ショートストーリーあれこれ

新・ドラドラ改

或る女の話―未来が見える鏡

 私の家の近所の空き地に、不思議な溜池があった。そんなに深くない溜池なので、近所の子供がよく水遊びをするような場所だった。

 だが、この溜池には妙な噂があった。深夜零時に池を覗くと水面に自分の未来の姿が映るという、まあ都市伝説的な噂である。実際に試した人間もいたようだが、試した後にその事について話す事がないので事実なのかは不明だった。

 中学生の時。この噂を試すべく、私は友人の友子と友美の3人でその溜池に行った。

 深夜零時、私達は3人揃って池を覗き込んだ。水面に映った姿を見て、私と友美は驚きの表情を浮かべる。そこに映ったのは、大人になったスーツ姿の私と同じく大人になって子供と手を繋いでいる友美の姿だ。

 「噂は本当だったんだ・・・」と、友美が呟く。が、その横では友子が顔を真っ青にしていた。

 「わ、私の姿が映ってない・・・」

 この言葉に、私と友美が再び水面を覗く。すると、友子の姿が映っている筈の場所には何も映ってないのだ。噂が真実なら、友子の未来は・・・

 「と、友子さ・・・こんなのは、単なる偶然だから。気にしたらダメよ。」

 「そうそう。それに、たまたま映らなかっただけかもしれないからさ・・・気にしない、気にしない。」

 私達は友子を励ましながら、帰宅の途についた。その数日後、空き地はマンション建設用地となり、溜池は埋め立てられた。噂の真偽は分からないままだった。

 十数年後。私は上京して一流企業に就職、バリバリのキャリアウーマンとして各地を飛び回っていた。ある日、友美から同窓会の誘いが来る。仕事が一段落したので、私は地元に帰り、同窓会に参加する事に。

 待ち合わせ場所で十数年ぶりに会う友美は、あの時水面で見た姿そのものだった。地元に残った彼女は幼馴染と結婚、今は2人の子宝に恵まれていた。

 「そういえば、友子は?あの子も地元に残ったのよね。元気にしてるかしら?」
 
 私の言葉に、友美は表情を曇らせる。そして、静かに話し始めた。

 「友子は・・・今はどこにいるか分からないの。」

 「えっ?」
 
 「あの子、大学を卒業してすぐに結婚したんだけど・・・姑さんに酷い嫁イビリを受けて、それに耐えられず、別の男の人と深い仲になったの。」

 「・・・」

 「ところがその人がとんでもないギャンブル狂で、友子に借金を背負わせて逃げたの。友子は慰謝料とその借金を返す為に、闇金から金を・・・そのお金を返す為に、体を売る仕事についたってとこまでしか分からないわ。」

 友美の話に、私は背筋が寒くなるのを感じていた。今の私達2人は、あの時水面に映った姿そのままだ。という事は・・・

 「姿の映らなかった友子は・・・いや、考えすぎよね・・・」

 私のこの問いに、友美は何も答えなかった。

 私達の前で、サラリーマンが新聞を読んでいた。その三面、こんな見出しの小さな記事があった。

 『殺人か?奥多摩山中で成人女性のバラバラ死体発見。』(終)
 

コメント

  • たべりゅ教

    ホラー系 楽しい!

    1
  • 音羽ゆえ提督

    怖!

    1
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