高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
逃げながら戦うことは想像するよりかなり難しい。
暗くなった視界が戻った。
目に飛び込んできたのは四角いパネルのようなものに覆われた壁。パネル自体が発光していて、淡い白い光が辺りをそこそこに明るく照らしている。
四角い通路がまっすぐ伸びていて、後ろは行き止まりのように壁がそそり立っていた。
通路に等間隔に並ぶ柱はなんとなく地下鉄の通路っぽい。
「ここは?」
「ダンジョンの中に引き込まれたようだ……ダンジョンの展開が恐ろしく早いな」
横で檜村さんがスマホを見ていた。とりあえず一人じゃないことにちょっと安心する。
何が起きたのか分からなかったけど、発生したダンジョンの中なのか。でも。
「こんなことってありました?」
檜村さんが首を振った。
野良ダンジョンに遭遇した時はその場で戦闘にはなるけど、ダンジョンマスターを倒せばそこでダンジョンは消える。
あのデカイ球体がダンジョンマスターだったとしても、戦闘になる前にダンジョンが出来てしまうなんて聞いたこともない
「なんか……新宿に似てますね」
なんとなく新宿で戦った時を思い出す。八王子の自然の洞窟のような雰囲気とかと違って、四角形のまっすぐ伸びた人工的な感じの通路と、光を放つパネル。
「そうだな……何かつながりがあるのかもしれないが」
今はそれどころじゃないか。
檜村さんがスマホを見るように促す。見てみると、画面いっぱいに表示されていた警告は消えて、ダンジョンの見取り図、というほどではないけど、簡易な地図が表示されていた。
ただ、通路の殆どは途切れていてデータなしのような状態だけど。
「おそらくだが……この表示を信じるなら我々がいるのは2階層だ。すでに三階層までダンジョンが形成されているようだな」
「そして……あの、この方は?」
檜村さんの後ろ、というか壁際に寄り添うように3人の人がいた。ラフなジャケット姿の男性と、シックなブラウス姿の女の人。どっちも20歳半ばって感じかな。こわばった表情で僕等を見ている
それとアニメのキャラクターがプリントされたシャツを着た男の子。3歳くらいだろうか。
遠目にも泣くのをこらえてるのが分かった。
「相馬さんご夫妻と、中村裕君。どうやら巻き込まれたようだ……気の毒なことに」
近寄ってきた檜村さんが小声でささやく
「あの子供は?」
「あの二人の子供ではないそうだよ………なんとしても」
「そうですね」
子供が一人で銀座をうろついているはずはない。親御さんがいるはずだ。
どれだけ心配しているか……なんとか無事で返してあげないと。ただ。
「誰かを守りながら戦うとか、やったことありますか?」
「生憎だが……ないな。君にばかり負担をかけてすまないが……」
「ええ、前衛は僕がやります。あの人たちをどうにか連れて行ってください」
「それは任せてくれ」
というところでふと思った。巻き添えがいるってことは
「そう言えば……絵麻と朱音は?」
「…………少なくとも……ここにはいなかった」
檜村さんの表情が一瞬曇って、言葉を選ぶように言う。
「きっと地上にいるよ」
「だといいんですけど……」
電話帳から二人に電話してみるけど。こっちの電波は通っているようだけど、向こうが圏外だった。
「いずれにせよ、ここに居ても仕方ない」
「ええ、行きましょう」
★
僕等を追うように黒い球体が滑るように空中を飛んできた。
泡のように分裂した球体が波打つ。球体が光ってレーザーのようなものが飛んだ
目の前をかすめて、一瞬目がくらむ。
さっきから現れるのはこの球体ばかりだ。空中から湧き出すように現れる。
離れたらレーザーのようなものを飛ばしてくるし、近寄ったら泡のように分裂した球がハンマーのようにぶつかってくる。
嫌な相手だ。
「片岡君!」
後ろから誰かの悲鳴と檜村さんの声が聞こえた。
「大丈夫です!早く離れて!」
後ろを振り向くと、相馬さん達が裕君の手を引いて走って行って、檜村さんがこちらを見ながらそれを追っていくのが見えた。
流れ弾が直撃、なんてことにならなくてよかった。
炎のブレスとか、何かを投げてくるとか飛ばしてくるとかなら風である程度防げるんだけど、レーザーを風で止めることはできない。
もう一度振り返ると、黒い球体が泡のように分裂しながら距離を取るように後退していく。
表面が波打った。レーザーを撃ってくる……遠い。踏み込むのは無理。
「一刀!破矢風!」
上段に振り上げた刀をまっすぐ振り下ろす。
刀身が震えてわずかな手ごたえが手のひらに伝わる。風が一瞬吹いて髪が舞って、真ん中の大きい球が縦に割れた。
もう一発撃たれる前に倒せてよかった。半分に割れた球が形を失って消えて、ライフコアが転がるけど……いまは悠長に拾っている暇はない。
一息つきたかったけど、また誰かの悲鳴が上がった。
檜村さん達の方を向く。通路を塞ぐようにあの球が浮かんでいた。どれだけ出てくるんだ。
檜村さんが相馬さん達を守るように立って詠唱を始めている。
「【書架は南東・想像の四列。壱百五拾弐頁五節。私は口述する】」
「一刀!薪風!」
風の壁をイメージして刀を振る。
球体が風に包まれて押し返されるように止まった。
「『古の射手は風を友とした、一矢が遠き野にあるものを違わず刺すはその導きの賜物と知れ』術式解放!」
球が分裂し始めたところで、長い針のようなものが次々と球体につき刺さった。
球体が形を失って消える。
通路を見まわすけど……静けさが戻っていた。次のが現れる気配はない。とりあえずひと段落だろうか。
