見上げる月夜の照らす者

八つの蜜

50.第伍拾話 エピローグ

あれから月日は流れ5年。

蝉の鳴き声が辺りからけたたましく鳴り響き、日差しの暑さは季節の移り変わりを再確認させる。

各々が各々の道に進み、あの悲しい出来事を払拭するように、だが決して忘れないように前を向いて歩いていた。

「凪聞いたか〜?」

「ん、何が?」

大学の講義が終わり、筆記用具などを鞄に戻し帰る準備をしていると颯が話しかけてくる。

真季波凪(21)
高校卒業後、大学へと進学、医学部へと進み今は医師になる為に勉強中。

鼠入颯(21)
凪と一緒の大学へと進学、教育学部へと進み今は教師になる為に勉強中。(中学校教諭)

「戌乖先輩と午谷先輩の結婚騒ぎ〜」

「ああ、凄いよね。確か午谷先輩のお父さんが戌乖先輩を殴り飛ばしたって」

戌乖光(22)
幼馴染の死を乗り越え、高校卒業後夢であった警察官の道へと進みそこへと至る。現在午谷父を説得中。

午谷穂波(23)
大学を卒業後、大手企業へと就職。やり甲斐のある仕事で毎日大忙しだが先日付き合っていた彼にプロポーズをされそれを承諾。父親を説得中。

「それで、凪はいつ結婚するんだ?」

「…ッ!?」ゴホッゴホッ

話をしながら外に出た時にいきなりぶっ飛んだ話をされ飲んでいたお茶を吹き咽せる。

「おいおい大丈夫か?」

「颯が!いきなり変な事言うからだろ!」

「変な事じゃないだろ〜どうなんだよ〜♪」ニヤニヤ

(こいつニヤニヤしやがって…いつにも増してイキイキしてるしホントいい性格してるよ…)

「そう言う颯はどうなんだよ、牛呂さんと」

「え、?あ〜、てかなんで瑠璃の話が出てくんだよ!」

「え?だって」ニヤニヤ

「ちょっと帰るなら言ってよッ!」バシッ

「あいたッ!?って瑠璃!」

牛呂瑠璃(21)
大学へと進学、颯と同じく教育学部へと進み教師を目指して勉強中。(高校教諭)

「牛呂さん久しぶり」

「凪くん久しぶりね!颯と何話してたの?」

「それはー」

「あちょっと俺瑠璃と用事あるからこれで失礼するなッ!じゃまた講義でな!」

「え、ちょっ、ちょっと!」

俺の言葉を遮り颯は牛呂さんの手を取り足早にその場を離れていった。

(あの2人がくっつくのも時間の問題だな)

高校で牛呂さんと颯が両想いなのは見ていて分かったのだが2人とも付き合うそぶりなんて無かった。それは高校を卒業し大学へと進学してからも変わらなかった。全く世話のかかる親友だ。

大学を出て向かう先は両親が眠る墓地。その道中にある寅尾屋に少し顔を出す。

「あ、響也さん来てたんですか?」

「いちゃ悪いの!?」

巳津響也(29)
診療所へと異動した彼は前職の病院の院長に泣きつかれ掛け持ちでと言う事で今は診療所と病院を行き来して居る。(こう見えて超ハードスケジュール)

「いや珍しいなと思って…」

忙しすぎてあまり顔を合わさない響也さんがここに居るのにも疑問があったが、響也さんは巳津さん…沙霧さんと違い甘いものは苦手だったはず…

その疑問を晴らすように響也さんは語る。

「姉さんが好きだったもの知っておきたいじゃん」

「あ、凪くんいらっしゃ〜い」

「いつもお世話になってます寅尾さん」

寅尾白(?)
響也と近い年らしいが年齢のことを聞くと笑顔で返される。(怖い。シンプルに怖い)

「響也くんは沙霧ちゃん好きだもんね〜」

「ふん…」

「照れちゃって〜」

2人でわちゃわちゃし出したところ悪いのだが凪は少し急いでいる。

「寅尾さん頼んでたものできてます?」

「あ、そうそう。はいこれ」

そう言い手渡されたものはショートケーキだ。

「ありがとうございます」

「楽しんできてな〜」

「俺からもよろしく伝えといてくれ」

「はい、では」

そう言い店を出ようとすると響也さんが背中越しに言い放つ。

「そういえば研修は俺のとこらしいな〜きっちり扱くから覚悟しとけよ〜リア充」

「!?」

閉まる扉からほんの少し見えた彼の笑顔は悪役そのものだったのは言うまでもない。

蝉の鳴き声が響く墓地へと入り一つの苗字が彫られた墓の前で線香を焚き手を合わせる。

「これからも頑張ります」

両親たちが俺の背中を押してくれて居る気がする。

「あ、凪くん」

その声に振り返る。そこには夏にふさわしい白いワンピースに身を包んだ彼女がいた。

「琥珀、待ってても良かったのに」

八城琥珀(21→22)
颯、瑠璃、凪と一緒の大学へと進学し、教育学部を選択、教師になる為勉強中。(小学校教諭)

「私もご両親に挨拶したかったんです!」

そう言い座り手を合わせる。

「それじゃ行こっか?」

「はい!今日はお祝いして頂かないと!」

今日が誕生日の彼女に手を引かれ歩く。あの戦いの後も俺たちは変わらず人生を歩む。

時にどうしようもなく虚しくなる時もあるだろう。でもそこに手を差し伸べてくれる人が居るのであればそれは宝物という名の最高の友なのであろう。




ご愛読ありがとうございました!50話という短い話数でしたが書き切れたことを嬉しく思います!また別作品で小説を書こうと思っているのでその時はよろしくお願いいたします!




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