンの姿が消えた……というか恐ろしい速さで飛び込んだ。
杭のように突き出される足を鮮やかに躱してその足を踏み台にして飛び上がる。
懐に飛び込んだシューフェンの手が動く。
アラクネの上半身に無数の穴が穿たれて、細い噴水の様に体液が噴き出した。
黒いナイフのような爪が振られる前にシューフェンが飛んで壁を蹴った。
三角飛びのように天井を蹴ってそいつに一太刀を加える。
どういう運動神経してるんだ。
≪跳ね回るな!!!犬め!!≫
殻で膨らんだ腕が振り回される。空中でシューフェンと腕が交錯した。
硬いものがぶつかり合う音がする。
「一刀、薪風、白繭!」
風がシューフェンを包むように纏いついた。
シューフェンが天井にぶつかって床に落ちる。
大丈夫かと思ったけど、シューフェンが何事もなかったように立ち上がった。
「今のはお前だな?礼を言う。カタオカ」
アラクネから目を切らずにシューフェンが言う。
わずかに額から血が流れているくらいで大きなけがはなさそうだ。
アラクネの上半身に穿たれた傷が見る見るうちにふさがっていった。
傷口が黒い斑点のように残っているだけだ。シューフェンが舌打ちした。
≪まるで効かないぞ。犬≫
脚を踏み鳴らしながらアラクネが前進してくる。
杭を撃ち込むように脚を上から打ち込んできて、鱗粉のような赤い光と床の破片が飛び散った。
≪潰れろ!!!≫
甲高い声が頭に響く。
レイフォンが二本の剣で振り下ろされる足を切りつけた。
「なんという硬さ!」
レイフォンが吐き捨てるように言う。
僕も足を刀で切るけど、硬い。どうにか刃が食い込んでも、黒い体液が噴き出してすぐ止まってしまう。
ならば。腰を落として意識を集中させる。
「一刀!断風!岩斫!」
刀身が風を纏いつく。刀が足に食い込んで、太い杭のような足がひしゃげて飛んだ。
◆
脚を一本失ってアラクネの体勢が崩れる。
さすがに切れた足があっさり再生とかはしないらしい。でも末端を切っていても倒せる気がしないぞ。
≪私の足を!!許さんぞ!!!≫
怒りの声が聞こえる。
多少足が遅くなっても恐ろしい相手には変わりない。
「見事だ、カタオカ……次は今のを胴体に撃ちこめ」
「無茶言うな」
「だが、あれは人の部分を砕かぬ限り倒せぬ」
シューフェンが言う。たしかに硬い外殻に覆われた足をいくら切っても倒せる感じはしない。
というか、露骨にあの部分が弱点なんだろうけど。
ただ、僕にはシューフェンの身のこなしは真似できない。断風の間合いに入る前に三回は死ぬぞ。
≪足掻くな!!!!小蟲め!≫
言ってる傍からまた地響きを立ててアラクネが突進してきた。
一本切った分少し脚は遅くなったけど前進は止まらない。
「一刀!破矢風!」
上段から刀を振り下ろす。風が唸って上半身が袈裟懸けにざっくり裂ける。
体液が噴き出したけど……またすぐに傷がふさがった。
破矢風じゃダメか。
≪無駄だ!!≫
アラクネが勝ち誇ったかのように言ったところで。後ろから風切り音がして、岩の塊がぶつかった。
蜘蛛を見下ろしてシューフェンが苦々し気にいう。
「いかがいたしますか?」
「愚問だ……が」
シューフェンがこっちを向いた
「カタオカ、あれを駆除する。助力せよ」
「それはこっちのセリフだと思うけど……僕等の世界に来たんだから」
あれが何であれ、僕たちが倒すのが筋だろう、むしろ。
「あれは刺槐の中でも特別だ。后種という。見たことは?」
「ない」
ツフェンなるものはあの虫、というか奥多摩ダンジョンの敵のことだろう。
野良ダンジョンでは僕は奥多摩系にはあまり遭遇したことがない。
これについては人によるようだけど。
「あれは普通の蟲どもとは格が違う、寸毫も気を抜くな。瞬き一つするうちに首がおちるぞ」
レイフォンが旗を傘立てに立てて腰からもう一本剣を抜いた。
改めて蜘蛛を見る。
蜘蛛の下半身に人間の上半身。3メートル近い巨体だ。ゲームとかで見たアラクネっていうモンスターに似ている
女に見える上半身だけど、ところどころにタトゥのような黒い筋が走っていて、髪に見えるのも黒い角だ。
手は大きく膨らんだ黒い鎧のような表皮に覆われていて長い爪が生えている。
真っ黒い目に裂けた口が生理的におぞましさを感じさせる。
その黒い眼には何の感情も浮かんでいなかった。虚無としか言いようがない。
「三田ケ谷、ルーファさん!下がってろ!生徒たちを守ってくれ」
三田ケ谷が警告を発するスマホを見て舌打ちした。
「……分かった」
「ご無事で、片岡様!」
三田ケ谷とルーファさんが階段を降りていく。
「……僕等はどうする……降りて戦う?」
「いや、おそらく奴からくる。迎え撃つが得策」
シューフェンが答える。
いや、ここ2階だけど、というより早く巨体が跳ね上がった。
蜘蛛が二階の壁にとりつく。あのデカさでなんて身軽なんだ。校舎の壁が揺れて赤い光に波紋が走る。
女を模したような上半身、黒い隈取だらけの顔と目があった。一瞬笑みを浮かべる。
目が合ったと同時に、窓を突き破って槍のような足が飛び込んできた。
◆
硬いコンクリの壁に尖った脚がめり込んだ。
砕けたガラスの破片が飛び散る。バキバキと音を立ててアラクネの巨体が二階の廊下に入り込んできた。
巨体が天井にぶち当たって電球が飛び散る。でも、背の高さ以上に長い脚が威圧感を感じさせた。
岩の塊のような巨体。ミノタウロス以上だ……こんなの倒せるのか?
