ショートストーリーあれこれ
或る男の話―天狗の鼻をへし折った「怪物」
私はかつて、甲子園を目指した高校球児だった。私の居た高校は野球では地元では強豪の一角で、私はそのチームではキャプテン兼四番打者兼エースピッチャーだった。
それ故、私はチームの中でも一際注目を浴びる存在だった。まだ若く、怖いもの知らずだった私は「俺に怖いもんはない!」と自信を、いや、傲慢さが表に出ていた。天狗になっていたのだ。
そんな私の天狗の鼻は、後1つで甲子園行きが決まっていた地方大会決勝戦で簡単にへし折られた。「怪物」と言われ、私と同じく四番打者兼エースピッチャーだった彼は、私などは比べ物にならない程の実力の持ち主だった。
自信を持っていた私のストレートや変化球はいとも簡単に弾き返され、強打を誇った私の打撃も「怪物」の前には子供の遊戯とばかりに簡単に抑えられた。結局、私のチームは何も出来ずに敗れ去った。
その後、「怪物」がいた高校は甲子園で優勝。しかも、決勝戦ではノーヒットノーランのおまけ付きで、である。そして「怪物」はプロへ進み、メジャーの舞台も踏んだ。晩年こそは故障で苦しみ、今年で引退したが、彼の栄光が色褪せる事はないだろう。
「上には、上がいる・・・」と思い知らされた私はその後大学迄野球を続けたが、今はサラリーマンとして野球は趣味で楽しむ程度である。
「・・・天狗の鼻をへし折られたからこそ、今がある。もし、彼が居なかったらどうなっていたか・・・答えは分からないな。」
私はそう言いながら、テレビに視線を向けた。そこには、涙を流しながら仲間に胴上げされている「怪物」―松坂大輔の姿があった。(終)
*この話は一部を除いて、フィクションです。
それ故、私はチームの中でも一際注目を浴びる存在だった。まだ若く、怖いもの知らずだった私は「俺に怖いもんはない!」と自信を、いや、傲慢さが表に出ていた。天狗になっていたのだ。
そんな私の天狗の鼻は、後1つで甲子園行きが決まっていた地方大会決勝戦で簡単にへし折られた。「怪物」と言われ、私と同じく四番打者兼エースピッチャーだった彼は、私などは比べ物にならない程の実力の持ち主だった。
自信を持っていた私のストレートや変化球はいとも簡単に弾き返され、強打を誇った私の打撃も「怪物」の前には子供の遊戯とばかりに簡単に抑えられた。結局、私のチームは何も出来ずに敗れ去った。
その後、「怪物」がいた高校は甲子園で優勝。しかも、決勝戦ではノーヒットノーランのおまけ付きで、である。そして「怪物」はプロへ進み、メジャーの舞台も踏んだ。晩年こそは故障で苦しみ、今年で引退したが、彼の栄光が色褪せる事はないだろう。
「上には、上がいる・・・」と思い知らされた私はその後大学迄野球を続けたが、今はサラリーマンとして野球は趣味で楽しむ程度である。
「・・・天狗の鼻をへし折られたからこそ、今がある。もし、彼が居なかったらどうなっていたか・・・答えは分からないな。」
私はそう言いながら、テレビに視線を向けた。そこには、涙を流しながら仲間に胴上げされている「怪物」―松坂大輔の姿があった。(終)
*この話は一部を除いて、フィクションです。
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コメント
たべりゅ教
かなり巧みな構成だと思います。面白い