高校二年生、魔討士乙類7位、風使い。令和の街角に現れるダンジョンに挑む~例えば夕刻の竹下通りにダンジョンが現れる。そんな日常について~
とりあえず援軍が来たならその素性はいったん棚上げしようと思う
上を見上げると、崖のようになったビルの上に誰かが立っているが見えた。そいつが軽やかな足取りで崖を降りてくる。
ひらひらしたロングコートのようなものを着ていて、裾が翼のように翻る。そのまま僕のすぐそばに立った。
民族衣装を思わせる派手派手しい赤い衣装をまとった小柄な人……顔を目以外赤いベールで隠しているけど、多分女の子だ。
人型のモンスターは何度か戦ったことあるけど、完全な人の姿と置いうのは初めて見た
「шумо кӣ?
шумо сарбоз ҳастед?」
言葉を話す奴も初めて見た……ただ、何かを言ってるけど何を言っているのかわからない。
言葉が通じないことがわかったのか、女の子が苛立たし気に舌打ちした。
その子が一声吠え声のような声を出す。
狼がヒュドラの首から牙を離して地面に降り立つと、その子の側に寄り添った。近くで見ると僕の胸くらいまである。狼というより、普通にモンスターにしか見えない。
とりあえず敵ではなさそうだけど。
「хизматгори ман гург!! 
худро ба шамшер табдил диҳед」
歌うように彼女が何かを唱えると、狼が遠吠えするように体をそらすとその姿がぐにゃりとゆがんだ。
しっぽを噛むような姿勢になってそのまま輪の形に変化する。ほんの数秒に間に、オオカミが波打つような刃を持つ円弧状のようになった剣に変わった。
こんな武器見たことない。
その子が横目で僕を見て、ヒュドラの方を向きなおる。
「сарпуши маро фаро мегирад.
шумо нағзмӣ?」
言葉は分からないけど、空気が変わった。その子が円状の剣の輪の中に入るように構えて姿勢を低くする。睨むようにヒュドラを見上げた。
僕をもう一度ちらりと見て、その子がヒュドラに向かって突っ込んだ。マジかよ。
「檜村さん、早く魔法を」
「分かっている【書架は南東・理性の5列・22頁6節。私は口述する】」
状況が飲み込めないって顔をしていた檜村さんが慌てて詠唱に入った。
女の子が牙が並ぶ巨大な顎を躱した。剣を水平に構えたままダンスのように反転する。
ふわりと裾が舞って、剥き出しになった顎を円弧剣が切り裂いた。体液が噴出して首の一つが悲鳴を上げる。
そのまま首の下をくぐるようにして刀身を縦に向けた。円状の剣が新体操のリングのように一回転して、ヒュドラの喉を深々と切り裂く。体液と赤い炎の欠片が噴き出した。
一つ顔を引き付けてくれるだけでだいぶ違う。もう一方を切りつけた。
ヒュドラが地響きを立てて何歩か下がって咆哮を上げた。足を踏み鳴らして、深呼吸するように首を後ろにそらす。
三つの口が大きく開かれて口から火が瞬いた。首につけられた傷からも火が漏れている。あの状況で火を吐く気か。
「下がって!」
言葉が通じるとは思えなかったけど、気合でニュアンスが伝わったのか。女の子が剣を襷のようにかけたまま下がってくる。
ヒュドラの三つの咢が開いた。洞穴のような黒い口に炎が閃く。
「一刀!薪風!」
刀を振ると、風の壁がそそり立った。同時に火炎放射器のように伸びた炎の帯が風の壁にぶつかる。
視界が真っ赤に染まって熱風が吹き付けた。
「抜かせるか!」
刀を握ったまま風の壁に意識を集中する。息を止めて、重い物をうけとめ足を踏ん張るようなイメージ。
風が強く吹き上げて赤い炎が逆巻く。火が視界を遮って、飛び散った火の粉が頬を焦がす。
唐突に火が途切れた。赤いカーテンのような火が消えて、またヒュドラの姿が見える。
「кори нағз」
その子が僕を見て何かを言った。
言葉は分からなかったけど、感心してくれたってことは表情からなんとなくわかった。目は口ほどにものを言う。
でも気を抜いている場合じゃない。ヒュドラがもう一度ブレスの準備動作に入る。