アラクネが僕等を見下ろしてきた。 
こっちも刀を構える。
≪不味そうだな≫
唐突に甲高い頭の中に声が聞こえた。
◆
何かと思ったけど、アラクネが薄笑いを浮かべるように表情を崩した。
≪人の雄は骨ばっていて不味いが……その雌は良さそうだ≫
節くれだった黒い手をあげる。長い爪のついた指が檜村さんを指した。
檜村さんが怯えたように僕に寄り添ってくる。
≪差し出せ。そうすればお前は食わないでおいてやる≫
また同じ声が聞こえた。気のせいじゃない。
まさか。
「こいつ……知恵があるんですか?」
「知らぬのか?」
シューフェンが当たり前のように言う。
知恵のある魔獣なんて聞いたことがない。
格が違う、という意味が分かった。知恵があるかないかってのは全然違うだろう。
「蟲よ。この私の前で人を食うことができると思うな」
シューフェンが剣を構えて進みでる。
≪獣人か≫
「今よりお前を駆除する。覚悟せよ」
アラクネがシューフェンを見下ろして薄笑いを浮かべるように表情を変えた。
≪兎と鹿は美味かったな。狼は吠え声が勇ましいだけだった≫
アラクネが言って、シューフェンの表情がわずかに変わった。
≪だが、死に際の鳴き声は惨めたらしくていい。肉は不味いがな≫
◆
「行くぞ!」
シューフェンの姿が消えた……というか恐ろしい速さで飛び込んだ。
杭のように突き出される足を鮮やかに躱してその足を踏み台にして飛び上がる。
懐に飛び込んだシューフェンの手が動く。
アラクネの上半身に無数の穴が穿たれて、細い噴水の様に体液が噴き出した。
黒いナイフのような爪が振られる前にシューフェンが飛んで壁を蹴った。
三角飛びのように天井を蹴ってそいつに一太刀を加える。
どういう運動神経してるんだ。
≪跳ね回るな!!!犬め!!≫
殻で膨らんだ腕が振り回される。空中でシューフェンと腕が交錯した。
硬いものがぶつかり合う音がする。
「一刀、薪風、白繭!」
風がシューフェンを包むように纏いついた。
シューフェンが天井にぶつかって床に落ちる。
大丈夫かと思ったけど、シューフェンが何事もなかったように立ち上がった。
「今のはお前だな?礼を言う。カタオカ」
アラクネから目を切らずにシューフェンが言う。
わずかに額から血が流れているくらいで大きなけがはなさそうだ。
アラクネの上半身に穿たれた傷が見る見るうちにふさがっていった。
傷口が黒い斑点のように残っているだけだ。シューフェンが舌打ちした。
≪まるで効かないぞ。犬≫
脚を踏み鳴らしながらアラクネが前進してくる。
杭を撃ち込むように脚を上から打ち込んできて、鱗粉のような赤い光と床の破片が飛び散った。
≪潰れろ!!!≫
甲高い声が頭に響く。
レイフォンが二本の剣で振り下ろされる足を切りつけた。
「なんという硬さ!」
レイフォンが吐き捨てるように言う。
僕も足を刀で切るけど、硬い。どうにか刃が食い込んでも、黒い体液が噴き出してすぐ止まってしまう。
ならば。腰を落として意識を集中させる。
「一刀!断風!岩斫!」
刀身が風を纏いつく。刀が足に食い込んで、太い杭のような足がひしゃげて飛んだ。
◆
脚を一本失ってアラクネの体勢が崩れる。
さすがに切れた足があっさり再生とかはしないらしい。でも末端を切っていても倒せる気がしないぞ。
≪私の足を!!許さんぞ!!!≫
怒りの声が聞こえる。
多少足が遅くなっても恐ろしい相手には変わりない。
「見事だ、カタオカ……次は今のを胴体に撃ちこめ」
「無茶言うな」
「だが、あれは人の部分を砕かぬ限り倒せぬ」
シューフェンが言う。たしかに硬い外殻に覆われた足をいくら切っても倒せる感じはしない。
というか、露骨にあの部分が弱点なんだろうけど。
ただ、僕にはシューフェンの身のこなしは真似できない。断風の間合いに入る前に三回は死ぬぞ。
≪足掻くな!!!!小蟲め!≫
言ってる傍からまた地響きを立ててアラクネが突進してきた。
一本切った分少し脚は遅くなったけど前進は止まらない。
「一刀!破矢風!」
上段から刀を振り下ろす。風が唸って上半身が袈裟懸けにざっくり裂ける。
体液が噴き出したけど……またすぐに傷がふさがった。
破矢風じゃダメか。
≪無駄だ!!≫
アラクネが勝ち誇ったかのように言ったところで。後ろから風切り音がして、岩の塊がぶつかった。
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