僕らの現実

アキノミズキ

最後の思い出

目に映るのは一面色とりどりの花々。
目を奪われる程の景色が広がっている。

「ねぇ、来年も絶対に一緒に来ようね……!」

少し前を歩く君が、ふと儚い笑顔をこちらに向け、表情とは違い明るく言った。
その表情の理由は、この時には分からなかったが、彼女の背景に広がる景色と相まって、

「うん、必ず」

見惚れてしまい、僕にはそう返す事しか出来なかった。

それから3日後の事だった。
儚げな笑顔の、その笑顔の答えはその時に知った。
君は、何も言わず、僕の前から居なくなった。

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「先生! 聞いてますかー?」

ふと、現実に返る。
振り向くと、1人の女性が僕に声をかけていた。
「ああ、ごめん。ちょっと昔の事を思い出してボーッとしてたよ」
「今日、ですもんね」
「そうだね」

あれから10数年。ずっと君だけを想っている。
もう少し、もう少しで、また君に会える。

「はい、先生。頼まれてた物です」
「ありがとう。君には感謝してもしきれない」

女性が差し出して来たものを受け取り、深く礼をする。

              「こんなに想われてるあの人が、私は羨ましいですけどね……」
「ん?何か言ったかい?」
「なーんでーもなーいでーすよー!」

何気ない、やり取り。
この数年、僕はこの女性に大きく救われてきた。

「あとの事と、ここは君に任せる。本当に申し訳ない」

その好意を利用し、あまつさえこののちの事をこの女性に任せる。
僕は最低な人間なのだろう。

「わかってます。謝らないでください」

それなのに、笑ってみせる。
その表情は、あの時の彼女と一瞬被った。

「先生。そんな顔をしないで、ちゃんと笑ってください! あの人に笑われますよ?」

おどけてみせるその表情には、さっきの儚さは消え明るい笑顔。
つられて僕も笑顔になってしまう。

「ありがとう。行ってくるよ」
「はい。行ってらっしゃい」

──ずっと、これから先も、私は貴方を愛しています。

僕は、その言葉に何も返すことは出来なかった。

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