高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
異世界から来た彼女の生い立ちについて
今更ながらって感じで魔討士たちが新宿の方からやってきたので一旦場所を変えることにした。
というのはあまりにも彼女の格好は目立ち過ぎる。
服の艶やかな赤色が目立つ上に、その服装もゲームの中から飛び出してきましたって感じだし。
渋る彼女のロングコートの様な上着と髪の飾り帯だけは脱いでもらった。
黒の長めのワンピース姿になったけど、ワンピースや腰の帯も刺繍が入っていてやっぱり派手だった。
でもロングコートよりはマシだ。今はもう夏に差し掛かりつつある。この時期にロングコートを着ている人なんていない。
すぐに暑さに気付いたらしくサナルーファさんも暑そうに帯で汗をぬぐっていた。
とりあえず歩いて手近なファーストフード店に入った。
注文を適当に済ませて、店員さんの好奇の目を黙殺しつつ店の一番奥のシートに陣取る。
夕暮れ時なので店内は閑散としていたのは幸いだった。
「ここは氷室なのでしょうか?」
エアコンの効いた店内を見回しながらルーファさんが言う。
ルーファは故郷の村での呼び名らしい。長いからそう呼んでいいかと檜村さんが聞いてあっさりOKが出た。
ルーファさんはベージュで統一された店内をきょろきょろと珍しそうに見ている。
「さて、どうするか……これは二重の意味で大変なことだよ」
「何がですか?」
「ダンジョンの向こうには知的生命体がいること、そしてそれがこっちに来ることが可能と言うことさ」
言われてみれば確かにその通りだ。
今までダンジョンはモンスターが現れる場所でしかなかった。だけどその向こうに人がいたとしたら?小説で良く描かれるような異世界に行けたりとかするのだろうか
「ルーファさん、ちょっと聞いていいですか?」
「なんでもお話しします……あの、これは食べ物ですか?頂いてよろしいでしょうか」
トレイの上に並んだポテトが香ばしいにおいを放っている。細いフライドポテトに目が釘付けになっていた。
「どうぞ」
そういうと、ルーファさんがポテトを食べ始めた。一口食べて熱そうに顔をしかめたけど、すぐに次のを取る。
見る見るうちにポテトが減って行った。そんなにおなかが空いていたんだろうか
「ここにはどうやって来たんですか?」
「三つ首竜と戦う準備をしているときに赤い霧に包まれました。気がついたら貴方たちが居られたので……加勢しました」
言っている間もポテトを口に運ぶのは止まらない。口元を抑えながら返事をしてくれた。
そんなに慌てて食べなくても別に取りあげたりはしないんだけどね
「こんな風に違う世界に行けるって知ってます?」
「いえ、知りません」
「行ったって話とかは聞いたことあります?」
「長老などは分かりませんが……私はありません」
ちょっと済まなそうな顔でルーファさんが言う。
「例えばだが、君の部族が君のようにこっちの世界に来られるとしてだ、君たちの世界の人たちがこっちにたくさん渡ってくるという可能性はあるかね?」
檜村さんが言うと、ルーファさんが困ったような顔で考え込んだ。
ポテトのLサイズの箱はもう半分以上が空になっている。
「ソラヴェリア皇国は分かりませんが……少なくとも私の部族ではそんな余裕はありません。おそらく何処の部族もそんな違いはないでしょう。今は冬支度の真っ最中ですし、冬が明ければ羊を育てますから……化外の獣と戦うので精一杯です」
化外の獣ってのはモンスターのことだろうか。
彼女がもと居た世界はあんなモンスターが普通にうろついている世界ってことなのかな。だとしたら恐ろしい。
ソラヴェリア皇国とやらはどこかの国なんだろうけど、今のところはダンジョンを抜けて異世界へ、ということは知られていないっぽいな。
ダンジョンから異世界の軍隊が押し寄せてくる、と言う可能性は低い感じだ。
ただ。
「こう言ったらなんですけど……帰れないかもしれませんよ」
今の話を聞く限り、この子がここに来たのは意図的なものじゃない。戦闘中の偶然だ。
もう一度偶然が起きない限り行き来する方法はたぶんないし、僕等にはその方法は分からない。
そもそもダンジョンが違う世界とつながっているとしても、彼女がもと居た世界につながっているとは限らない。
新宿で出会ったルーンキューブとかを思い出すと、あれとさっき戦ったヒュドラは違い過ぎていて、同じ世界から来ているとは思えない。
その辺を分かっているんだろうか。
ルーファさんが静かに首を振った。
「私はあそこで死ぬはずでした。三つ首竜の足を少しでも止めるのが私の役目でした……命に代えても。
ここで生きていられるのはあなた方のおかげです。カタオカ様、それにヒノキムラ様」
そう言って、ルーファさんが僕等を見た。
