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見上げる月夜の照らす者

八つの蜜

34.第参拾肆話 海水浴


黒鬼との戦闘後、俺と響也さんは倒れているところを駆けつけたウルさんに運んでもらい治療を受けた。俺は殆ど外傷が無くすぐに治療は済んだのだが、響也さんの負傷ダメージが思った以上に酷く、ウルさんの手伝いもありなんとか動ける程度に回復した。

「いや〜すまなかったね!医者ヒーラーがやられてちゃ意味ないのにね!」

わはははと笑う響也さん、しかしその笑いが傷に触ったのか声にならない声をあげ悶絶している…

「響也殿はもう少し安静に。それと凪、私は少しの間家を開けようと思う」

「え、どうして?」

「用ができたのだ。それ以上は聞かないでくれ」

「分かった。でもこれだけは言わせて。絶対に帰ってきてください。雨ちゃんも待ってる。あそこはもう俺たちの帰る場所なんですから」

「…ああ」

最後の言葉を聞き嬉しくなる。これなら任せられると。私は向かわねばならない。その結末が凪たちにとって悲しみを招く渦になろうとも…



7月下旬、高校生たちはみんな大好き長期休暇、“夏休み”に入る。
家で勉学に励みそろそろ休憩にしよう、そう思い立ち上がる瞬間、グループチャットにてメールが届く。

鼠『今週末海行くぞ!』

真『海?』

牛『行くわよ!』

八『瑠璃ちゃん!?』

真『颯いつも急すぎる』

鼠『すまんすまん』

牛『颯と話してたらそういう話になったのよ。だから一緒に行かないかなって』

八『私は大丈夫だよ、凪くんは?』

凪『俺も大丈夫』

あ、ウルさん居ないから雨ちゃんも一緒に行かないと家に一人きり…ではないけど1人になってしまう。

居間で九尾とスイカを頬張っている雨ちゃんに声をかける。

「雨ちゃん俺たちと一緒に海行かない?」

「海?」

「怖いかもしれないけど…」

「大丈夫。凪ちゃんと一緒に行く」

「分かった九尾はどうする?」

「妾はパスじゃ、外になど出とうない。まぁ、其方がどうしてもと言うのであれば〜」

「そっか…なら九尾は欠席って連絡しとくね」

「ち、ちち違うのじゃ!妾も行く!」

口を尖らせ腕を縦に振る姿は駄々をこねる子供のようだった。

「良かった。なら全員で行くって連絡しておくね」

颯と八城さん、牛呂さんに連絡をして今週末、みんなで海に行くことが決まった。


のだが…

「「あっつ…」」

真夏、とはまだ早いと思っていたが今日の気温は36℃。真夏日。浜辺には観光客や涼みにきた地元の人で溢れていた。

俺と颯は脱ぐだけだから更衣室に向かう2人を見送った後、砂浜に移動する。

先に砂浜でシート、パラソルの準備をして着替えに向かった2人を待つ間、浅瀬で足をつけようと思い3人で歩く。

「九尾はどうする?」

「妾は荷物番でもしておる」

そう言いサングラスを付ける九尾はいつもよりも楽しんでいるように見える。

「分かった。雨ちゃん大丈夫?喉乾いてない?」

「大丈夫!」

手を繋いで歩く雨ちゃんは嬉しそうに腕を振るう。海に来たのは初めてのようで白いワンピースを翻し、はしゃぐす姿は年相応の少女に見える。

(家に来たばかりの頃とは比べ物にならないくらい元気になって良かった…)

彼女の成長を実感し、嬉しくなる。

「凪すっかり父親の顔になってるな」

雨ちゃんの頭を撫でる颯もまた雨ちゃんに魅了された人の1人だ。

「お待たせ〜」

「…///」

周りの男達が凝視する。それもその筈、美少女たちの水着姿…振り向かないはずがない。

「おぉぉぉ!」

(白い肌と白い水着のフリルが八城さんに合ってる!瑠璃は首前で交差させたタイプの水着じゃん!黒色は瑠璃に合ってるなぁ。正直目のやり場に困る)

「よーし集まったし泳ぐか〜」

「待ちなさいよ、何か言うことはないのかしら?」

牛呂さんの手が海に向かう颯の肩を掴む。

「あ、えっと…似合ってますよ?」

「よろしい」

「ねえ瑠璃ちゃん変じゃないよね?さっきから周りの視線が…」

「大丈夫大丈夫、ね?凪くん」

「!?」

肩を掴まれ突然の名指し。牛呂さんとはまた違う水着で八城さんらしい水着。正直言って可愛い。好きな人と自覚してからふとした瞬間、心臓が大きく早く波打つ感覚がある。

「あ、えっと、綺麗だよ…(赤面)」

「あ、ありがとう…(赤面)」

その2人の空気から逃げるように後退し見守る3人と一匹。雨と牛呂が手を繋ぎ、颯の肩にはトトが乗っている。パラソルの下で寛ぐ九尾はグラサンを少しだけ下にずらす。そして各々が言い放つ。