泣きそうな裕君と相馬さんの奥さんのすすり泣く声だけが通路に聞こえていた。
目に飛び込んできたのは四角いパネルのようなものに覆われた壁。パネル自体が発光していて、淡い白い光が辺りをそこそこに明るく照らしている。
四角い通路がまっすぐ伸びていて、後ろは行き止まりのように壁がそそり立っていた。
通路に等間隔に並ぶ柱はなんとなく地下鉄の通路っぽい。
「ここは?」
「ダンジョンの中に引き込まれたようだ……ダンジョンの展開が恐ろしく早いな」
横で檜村さんがスマホを見ていた。とりあえず一人じゃないことにちょっと安心する。
何が起きたのか分からなかったけど、発生したダンジョンの中なのか。でも。
「こんなことってありました?」
檜村さんが首を振った。
野良ダンジョンに遭遇した時はその場で戦闘にはなるけど、ダンジョンマスターを倒せばそこでダンジョンは消える。
あのデカイ球体がダンジョンマスターだったとしても、戦闘になる前にダンジョンが出来てしまうなんて聞いたこともない
「なんか……新宿に似てますね」
なんとなく新宿で戦った時を思い出す。八王子の自然の洞窟のような雰囲気とかと違って、四角形のまっすぐ伸びた人工的な感じの通路と、光を放つパネル。
「そうだな……何かつながりがあるのかもしれないが」
今はそれどころじゃないか。
檜村さんがスマホを見るように促す。見てみると、画面いっぱいに表示されていた警告は消えて、ダンジョンの見取り図、というほどではないけど、簡易な地図が表示されていた。
ただ、通路の殆どは途切れていてデータなしのような状態だけど。
「おそらくだが……この表示を信じるなら我々がいるのは2階層だ。すでに三階層までダンジョンが形成されているようだな」
「そして……あの、この方は?」
檜村さんの後ろ、というか壁際に寄り添うように3人の人がいた。ラフなジャケット姿の男性と、シックなブラウス姿の女の人。どっちも20歳半ばって感じかな。こわばった表情で僕等を見ている
それとアニメのキャラクターがプリントされたシャツを着た男の子。3歳くらいだろうか。
遠目にも泣くのをこらえてるのが分かった。
「相馬さんご夫妻と、中村裕君。どうやら巻き込まれたようだ……気の毒なことに」
近寄ってきた檜村さんが小声でささやく
「あの子供は?」
「あの二人の子供ではないそうだよ………なんとしても」
「そうですね」
子供が一人で銀座をうろついているはずはない。親御さんがいるはずだ。
どれだけ心配しているか……なんとか無事で返してあげないと。ただ。
「誰かを守りながら戦うとか、やったことありますか?」
「生憎だが……ないな。君にばかり負担をかけてすまないが……」
「ええ、前衛は僕がやります。あの人たちをどうにか連れて行ってください」
「それは任せてくれ」
というところでふと思った。巻き添えがいるってことは
「そう言えば……絵麻と朱音は?」
「…………少なくとも……ここにはいなかった」
檜村さんの表情が一瞬曇って、言葉を選ぶように言う。
「きっと地上にいるよ」
「だといいんですけど……」
電話帳から二人に電話してみるけど。こっちの電波は通っているようだけど、向こうが圏外だった。
「いずれにせよ、ここに居ても仕方ない」
「ええ、行きましょう」
★
僕等を追うように黒い球体が滑るように空中を飛んできた。
泡のように分裂した球体が波打つ。球体が光ってレーザーのようなものが飛んだ
目の前をかすめて、一瞬目がくらむ。
さっきから現れるのはこの球体ばかりだ。空中から湧き出すように現れる。
離れたらレーザーのようなものを飛ばしてくるし、近寄ったら泡のように分裂した球がハンマーのようにぶつかってくる。
嫌な相手だ。
「片岡君!」
後ろから誰かの悲鳴と檜村さんの声が聞こえた。
「大丈夫です!早く離れて!」
後ろを振り向くと、相馬さん達が裕君の手を引いて走って行って、檜村さんがこちらを見ながらそれを追っていくのが見えた。
流れ弾が直撃、なんてことにならなくてよかった。
炎のブレスとか、何かを投げてくるとか飛ばしてくるとかなら風である程度防げるんだけど、レーザーを風で止めることはできない。
もう一度振り返ると、黒い球体が泡のように分裂しながら距離を取るように後退していく。
表面が波打った。レーザーを撃ってくる……遠い。踏み込むのは無理。
「一刀!破矢風!」
上段に振り上げた刀をまっすぐ振り下ろす。
刀身が震えてわずかな手ごたえが手のひらに伝わる。風が一瞬吹いて髪が舞って、真ん中の大きい球が縦に割れた。
もう一発撃たれる前に倒せてよかった。半分に割れた球が形を失って消えて、ライフコアが転がるけど……いまは悠長に拾っている暇はない。
一息つきたかったけど、また誰かの悲鳴が上がった。
檜村さん達の方を向く。通路を塞ぐようにあの球が浮かんでいた。どれだけ出てくるんだ。
檜村さんが相馬さん達を守るように立って詠唱を始めている。
「【書架は南東・想像の四列。壱百五拾弐頁五節。私は口述する】」
「一刀!薪風!」
風の壁をイメージして刀を振る。
球体が風に包まれて押し返されるように止まった。
「『古の射手は風を友とした、一矢が遠き野にあるものを違わず刺すはその導きの賜物と知れ』術式解放!」
球が分裂し始めたところで、長い針のようなものが次々と球体につき刺さった。
球体が形を失って消える。
通路を見まわすけど……静けさが戻っていた。次のが現れる気配はない。とりあえずひと段落だろうか。
泣きそうな裕君と相馬さんの奥さんのすすり泣く声だけが通路に聞こえていた。
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