高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
現れた者は誰なのか
魔討士は国家資格だから、禁止事項がいくつかある。
その中で最も重い物は、魔討士同士の戦闘の禁止だ。発覚すれば資格を即取り上げられる。
魔討士はあくまでもダンジョンでモンスターを討伐するのが仕事であって、魔討士同士の私闘は全く無意味。
戦闘の結果どちらかが倒れてしまうなんてことになったら、戦力を減らすだけだ。
……なら、今宗片さんとしているのは何だって話ではある。
勿論バレれば色々と問題にはなりそうだけど、この人は喋らないだろうし、僕が訴えでなければ、だれもこの戦いのことはしらずに終わる。
まあそれに、この人は資格を取り上げられても大して気にしなさそうな気がする。それに乙類ダントツの最強剣士から資格を取り上げられるかって話だ
いずれにせよ、この禁止事項は誰もが知っている。
といいつつ、魔討士同士の私闘が無いわけじゃない。
ただし、一方的な不意打ちはまずありえない。それこそ、片方がもう片方を恨んでいて、全滅させるつもりでやるとかでない限りは。
そして僕にはそんな心当たりはない。
そもそも浅い階層なら兎も角、八王子にミノタウロスの間に他のパーティがいるはずがない。
「Ki vagy te?
mit csinálsz?」
薄暗がりの中でそいつの姿が見えてきた。
檜村さんに細いレイピアのような剣を突き付けている奴は細身で、灰色の胸当てのような鎧を着ている。
そしてその上には茶色のマントを羽織っていた。マントは鳥の羽のような文様が織り込まれていて、裾は鳥の羽を思わせるよな房がつけられている。
顔には鼻から口元を覆うように、鳥のくちばしのような仮面をつけていた。羽根を模したような飾りがついた金属のフレームが兜のように頭を覆っている。
見た目が……なんというかゲームか映画から飛び出してきましたって感じだ。
そして、兜からは銀色の髪がのぞいていて、目も青い。少なくとも日本人じゃない。
その後ろの付き従うように立っているやつも同じように揃いの胸当てにマントを着ていた。
違うのは顔を隠している仮面で、顔を覆う部分は簡素だけど、兜から巻き角ののようなものが伸びている。山羊か鹿のようだ。
手には盾と重たげな戦槌を持っている。
変わった格好で戦う魔討士はいる。でもここまでの人は見たことも聞いたこともない。
というか……なんとなくわかった。ルーファさんと同じ、他の世界の人だ。もしルーファさんと会っていなければ、そんなこと思いもしなかっただろうけど。
ただ、なんとなく人種は違う感じだな。
「megölöd a bikát?」
「ははっ、君達、コスプレ魔討士かな?結構似合ってるよ。でも、此処はコミケ会場じゃないんだ」
宗片さんが分かっているんだかいないんだかわからない口調で言う。
「宗片さん……あいつは」
「うーん、分かってるよ。君の所のルーファちゃんと同じかな?」
全然驚いた気配が無いんだけど、流石に察してはいたらしい……ちょっと安心した。
でも、こいつらがどこから来たのか、厳密な意味で何者なのかはとりあえずどうでもいい。今は檜村さんを助けないと。
半身を起こしているから命に別状はないようだけど……目の前にレイピアの切っ先が突き付けられている。
肩から血が流れているのが見えた。
「でもねー今はそんなことより大事なことが有るんだよね」
「Tegye le a fegyverét
Hajlítsa meg a térdét」
その鷹の仮面がまた全く知らない言葉で何か言う。くぐもっていてはっきりしないけど……女の声だろうか。
「何言ってんだか分かんないよ?日本語話してくれない?」
鷹の仮面が舌打ちすると、檜村さんから剣を動かさないままで何かをつぶやいた
「……西域共通語を解さないとは、どこのものだ。名乗れ」
流ちょうな日本語が仮面の下から聞こえた。
女の声、そして日本語。ルーファさんのあの術と同じものか。
「ミノタウロスを討伐したのはお前等のようだが……なぜ戦っている。手柄をめぐって仲間割れでもしたのか?」
後ろからも足音がした。半身になって視線を後ろにやると、もう二人が僕等を囲むように斜め後ろにいいた。
同じような巻き角の生えた山羊のものっぽい仮面ををかぶっている。2対5か。
「ああ、ようやく話が通じたね……じゃあ言うけど」
宗片さんが言葉を切った。と同時にぞっとするような寒気が隣から伝わってくる。
横目で見ると、いつもの笑顔が消えていた。
にこやかでちょっと子供っぽい感じじゃなくて、寒々とした薄笑いだ。
「あのね……僕の楽しい時間を邪魔した挙句に、僕の前で僕のパーティのメンバーに手を出すとか……君達、首に未練はないのかな?」
「もう一度言う、仲間を思う心くらいはあるだろう。右のお前、その手の剣をすてよ」
そいつが僕を見ながら言う。