「三つ首竜が村を襲うことを止められました。父も母も私のことを誇りに思ってくれるでしょう……思い残すことはありません。ですから戻れないのであれば、戦士として貴方様にご恩をお返ししたいと思います」
なんというか、絵麻と同じくらいの年で僕ともと大して年が変わらなそうなのに、命がけって言葉が出てくるのが……
どういう世界にいたのか知らないけど、命が軽いというかそんな世界だったんだろうな、と思う。
ちょっと間が出来て、ルーファさんがストローで冷たいウーロン茶をすすると、びくっと体を震わせた
「これは?雪でも入っているのでしょうか?」
カップを触りながら言う。
驚いた顔は、なんとなく絵麻とか朱音と同じ感じの年相応って気がした。
★
「さて、それでだ。どうするかな」
檜村さんが誰に言うともなくつぶやく。
ハンバーガーを最初は何かなんだか分からない、と言う顔をしていたルーファさんだけど、一つ食べたらその美味しさが分かったのか、あっという間に一つ平らげてしまった。
まあ余程の激辛とか匂いがキツイとかそういうのじゃなければ美味しいものは世界の壁も超えるんだろう。
改めて顔立ちとかを見ると、華奢というより少し不健康に痩せているというほうが表現としては近い。
ハンバーガーを二つ食べて、次はケチャップに付けたナゲットを大事そうに齧っているルーファさんはとりあえず置いておくことにする。
警察とかに保護を求めるのが一番かもしれないんだけど、ルーファさんは僕等についていく、と言って譲らなかった。
さて、どうすべきか。
「君の家に連れて行くかね?」
檜村さんがアイスティを飲みつつ聞いてくる。
「いや、絶対無理ですよ」
褐色肌の異世界美少女を連れて帰りました、なんてことになると大変なことになる。
「しかし……どうしたらいいのかはわからないな。日本の戸籍制度は完璧に近い。どこともなくあらわれたなんてものに居場所はないぞ」
そう言って、ナゲットの最後の一個を名残惜しそうに取り上げたルーファさんを見た。
「ただ、この子の戦力は魅力だな。一緒に戦ってくれれば助かるのは間違いない」
相変わらずの実利的な発言だ。
ただ、さっきの動きを見る限り、あの変な円弧剣を鮮やかに使いこなしていた。それにあのヴーリなる狼で牽制とかしてもらえれば助かる。
色々と解決すべき問題はあるけど、ある意味待望の三人目のメンバー候補でもあるのだ。
「とりあえず、しばらくは私の家で預かろう。狭いが一人くらいなら何とかなるよ」
そう言って檜村さんがルーファさんを見て、口元に着いたケチャップをぬぐってあげた
というのはあまりにも彼女の格好は目立ち過ぎる。
服の艶やかな赤色が目立つ上に、その服装もゲームの中から飛び出してきましたって感じだし。
渋る彼女のロングコートの様な上着と髪の飾り帯だけは脱いでもらった。
黒の長めのワンピース姿になったけど、ワンピースや腰の帯も刺繍が入っていてやっぱり派手だった。
でもロングコートよりはマシだ。今はもう夏に差し掛かりつつある。この時期にロングコートを着ている人なんていない。
すぐに暑さに気付いたらしくサナルーファさんも暑そうに帯で汗をぬぐっていた。
とりあえず歩いて手近なファーストフード店に入った。
注文を適当に済ませて、店員さんの好奇の目を黙殺しつつ店の一番奥のシートに陣取る。
夕暮れ時なので店内は閑散としていたのは幸いだった。
「ここは氷室なのでしょうか?」
エアコンの効いた店内を見回しながらルーファさんが言う。
ルーファは故郷の村での呼び名らしい。長いからそう呼んでいいかと檜村さんが聞いてあっさりOKが出た。
ルーファさんはベージュで統一された店内をきょろきょろと珍しそうに見ている。
「さて、どうするか……これは二重の意味で大変なことだよ」
「何がですか?」
「ダンジョンの向こうには知的生命体がいること、そしてそれがこっちに来ることが可能と言うことさ」
言われてみれば確かにその通りだ。
今までダンジョンはモンスターが現れる場所でしかなかった。だけどその向こうに人がいたとしたら?小説で良く描かれるような異世界に行けたりとかするのだろうか
「ルーファさん、ちょっと聞いていいですか?」
「なんでもお話しします……あの、これは食べ物ですか?頂いてよろしいでしょうか」
トレイの上に並んだポテトが香ばしいにおいを放っている。細いフライドポテトに目が釘付けになっていた。
「どうぞ」
そういうと、ルーファさんがポテトを食べ始めた。一口食べて熱そうに顔をしかめたけど、すぐに次のを取る。
見る見るうちにポテトが減って行った。そんなにおなかが空いていたんだろうか
「ここにはどうやって来たんですか?」
「三つ首竜と戦う準備をしているときに赤い霧に包まれました。気がついたら貴方たちが居られたので……加勢しました」
言っている間もポテトを口に運ぶのは止まらない。口元を抑えながら返事をしてくれた。
そんなに慌てて食べなくても別に取りあげたりはしないんだけどね