火を吐こうとした首の一つが突然内側からはじけるように吹き飛んだ。火の粉が飛び散る。さっきこの子に切られた首だ。
怒ったようにヒュドラが足を踏み鳴らして僕等を威嚇するように見る。自爆してくれたのは助かったけど、まだ首は二つある。もう一度耐えられるか。
刀を握ってもう一度意識を風に集中した時。
「待たせたな、すまない」
檜村さんの声がかかった。
振り向くと、いつものように空中に浮かぶ本の頁のような紙が檜村さんの周りをまわっていた。白い紙が青白く輝く雪のように変わる。
「『ここは最果て北端の城郭、此の地にて炎の燃ゆるは禁じられし行い。全ては凍てつき永久に眠るべし、其は王命なり』術式解放!」
詠唱が終わると同時に気温が一瞬で下がった。半袖の肌を氷のような冷気がなでて鳥肌が立つ。
冷凍庫を開けた時のような冷風が吹き付けて、さっきまでとは打って変わって静寂が降りた。
前を見ると、巨大なヒュドラが一瞬で白い氷に閉じ込められていた。
★
見ていると氷が砕け散った。氷の破片が舞ってキラキラ輝く。中に入っているヒュドラも一緒にバラバラになった。
相変わらず詠唱は長いけど、威力はすさまじいな。手間がかかるだけある。
後にはいつも通りライフコアが残された。今まで見た奴の中では一番大きい。
「ありがとう。さすがだな、片岡君」
檜村さんが声を掛けてきた。
赤い光が薄れて行って、周囲の景色が元に戻る。
「かなりの難敵だったね」
「ええ、本当に」
新宿が近い割には全く援護がなかったけど。
改めてライフコアに目をやる。かなりの大物だ。討伐実績点も評価点も期待できる。
今となっては援護は無かったけど、これを二人で山分けできるんだから良しとしよう。
命のやり取りをしてるんだから結果オーライは止めろ、とは師匠からよく言われているけど、勝てば官軍と言う言葉もあることだし。
緊張感が抜けてテンションが落ちると同時に重たい疲労感が襲ってきた。
風の斬撃もかなり使ったし、これだけ長く戦い続けたのは初めてな気がするな。
それに、何より噛まれたらまず確実に死ぬ、という攻撃を躱し続ける状況は精神的にかなり疲弊する。
新宿ダンジョンに挑戦するつもりで来たけど、これだけの難敵を倒したんだし今日はこれでいいかなという感じだ。檜村さんもかなり魔法を連発したし。
ちょうど新宿には討伐評価の窓口もある。手続きをしたら食事でも行きたい感じだ。
「ところで……片岡君」
「はい」
「この子は誰だい?」
ダンジョンの消滅と一緒に消えるんじゃないかと思っていたその子は……まだそこにいた。
ひらひらしたロングコートのようなものを着ていて、裾が翼のように翻る。そのまま僕のすぐそばに立った。
民族衣装を思わせる派手派手しい赤い衣装をまとった小柄な人……顔を目以外赤いベールで隠しているけど、多分女の子だ。
人型のモンスターは何度か戦ったことあるけど、完全な人の姿と置いうのは初めて見た
「шумо кӣ?
шумо сарбоз ҳастед?」
言葉を話す奴も初めて見た……ただ、何かを言ってるけど何を言っているのかわからない。
言葉が通じないことがわかったのか、女の子が苛立たし気に舌打ちした。
その子が一声吠え声のような声を出す。
狼がヒュドラの首から牙を離して地面に降り立つと、その子の側に寄り添った。近くで見ると僕の胸くらいまである。狼というより、普通にモンスターにしか見えない。
とりあえず敵ではなさそうだけど。
「хизматгори ман гург!! 
худро ба шамшер табдил диҳед」
歌うように彼女が何かを唱えると、狼が遠吠えするように体をそらすとその姿がぐにゃりとゆがんだ。
しっぽを噛むような姿勢になってそのまま輪の形に変化する。ほんの数秒に間に、オオカミが波打つような刃を持つ円弧状のようになった剣に変わった。
こんな武器見たことない。
その子が横目で僕を見て、ヒュドラの方を向きなおる。
「сарпуши маро фаро мегирад.