宗片さんの手にしている一刀斎の刀身がいつの間にか消えていた。
「両名とも跪け。何者か知らんが、殺すのは本意ではない」
切っ先に押されるように檜村さんが地面に横たわるけど。
「これが最後の……」
「君……言葉に注意しな」
宗片さんがそいつの言葉を遮った。
「……僕の間合いだよ」
不意に宗片さんが一歩踏み込んだ。一瞬空中に光がきらめく。
鳥の仮面が手にしていたレイピアがはじけ飛んだ。
★
刀が伸びたのかと思うほどの遠間。アレが届くのか。
「何?」
「隙だらけ!」
鳥の仮面が身を反らしたけど、胸当てが裂けた。ぱっと血がしぶく。
血を迸らせた刀身が空中に赤い軌跡を描いた。
「片岡君!」
「一刀!薪風!旋凪!」
強く横に吹き付ける風をイメージして刀を振る。
重い塊のような風が後ろの山羊の仮面の二人と鷹の仮面をとらえる。三人がもつれ合うようにしてバランスを崩した。
檜村さんが表情をゆがめながら立ち上がる。
「くそ、かかれ!」
鳥の仮面が号令をかけると後ろの二人がこっちに突っ込んでくる。
宗片さんが僕と視線を合わせて、前を顎で示してそのまま後ろを振り向いた。
後ろの二人は宗片さん……前は僕がやれってことか。
走ってくる檜村さんの向こうで鳥と山羊の仮面が立ち上がろうとしていた。
「一刀!薪風!」
もう一度刀を振る。今度はいつも通り風の壁を立てるイメージ。
石の破片がふわりと舞って、檜村さんとそいつらの間に壁がそそり立つ。立ち上がった山羊の仮面の奴が壁に触れてまたバランスを崩した。
檜村さんが重い足を引きずるようにしてこっちに向かってくる。
手を取ると、安心したように体を預けてきた。体を支える。
「大丈夫ですか?」
「なんとかね、すまない」
傷はそこまで深くなさそうだけど……痛くないわけはないか。
いつもは冷静な顔がつらそうに歪んでいて、荒い息がかかる。回復魔法でも使えればいいんだけど……
そして、後ろから金属音が立て続けに響いた。
振り返ると、手に持っていたらしい戦槌は遠くに転がっていて一人が尻もちをつくように倒れている。
もう一人は盾を支えに辛うじて立っているって感じだけど……鎧の下から血が流れ落ちているのが見えた。
「鎧があるのに……なぜだ」
山羊の仮面のもう1人もよろめいて膝をついた。
何ていうか……微塵の容赦もないな。しかも刀身を消しているってことはモンスターを殺すモードだ。
さっきは刀身が見えていてもあの速さの突きを捌くのは難しかった。不可視の状態なら躱せるとは思えない。
しかも鎧を着ていようとお構いなしって感じだ。一刀斎は装甲や鱗を透過するっていうのは本当らしい。
「侮りがたいもののようだな。だが、私はその者たちとは違うぞ」
鳥の仮面がそう言ってレイピアを横に薙ぐと、薪風の風の壁が散らされるように消えた。
もう弱くなっていたとはいえ……こいつも風を切ることができるのか。
戦槌を構えた山羊の仮面と鳥の仮面の奴が距離を取って囲むように間合いを詰めてくる。
「鷹の位階の力をみせてやろう」
「片岡君、檜村さん、君たちはお友達の援護をしてあげな」
鳥の仮面がレイピアを宗片さんが横目で扉の方を見ながら言う。
扉の方から叫ぶ声と金属がぶつかり合うの音が聞こえていた。外にもいるのか。
「ああ、いやね、ここは僕に任せて君は行け……なんていう格好いいこといいたいわけじゃなくてね」
寒気がするような笑みを浮かべながら宗片さんが言う。
「……僕の楽しみを邪魔したこいつらはちょっと僕が切らないと気が済まないんだよねぇ」
大丈夫ですか?と聞こうと思ったけど。
「僕は一刀斎……天下無双さ。さ、行きな」
手で僕等を追いやるようにして、宗片さんが鳥の仮面の方を向き直る。
「すみません……行けますか?檜村さん」
「ああ、勿論だ。さあ行こう」
その中で最も重い物は、魔討士同士の戦闘の禁止だ。発覚すれば資格を即取り上げられる。
魔討士はあくまでもダンジョンでモンスターを討伐するのが仕事であって、魔討士同士の私闘は全く無意味。
戦闘の結果どちらかが倒れてしまうなんてことになったら、戦力を減らすだけだ。
……なら、今宗片さんとしているのは何だって話ではある。
勿論バレれば色々と問題にはなりそうだけど、この人は喋らないだろうし、僕が訴えでなければ、だれもこの戦いのことはしらずに終わる。
まあそれに、この人は資格を取り上げられても大して気にしなさそうな気がする。それに乙類ダントツの最強剣士から資格を取り上げられるかって話だ
いずれにせよ、この禁止事項は誰もが知っている。
といいつつ、魔討士同士の私闘が無いわけじゃない。
ただし、一方的な不意打ちはまずありえない。それこそ、片方がもう片方を恨んでいて、全滅させるつもりでやるとかでない限りは。
そして僕にはそんな心当たりはない。
そもそも浅い階層なら兎も角、八王子にミノタウロスの間に他のパーティがいるはずがない。
「Ki vagy te?
