ショートストーリーあれこれ

新・ドラドラ改

或る男の話―転売ヤーの末路

 大学生である私の友人に、友男というヤツがいる。彼の実家はサラリーマン家庭の筈だが、彼自身はブランド物に身を包み、裕福な一人暮らし生活を満喫していた。

 「あいつ、アルバイトしている感じもないし・・・」
 
 「どっかの金持ちマダムのツバメでも、なんてことはないか。今度、聞いてみるか。」

 数日後、私は友男と食事を共にした時に金回りの良さについて話をした。そこで、驚くべき彼の錬金術を知る。

 「え、転売!?」

 「そうさ。コンサートやスポーツイベントのチケットを別々の名前で手に入れて、それを高値で売る。チケットが欲しい連中はどんな高値でも買うから、本当にチョロいぜ。」

 「でも、それって・・・本当に欲しい人が買えなくなるって事じゃないか?そんな人の足元を見るみたいで、心が痛まないか?」

 「おいおい、俺は独り占めはしてないぜ。ちゃんと金さえ払えば、チケットは売ってやるんだから。」

 「でも・・・」

 「煩いな〜お前、俺が一儲けしてる事を羨んでいるんだな?だったら、お前もやってみるか?」

 「遠慮するよ。それより、余り深入りしない方がいいぞ。このままずっと、上手くいく筈がない。いつか、痛い目を見るぞ。」
 
 「はいはい。全く、貧乏人の嫉妬はみっともないねえ。」

 嘲る様な友男の言葉に、私はイライラが頂点に達した。「俺の分の代金だ!釣りは要らんから、明日から俺に話しかけるな!」と叫ぶと、叩きつける様に千円札をテーブルに置き、そのまま立ち去った。

 それから暫く後の事、私は妙な噂を耳にする。何でも、あれだけ金回りの良かった友男が友人や後輩に金を貸してほしいと頼んでいるらしいのだ。

 「一体、何があったんだ・・・?」

 私は共通の友人である友太郎に、この噂の真偽を訊ねた。すると、彼はあっさりと真実である事を認めたのだ。

 「何でそんな事に?」

 「あいつ、転売で一儲けしてたろ?人の足元を見て、金儲けしてたバチが当たったんだよ。」と言いながら、咥えた煙草に火を付ける友太郎。ゆっくりと煙を吐き出すと、彼は話し始める。

 ある日の事、友男は人気アイドルグループのコンサートチケットを大量に仕入れ、それをいつもの様に高値で転売したのだ。

 ところがコンサート数日前、そのグループのメインメンバー数人が新型肺炎ウイルスに感染している事が判明、治療の為に隔離される事に。当然コンサートは中止、チケットは払い戻される事になったのだが、友男は偽の住所・名前を申し込みの際に使っていた為に払い戻しの案内が届かず、返金出来なかった。

 コンサート中止の案内が出た後、転売先からは返金の要請が引っ切り無しに来た。そのまま支払った金を返せばいい話なのだが、友男はチケットを送った後にその金を使ってしまっていた。つまり、金を返そうにも返せなくなってしまったのだ。

 「返せなくなったって・・・幾らなんだよ?」

 「俺も噂程度だけど、聞いたところによると数百万位じゃないかって。」

 「す、数百万!?」

 「それだけの金額だと、親にも頼れないからな。それで身の回りの物を売り払って金を作ろうとしたけど、幾らブランド物でも中古じゃ二束三文だろ?大した額にはならんかったらしい。」

 「だから、そこらの連中に金を借りようとしてる訳か・・・そんなの、焼け石に水なのにな。」

 「全くだ。しかし、人ってのは怖いね。」

 「?」

 「あいつが金を持っていた時はチヤホヤしてた取り巻きが、金がないと知るやいなや皆居なくなっちまった。」

 「・・・」

 「今じゃあ、友男の話を誰もしないよ。薄情な連中だよ、全く。ま、同情はしないけどな。」

 そう言うと、彼は短くなった煙草を灰皿でもみ消す。そんな彼の言葉を聞きながら、私は「因果応報」という言葉を頭に浮かべていた。

 その後の友男の事は知らない。噂によると、大学内で誰彼構わず借金を申し込んだ事がゼミの教授の耳に入り、そこから大学に話が行き、学内の風紀を乱したという事で友男は退学処分に。

 事態を知った両親は友男を勘当・絶縁し、家から叩き出した。彼は今、築40年の古アパートで雨風を凌ぎながら、金を返すべく昼夜問わずにアルバイトに明け暮れる日々らしい。

 「因果応報を地で行く話だな。まあ、俺も気をつけないとな。」

 そう言いながら、私はいつもの様にゼミ室へと向かった。

 


コメント

  • たべりゅ教

    実際に有りそうだね

    1
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