шумо нағзмӣ?」
言葉は分からないけど、空気が変わった。その子が円状の剣の輪の中に入るように構えて姿勢を低くする。睨むようにヒュドラを見上げた。
僕をもう一度ちらりと見て、その子がヒュドラに向かって突っ込んだ。マジかよ。
「檜村さん、早く魔法を」
「分かっている【書架は南東・理性の5列・22頁6節。私は口述する】」
状況が飲み込めないって顔をしていた檜村さんが慌てて詠唱に入った。
女の子が牙が並ぶ巨大な顎を躱した。剣を水平に構えたままダンスのように反転する。
ふわりと裾が舞って、剥き出しになった顎を円弧剣が切り裂いた。体液が噴出して首の一つが悲鳴を上げる。
そのまま首の下をくぐるようにして刀身を縦に向けた。円状の剣が新体操のリングのように一回転して、ヒュドラの喉を深々と切り裂く。体液と赤い炎の欠片が噴き出した。
一つ顔を引き付けてくれるだけでだいぶ違う。もう一方を切りつけた。
ヒュドラが地響きを立てて何歩か下がって咆哮を上げた。足を踏み鳴らして、深呼吸するように首を後ろにそらす。
三つの口が大きく開かれて口から火が瞬いた。首につけられた傷からも火が漏れている。あの状況で火を吐く気か。
「下がって!」
言葉が通じるとは思えなかったけど、気合でニュアンスが伝わったのか。女の子が剣を襷のようにかけたまま下がってくる。
ヒュドラの三つの咢が開いた。洞穴のような黒い口に炎が閃く。
「一刀!薪風!」
刀を振ると、風の壁がそそり立った。同時に火炎放射器のように伸びた炎の帯が風の壁にぶつかる。
視界が真っ赤に染まって熱風が吹き付けた。
「抜かせるか!」
刀を握ったまま風の壁に意識を集中する。息を止めて、重い物をうけとめ足を踏ん張るようなイメージ。
風が強く吹き上げて赤い炎が逆巻く。火が視界を遮って、飛び散った火の粉が頬を焦がす。
唐突に火が途切れた。赤いカーテンのような火が消えて、またヒュドラの姿が見える。
「кори нағз」
その子が僕を見て何かを言った。
言葉は分からなかったけど、感心してくれたってことは表情からなんとなくわかった。目は口ほどにものを言う。
でも気を抜いている場合じゃない。ヒュドラがもう一度ブレスの準備動作に入る。
火を吐こうとした首の一つが突然内側からはじけるように吹き飛んだ。火の粉が飛び散る。さっきこの子に切られた首だ。
怒ったようにヒュドラが足を踏み鳴らして僕等を威嚇するように見る。自爆してくれたのは助かったけど、まだ首は二つある。もう一度耐えられるか。
刀を握ってもう一度意識を風に集中した時。
「待たせたな、すまない」
檜村さんの声がかかった。
振り向くと、いつものように空中に浮かぶ本の頁のような紙が檜村さんの周りをまわっていた。白い紙が青白く輝く雪のように変わる。
「『ここは最果て北端の城郭、此の地にて炎の燃ゆるは禁じられし行い。全ては凍てつき永久に眠るべし、其は王命なり』術式解放!」
詠唱が終わると同時に気温が一瞬で下がった。半袖の肌を氷のような冷気がなでて鳥肌が立つ。
冷凍庫を開けた時のような冷風が吹き付けて、さっきまでとは打って変わって静寂が降りた。
前を見ると、巨大なヒュドラが一瞬で白い氷に閉じ込められていた。
★
見ていると氷が砕け散った。氷の破片が舞ってキラキラ輝く。中に入っているヒュドラも一緒にバラバラになった。
相変わらず詠唱は長いけど、威力はすさまじいな。手間がかかるだけある。
後にはいつも通りライフコアが残された。今まで見た奴の中では一番大きい。
「ありがとう。さすがだな、片岡君」
檜村さんが声を掛けてきた。
赤い光が薄れて行って、周囲の景色が元に戻る。
「かなりの難敵だったね」
「ええ、本当に」
新宿が近い割には全く援護がなかったけど。
改めてライフコアに目をやる。かなりの大物だ。討伐実績点も評価点も期待できる。
今となっては援護は無かったけど、これを二人で山分けできるんだから良しとしよう。
命のやり取りをしてるんだから結果オーライは止めろ、とは師匠からよく言われているけど、勝てば官軍と言う言葉もあることだし。
緊張感が抜けてテンションが落ちると同時に重たい疲労感が襲ってきた。
風の斬撃もかなり使ったし、これだけ長く戦い続けたのは初めてな気がするな。
それに、何より噛まれたらまず確実に死ぬ、という攻撃を躱し続ける状況は精神的にかなり疲弊する。
新宿ダンジョンに挑戦するつもりで来たけど、これだけの難敵を倒したんだし今日はこれでいいかなという感じだ。檜村さんもかなり魔法を連発したし。
ちょうど新宿には討伐評価の窓口もある。手続きをしたら食事でも行きたい感じだ。
「ところで……片岡君」
「はい」
「この子は誰だい?」
ダンジョンの消滅と一緒に消えるんじゃないかと思っていたその子は……まだそこにいた。
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