mit csinálsz?」
薄暗がりの中でそいつの姿が見えてきた。
檜村さんに細いレイピアのような剣を突き付けている奴は細身で、灰色の胸当てのような鎧を着ている。
そしてその上には茶色のマントを羽織っていた。マントは鳥の羽のような文様が織り込まれていて、裾は鳥の羽を思わせるよな房がつけられている。
顔には鼻から口元を覆うように、鳥のくちばしのような仮面をつけていた。羽根を模したような飾りがついた金属のフレームが兜のように頭を覆っている。
見た目が……なんというかゲームか映画から飛び出してきましたって感じだ。
そして、兜からは銀色の髪がのぞいていて、目も青い。少なくとも日本人じゃない。
その後ろの付き従うように立っているやつも同じように揃いの胸当てにマントを着ていた。
違うのは顔を隠している仮面で、顔を覆う部分は簡素だけど、兜から巻き角ののようなものが伸びている。山羊か鹿のようだ。
手には盾と重たげな戦槌を持っている。
変わった格好で戦う魔討士はいる。でもここまでの人は見たことも聞いたこともない。
というか……なんとなくわかった。ルーファさんと同じ、他の世界の人だ。もしルーファさんと会っていなければ、そんなこと思いもしなかっただろうけど。
ただ、なんとなく人種は違う感じだな。
「megölöd a bikát?」
「ははっ、君達、コスプレ魔討士かな?結構似合ってるよ。でも、此処はコミケ会場じゃないんだ」
宗片さんが分かっているんだかいないんだかわからない口調で言う。
「宗片さん……あいつは」
「うーん、分かってるよ。君の所のルーファちゃんと同じかな?」
全然驚いた気配が無いんだけど、流石に察してはいたらしい……ちょっと安心した。
でも、こいつらがどこから来たのか、厳密な意味で何者なのかはとりあえずどうでもいい。今は檜村さんを助けないと。
半身を起こしているから命に別状はないようだけど……目の前にレイピアの切っ先が突き付けられている。
肩から血が流れているのが見えた。
「でもねー今はそんなことより大事なことが有るんだよね」
「Tegye le a fegyverét
Hajlítsa meg a térdét」
その鷹の仮面がまた全く知らない言葉で何か言う。くぐもっていてはっきりしないけど……女の声だろうか。
「何言ってんだか分かんないよ?日本語話してくれない?」
鷹の仮面が舌打ちすると、檜村さんから剣を動かさないままで何かをつぶやいた
「……西域共通語を解さないとは、どこのものだ。名乗れ」
流ちょうな日本語が仮面の下から聞こえた。
女の声、そして日本語。ルーファさんのあの術と同じものか。
「ミノタウロスを討伐したのはお前等のようだが……なぜ戦っている。手柄をめぐって仲間割れでもしたのか?」
後ろからも足音がした。半身になって視線を後ろにやると、もう二人が僕等を囲むように斜め後ろにいいた。
同じような巻き角の生えた山羊のものっぽい仮面ををかぶっている。2対5か。
「ああ、ようやく話が通じたね……じゃあ言うけど」
宗片さんが言葉を切った。と同時にぞっとするような寒気が隣から伝わってくる。
横目で見ると、いつもの笑顔が消えていた。
にこやかでちょっと子供っぽい感じじゃなくて、寒々とした薄笑いだ。
「あのね……僕の楽しい時間を邪魔した挙句に、僕の前で僕のパーティのメンバーに手を出すとか……君達、首に未練はないのかな?」
「もう一度言う、仲間を思う心くらいはあるだろう。右のお前、その手の剣をすてよ」
そいつが僕を見ながら言う。
宗片さんの手にしている一刀斎の刀身がいつの間にか消えていた。
「両名とも跪け。何者か知らんが、殺すのは本意ではない」
切っ先に押されるように檜村さんが地面に横たわるけど。