「甘いわね…」

「激甘だな…」

「早よ付き合わんか」

「恨めしいのぅ」

「???」

初心な2人の空気に当てられないように海へ向かう。暑い日差しとは別に足下を揺蕩う海水は冷たい。後から凪と八城が合流し水辺で遊ぶ5人と一匹。それを眺めるパラソルの下で寛ぐグラサンをつけた九尾。

海水の掛け合いが始まり、凪の放った海水は牛呂さんへとかかる。

「きゃっ」

「きゃっなんて乙女な声だー」

「続きは?」

「は、はにゃ…?」

「続きはって言ってんのよ」

指をパキ…パキ…と鳴らす牛呂さんは般若のような恐ろしい顔をしていた。
助けを求める視線を俺と八城さんに向ける颯。俺と八城さんはそのまま明後日の方向を向く。

(すまん、颯)

(これは仕方ないよ鼠入くん…)

数分後には砂浜の砂で顔以外を埋められ虚な目をしている颯を見る事ができた。

「ふぅ〜日頃の鬱憤ばらしができて満足だわ」

「お主も馬鹿じゃのう」

颯の埋められた腹の上に乗るトトさんはこれでもかと言わんばかりに見下げていた。

「もうお昼だね、なんか買ってこようか」

「あ、私も行きます」

「なら私は颯をもう少し弄っていようかしら」

「え゛???」

「?何か問題がある?」

「イイエナニモ」

2人をよそに八城さんと一緒に雨ちゃんの手を握り海の家へと向かう。

遠くからでも分かる焼きそばの匂いは空いたお腹を刺激する。何故か妙に見られている気もするが…

ぐうぅぅぅ〜

「…」カアッ

反応からするに八城さんのお腹の音だったらしい。俺でも恥ずかしいと思う。

「お腹すいたもんね早く買ってみんなで食べよう」

「はい…」

お昼時のため並んでいるかと思ったが意外にもすんなり注文をすることが出来た。

「旦那さん、嫁さん別嬪さんだね〜羨ましいよ!」

「旦那!?」

「嫁さん!?」

「?」

あ、そうか。雨ちゃんを真ん中に俺と八城さんが両の手を握っているから夫婦かと思われたんだ…周りの視線の正体はそう言うことか。

「あ、違う!違います!し、親戚の子の面倒を同級生と見てて!」

「おうおう、通りで若けぇなと思ったんでい。お詫びにおまけしておくよ!青春しろよ〜」

「あ、ありがとうございます…」

袋を持ってまた来た道を戻る。店主さんには勘違いされてしまったが俺はそうなってもいいと少なからず思ってしまった。
戻る道で2人は一言も会話をしなかった。

「おかえり〜あれ琥珀?顔赤いよ?日焼けしちゃった?」

「あ、いや、えっと…」

「大丈夫?」

「だ、だ大丈夫!!」

「焼きそば買ってきたからみんな食べよう!あ、トトさんって焼きそば食べれるっけ?」

「大丈夫ぞ?」

「妾の分は?」

「はいはい」

全員に配り終わり「いただきます」の声とともに食べ始める。みんなと海で食べる焼きそば。美味しくないはずはない。満足感、幸福度が段違いだ。

(ああ、昔を思い出す…)

それは幸せだった頃の思ひで。今も幸せなのだが、昔の幸せは終わりを告げた。だから今の幸せを守れるように…

食べ終わり少しすると雨ちゃんはウトウトとしだす。午前中ずっと水辺で遊び、さっきのお昼ご飯でお腹も満腹になり眠くなったのだろう。

「妾とトトが雨を見ておくから遊んでくるがよい」

「分かった」

「あ、私飲み物買ってきますね」

「なら俺も一緒に、」

「い、いえ!近いからだ、大丈夫です!では」

「あ…」

さっきの焼きそば屋からのやりとりから少しだけ距離ができてしまったように感じる。
立ち尽くす俺にパラソルの下の九尾は声をかける。

「馬鹿者、追いかけぬか」

「え?」

「自分の気持ちに嘘はつかん方がよいぞ」

そう言う九尾はどこか悲しそうな表情を見せたが立ち上がると俺の背中を思い切り叩く。

「いっ!」

「後悔しないようにじゃろ?」

「…!?うん…行ってくる」

八城が向かった方向へ走る凪を見つめる九尾は再度同じ表情を浮かべる。

「良いのか?背中を押すような真似をして」

眠る雨を起こさぬようトトが九尾に話しかける。

「良いのじゃ、良いのじゃ…」

この気持ちは凪の抱いている気持ちとは相容れぬもの。ならば妾はその気持ちを凪に向けて出すわけにはいかない。

海で牛呂にプロレス技をかけられている颯を横目に九尾は思う。
九尾の後ろから風が強く吹き抜ける。

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