高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

別世界との境界線

 ミノタウロスの間のドアを押し開けると、回廊のような通路ではすでに戦闘が始まっていた。
 三田ケ谷が三人と向かい合っていて、三人ほどがルーファさんを組み伏せている。
 装備は中の奴と同じような感じだ。山羊のような仮面と鎧、それと戦槌と盾。
 しかも、他にも何人か居る。


 ドアを開けた僕等に全員の視線が集中した。


「mi történik?……」 
「一刀!破矢風!鼓打」


 刀を振り下ろす。うなりを上げて、風の塊が飛んだ。
 ルーファさんを組み伏せていた内二人が、車にはねられたように吹っ飛ぶ。地面に転がってそのまま動かなくなった……死んでないだろうな。


 宗片さんには当たらなかったけど、直撃すると結構威力があるらしい。
 そもそも見えない風の塊を避けたり刀で捌く宗片さんがオカシイのか。


 山羊の仮面の気が一瞬それたのの見逃さなかった。ルーファさんが跳ね起きざまに円弧剣を振り回す。
 回るようなステップで赤い飾り布があでやかに舞って、山羊の仮面が大きなスイングで振られた円弧剣に弾き飛ばされた。


「ヴーリ!」


 一声叫ぶと、円弧剣がぐにゃりと歪んで灰色の狼に変わった。
 狼がまっすぐ三田ケ谷の方に突っ込んで、三田ケ谷を取り囲んでいた山羊の仮面のやつらが慌てて飛びずさる。
 三田ケ谷がその隙にこっちに走ってきた。


「ありがとうございます、カタオカ様」
「すまねぇ、助かった!」


「無事で何より」


 三田ケ谷が声を掛けてくる。
 とりあえず合流はできたけど……さっき吹っ飛ばした奴らも立ち上がっていた。一応死んではいないらしい。ちょっと安心した。


 ただ、安心している場合じゃない。改めて見ると、相手は8人。山羊の仮面の奴らが壁のように間合いを詰めてくる。
 こっちは4人。人数は圧倒的に不利。
 それにファンタジーゲームのような鎧に身を固めた、しかも僕等より背の高い連中に囲まれるのは威圧感がある。


 そして、今更ながら気づいた。
 さっき来た時には単なる回廊の壁だったはずのところに別の通路がつながってる。
 ただの壁だったところから、灰色の崩れかけた石組みで組まれた遺跡のような通路が見えて、わずかに太陽の光らしきものが差し込んできている。
 境目は灰色の石畳とこっちに赤っぽい石畳が溶けあうようにつながっていた。


 こういうのは見覚えがある。 
 野良ダンジョンの境界線だ。ダンジョンが展開して、僕等の世界とダンジョンが混ざり合った境目、それと似ている。


「突然アレが出てきてよ、で、あいつらがわけわからねぇこと言いながら切りかかってきたんだ」


 三田ケ谷が山羊の仮面から視線を外さないままに教えてくれる。


「しかし……人と戦うのは流石にちょっとな」


 剣を構えつつ、三田ケ谷が言う。
 それは割と僕も同感だ。モンスターと戦うのはいい加減慣れたけど、人間と戦うのは想定外だ。
 それにそもそもこいつらはなんなんだ?少なくとも日本人の魔討士じゃないことだけは確実だけど。


「ルーファさん、こいつらは誰だか……」
「危ない!」


 聞こうとしたけど、その前に檜村さんが声を上げた。
 山羊の仮面の壁の後ろに、いつのまにか軽自動車位ありそうな岩の塊が浮いている。
 何処かの有名な絵でみたようなシュールな光景だ……なんて思っている場合じゃない。
 岩が空気を震わせてこっちに飛んできた。


「一刀!薪風」


 風の壁が立ち上がる。でも、ひとたまりもなく吹き散らされたのが分かった。重すぎて止まらない。


「俺に任せろ!」


 躱そうとするより早く、三田ケ谷が飛び出した。両手持ちの大剣を曲芸のように左右に振りまわす。
 白い光を放つ軌道が何条も盾のように空中に残って、それに岩がぶつかった。
 轟音を立てて岩が砕けて破片が飛び散る。砕けた破片が降りそそいで、重たげな音を立てて石畳とぶつかった。


「どうよ、俺の技は。名付けてソードシールド」


 ドヤ顔で言われるけど……そのまんまの名称だな。
 まあ技の名前とかは僕もあまり人のことは言えない感あるけど。


「やるね」
「お前やルーファちゃんに負けてらんねぇからな。おれも少しは強くなってるんだぜ」


 自慢気な顔で三田ケ谷が言う。
 包囲するように位置取りしていた山羊の仮面が動揺したかのように一歩下がるけど。


「szép munka」


 その後ろから、ちょっと高い声が聞こえた。


「hé srácok, elnyomjátok őt」


 山羊の仮面の人垣が割れる。
 その間から悠々と進み出てきたのは……どう見ても子供だった。





 身長は150センチもなさそうだけど、その体を鎧と羽根を思わせる模様を入れたマントに包んでいて、顔には中の奴と同じ鳥の嘴を模したような仮面をかぶっていた。
 体格のいい山羊の仮面たちがその子供に恭しく頭を下げる。


 山羊の仮面の連中が三田ケ谷とルーファさんを囲むように位置取りをして、男の子が僕を一瞥した。
 金色の跳ねるような癖っ毛が兜の隙間からのぞいていて、僕を見上げる仮面でおおわれていない目はいかにも生意気そうな感じを漂わせていた。


 手にはゲームで見るような、ごつごつした突起をつけたメイスを持っている。
 子供然とした見た目に似つかわしくない武骨な武器だ。それに身長が小さい分、大きく見える。こんなの振り回せるのか、と思ったけど。


「Mutasd meg, mit tudsz」


 重たげなメイスを軽々と持ち上げた。僕の刀も実際のものより軽く扱える。それに近い武器っぽいな。
 僕を見てそいつが何かを言うけど……相変わらず意味が分からない。僕に分かるのは英語じゃないってくらいだ。  
 ……ただ、こいつが僕の相手だってことくらいは分かる。そして


「三田ケ谷、ルーファさん。檜村さんを頼みます」


 武器を構えるのを見て分かった、と言うか伝わってきた。できれば三田ケ谷の援護もしたいけど……こいつの片手間に山羊の仮面を相手にする余裕はない。
 宗片さんや師匠ほどのじゃないけど、あの如月とかその位の雰囲気はある。
 なんとなく5位か4位とかと対峙してる感じだ。


「Látom……nem érted a szavaimat?……Ez zavaró」


 鳥の仮面が首を傾げて何かを唱えた。


「君……Ho…d…to…僕がovbb……相手するよ」





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