「これが最後の……」
「君……言葉に注意しな」
宗片さんがそいつの言葉を遮った。
「……僕の間合いだよ」
不意に宗片さんが一歩踏み込んだ。一瞬空中に光がきらめく。
鳥の仮面が手にしていたレイピアがはじけ飛んだ。
★
刀が伸びたのかと思うほどの遠間。アレが届くのか。
「何?」
「隙だらけ!」
鳥の仮面が身を反らしたけど、胸当てが裂けた。ぱっと血がしぶく。
血を迸らせた刀身が空中に赤い軌跡を描いた。
「片岡君!」
「一刀!薪風!旋凪!」
強く横に吹き付ける風をイメージして刀を振る。
重い塊のような風が後ろの山羊の仮面の二人と鷹の仮面をとらえる。三人がもつれ合うようにしてバランスを崩した。
檜村さんが表情をゆがめながら立ち上がる。
「くそ、かかれ!」
鳥の仮面が号令をかけると後ろの二人がこっちに突っ込んでくる。
宗片さんが僕と視線を合わせて、前を顎で示してそのまま後ろを振り向いた。
後ろの二人は宗片さん……前は僕がやれってことか。
走ってくる檜村さんの向こうで鳥と山羊の仮面が立ち上がろうとしていた。
「一刀!薪風!」
もう一度刀を振る。今度はいつも通り風の壁を立てるイメージ。
石の破片がふわりと舞って、檜村さんとそいつらの間に壁がそそり立つ。立ち上がった山羊の仮面の奴が壁に触れてまたバランスを崩した。
檜村さんが重い足を引きずるようにしてこっちに向かってくる。
手を取ると、安心したように体を預けてきた。体を支える。
「大丈夫ですか?」
「なんとかね、すまない」
傷はそこまで深くなさそうだけど……痛くないわけはないか。
いつもは冷静な顔がつらそうに歪んでいて、荒い息がかかる。回復魔法でも使えればいいんだけど……
そして、後ろから金属音が立て続けに響いた。
振り返ると、手に持っていたらしい戦槌は遠くに転がっていて一人が尻もちをつくように倒れている。
もう一人は盾を支えに辛うじて立っているって感じだけど……鎧の下から血が流れ落ちているのが見えた。
「鎧があるのに……なぜだ」
山羊の仮面のもう1人もよろめいて膝をついた。
何ていうか……微塵の容赦もないな。しかも刀身を消しているってことはモンスターを殺すモードだ。
さっきは刀身が見えていてもあの速さの突きを捌くのは難しかった。不可視の状態なら躱せるとは思えない。
しかも鎧を着ていようとお構いなしって感じだ。一刀斎は装甲や鱗を透過するっていうのは本当らしい。
「侮りがたいもののようだな。だが、私はその者たちとは違うぞ」
鳥の仮面がそう言ってレイピアを横に薙ぐと、薪風の風の壁が散らされるように消えた。
もう弱くなっていたとはいえ……こいつも風を切ることができるのか。
戦槌を構えた山羊の仮面と鳥の仮面の奴が距離を取って囲むように間合いを詰めてくる。
「鷹の位階の力をみせてやろう」
「片岡君、檜村さん、君たちはお友達の援護をしてあげな」
鳥の仮面がレイピアを宗片さんが横目で扉の方を見ながら言う。
扉の方から叫ぶ声と金属がぶつかり合うの音が聞こえていた。外にもいるのか。
「ああ、いやね、ここは僕に任せて君は行け……なんていう格好いいこといいたいわけじゃなくてね」
寒気がするような笑みを浮かべながら宗片さんが言う。
「……僕の楽しみを邪魔したこいつらはちょっと僕が切らないと気が済まないんだよねぇ」
大丈夫ですか?と聞こうと思ったけど。
「僕は一刀斎……天下無双さ。さ、行きな」
手で僕等を追いやるようにして、宗片さんが鳥の仮面の方を向き直る。
「すみません……行けますか?檜村さん」
「ああ、勿論だ。さあ行こう」
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