「こんな風に違う世界に行けるって知ってます?」
「いえ、知りません」
「行ったって話とかは聞いたことあります?」
「長老などは分かりませんが……私はありません」
ちょっと済まなそうな顔でルーファさんが言う。
「例えばだが、君の部族が君のようにこっちの世界に来られるとしてだ、君たちの世界の人たちがこっちにたくさん渡ってくるという可能性はあるかね?」
檜村さんが言うと、ルーファさんが困ったような顔で考え込んだ。
ポテトのLサイズの箱はもう半分以上が空になっている。
「ソラヴェリア皇国は分かりませんが……少なくとも私の部族ではそんな余裕はありません。おそらく何処の部族もそんな違いはないでしょう。今は冬支度の真っ最中ですし、冬が明ければ羊を育てますから……化外の獣と戦うので精一杯です」
化外の獣ってのはモンスターのことだろうか。
彼女がもと居た世界はあんなモンスターが普通にうろついている世界ってことなのかな。だとしたら恐ろしい。
ソラヴェリア皇国とやらはどこかの国なんだろうけど、今のところはダンジョンを抜けて異世界へ、ということは知られていないっぽいな。
ダンジョンから異世界の軍隊が押し寄せてくる、と言う可能性は低い感じだ。
ただ。
「こう言ったらなんですけど……帰れないかもしれませんよ」
今の話を聞く限り、この子がここに来たのは意図的なものじゃない。戦闘中の偶然だ。
もう一度偶然が起きない限り行き来する方法はたぶんないし、僕等にはその方法は分からない。
そもそもダンジョンが違う世界とつながっているとしても、彼女がもと居た世界につながっているとは限らない。
新宿で出会ったルーンキューブとかを思い出すと、あれとさっき戦ったヒュドラは違い過ぎていて、同じ世界から来ているとは思えない。
その辺を分かっているんだろうか。
ルーファさんが静かに首を振った。
「私はあそこで死ぬはずでした。三つ首竜の足を少しでも止めるのが私の役目でした……命に代えても。
ここで生きていられるのはあなた方のおかげです。カタオカ様、それにヒノキムラ様」
そう言って、ルーファさんが僕等を見た。
「三つ首竜が村を襲うことを止められました。父も母も私のことを誇りに思ってくれるでしょう……思い残すことはありません。ですから戻れないのであれば、戦士として貴方様にご恩をお返ししたいと思います」
なんというか、絵麻と同じくらいの年で僕ともと大して年が変わらなそうなのに、命がけって言葉が出てくるのが……
どういう世界にいたのか知らないけど、命が軽いというかそんな世界だったんだろうな、と思う。
ちょっと間が出来て、ルーファさんがストローで冷たいウーロン茶をすすると、びくっと体を震わせた
「これは?雪でも入っているのでしょうか?」
カップを触りながら言う。
驚いた顔は、なんとなく絵麻とか朱音と同じ感じの年相応って気がした。
★
「さて、それでだ。どうするかな」
檜村さんが誰に言うともなくつぶやく。
ハンバーガーを最初は何かなんだか分からない、と言う顔をしていたルーファさんだけど、一つ食べたらその美味しさが分かったのか、あっという間に一つ平らげてしまった。
まあ余程の激辛とか匂いがキツイとかそういうのじゃなければ美味しいものは世界の壁も超えるんだろう。
改めて顔立ちとかを見ると、華奢というより少し不健康に痩せているというほうが表現としては近い。
ハンバーガーを二つ食べて、次はケチャップに付けたナゲットを大事そうに齧っているルーファさんはとりあえず置いておくことにする。
警察とかに保護を求めるのが一番かもしれないんだけど、ルーファさんは僕等についていく、と言って譲らなかった。
さて、どうすべきか。
「君の家に連れて行くかね?」
檜村さんがアイスティを飲みつつ聞いてくる。
「いや、絶対無理ですよ」
褐色肌の異世界美少女を連れて帰りました、なんてことになると大変なことになる。
「しかし……どうしたらいいのかはわからないな。日本の戸籍制度は完璧に近い。どこともなくあらわれたなんてものに居場所はないぞ」
そう言って、ナゲットの最後の一個を名残惜しそうに取り上げたルーファさんを見た。
「ただ、この子の戦力は魅力だな。一緒に戦ってくれれば助かるのは間違いない」
相変わらずの実利的な発言だ。
ただ、さっきの動きを見る限り、あの変な円弧剣を鮮やかに使いこなしていた。それにあのヴーリなる狼で牽制とかしてもらえれば助かる。
色々と解決すべき問題はあるけど、ある意味待望の三人目のメンバー候補でもあるのだ。
「とりあえず、しばらくは私の家で預かろう。狭いが一人くらいなら何とかなるよ」
そう言って檜村さんがルーファさんを見て、口元に着いたケチャップをぬぐってあげた
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