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見上げる月夜の照らす者

八つの蜜

28.第弐拾捌話 決戦①


ただ走り、走り、走った。それが私にできる唯一の事だったから。走って助ける。走って掴み取る。それだけが私を語る“物”だった。

「先輩はカッコいいですよ。何があっても、前を見据えて走る姿が」

「ッ…」

そんな事を言われると思っていなかった。だから驚いた。それと同時に彼は私を違う視点から見てくれていたと感じた。

夕焼けの空は無慈悲に私たちを照らす。それは時間の経過を示していた。それは私に選択の時を迫らせる。


「君には妖怪側の十二支を再度こちら側に引き入れてほしい」そんなことを言われても俺が全部の十二支を知ってるわけじゃないしな…
改めて情報整理の為紙に書き出す。

十二支・鼠『鼠入颯』
十二支・牛『牛呂瑠璃』
十二支・寅『?』
十二支・兎『?』
十二支・竜『辰川轟』
十二支・蛇『巳津沙霧、響也』
十二支・馬『?』
十二支・羊『未継寧々』
十二支・猿『猿飛凌』
十二支・鳥『鳥居珠』
十二支・犬『戌乖光』

「そして…十二支・猪『亥子華』と…」

お爺ちゃんの妖怪退治を手伝っている時、妖怪に襲われているところを助けた子だ。元気にしてるだろうか…

書いたはいいが現状、十二支と分からない人は3人いるわけだが、どうしたものか…

「それは宿題か?」

縁側に雨ちゃんと居たはずのウルさんがいつの間にか隣に来ていた。

「宿題じゃないよ。妖怪側に力を貸している十二支の人がいるらしいんだけど分からないんだ…」

「うむ…知っている人間に聞くのが1番手っ取り早いのだがな」

2人で唸っていると玄関から俺を呼ぶ声が聞こえた。

「はーい」

「はぁ、はぁ、よ?元気してるか?」

「戌乖先輩!?先輩こそ大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫…それより聞きたい事があってさ、先輩…午谷うまだに先輩見てないか…?」

午谷先輩って言うと体育祭の時にリレーで走ってた人か…確か陸上部のエースの人。

「見てないですけど、午谷先輩がどうかしたんですか?」

「最近学校に来てないから様子見に家に行ったんだけど家にも帰ってないって…」

靴を履き、家を後にし走る。

「探しましょう。午谷先輩の行きそうな場所ってどこか分かりますか?」

「全部探したんだけど居ないんだ…」

「戌乖先輩は“超嗅覚”使いましたか?」

「あ…」

「使ってなかったんですね…」

「心配で頭回ってなかったわ…」

戌乖先輩は顔の鼻の部分を犬化させる。そして大きく当たりの空気を吸い込む。

「見つけた。でも近くに血の匂いと嗅いだことのない匂い」

「急ぎましょう。怪我をしているのかも」

先輩の言った嗅いだことのない匂いがきになるが今はその場所に急ごう。

町中を離れ数十分走ると町を囲んでいる森に出る。夏の日差しは絶えず俺たちを照らすが森に入ると同時にその光もまばらになっていく。
蝉の鳴き声が響く森の中、俺たちは奥に奥に進む。

「匂いが近い」

草木をかき分け、少し開けた場所に出る。

「ッ…」

息を呑む。俺たちが見た光景は2.5mはあろう大型の虎を蹴り飛ばす午谷先輩の姿だった。虎は後方に吹っ飛び後ろの木に打ち当たる。

「ぐはッ…!!」

「はぁ、はぁ、はぁ…」

「先輩…?」

「光…」

倒れた虎はどんどん身体が小さくなり人間の女性に姿を変えた。立ちあがろうとするが血を吐き、倒れる。

「大丈夫ですか!?……失礼」

駆け寄り傷を見る。素人の俺が見ても重症だと分かる。肋骨の形が左右違うことから、肋骨が折れその骨が内臓を傷つけているんだと分かる。

「何で先輩と寅尾さんが戦ってんだよ…」

「…」

「戌乖先輩、この人早く響也さんの所に連れて行かないと!!」

『そいつは困る』

禍々しい気配と同時に声が聞こえる。その声の主は俺の背後に立っていた。

「!?」

攻撃と同時に寅尾と呼ばれた女性を抱え、戌乖先輩の前に跳躍する。身体が反応できてよかった。あと少し遅れてたら俺の背中を抉っていたであろう怪力…それは一払で木を薙ぎ倒した。

その木を薙ぎ倒した事でその化け物の全容が現れる。大きさは3mはあろう巨体、腕の太さもそれに伴い大きい。体色は影のように黒く、足首と手首に赤い輪を身につけている。頭部は剥き出しになった下顎の牙、そして頭部上に生える2本の大きな角…それはまさしく鬼であった。

「おい、約束通り私の足にかけられた呪いを解け」

午谷先輩が黒鬼の前に立ちそう言い放つ。

『ああ、その事か』

黒鬼は目にも止まらぬスピードで午谷先輩を薙ぎ払う。数十メートルの中を舞い、地面に無造作に落下する。

『俺は約束なんて覚えてねぇよ』ゲラゲラゲラ

「おい」

『あぁん?』

「殺すぞ」

戌乖先輩から溢れ出る妖力、それは今まで感じられた戌乖先輩の妖力量よりもはるかに上だった。

背負っていた竹刀袋を投げ捨て刀身を顕にする。それは日に照らされキラリと美しい光を放っていた。

“妖刀・戌牙じゅつが

大昔、犬神と呼ばれる力のある大型の妖怪の牙から作ったとされる刀。戌乖家にて代々受け継がれてきた宝刀。

「戌乖先輩!!」

(ダメだ、怒りで我を忘れている!)

『少しは楽しめそうだな』

2人の姿が一瞬揺らぎ刹那、乱戦となる。黒鬼の皮膚は硬く、刀は弾かれる。戌乖先輩は技量でカバーしている。俺は下手に入り込めない。それはこの中では1番弱いからだ。奥歯を噛み殺し大怪我を負っている2人を森から運ぶ。


尊敬する人だった、好きな人だっただから混乱した。でもその混乱を吹き飛ばすほどの“怒り”を覚えた。こいつはここで倒さないと他にも被害が出る。先輩を吹き飛ばしたあの剛力には注意だ。

『グハハハ!!!』

「ッ…」

笑いながら拳を叩き込んでくるこいつは戦いを楽しんでいるのだろう。それは俺を弱いと見ているから。

“構え”

刀の先を相手に向け姿勢を低くする。黒鬼は先と同じように拳を叩きつける。

“反撃”

『なッ!?』

その拳を刃で受け流し腹を裂く。相手が攻撃に転じている時はこちらに身を寄せる。それを応用してのカウンター攻撃。硬い皮膚を持つ黒鬼といえど無事では済まない。

振り返えり刀を構える。

『少しはやるようだが、最後の最後まで気を抜かないことだな』

後ろを向いていた黒鬼の体は先の傷口を捻るように俺の方向を向く。

「!?」

『カウンターにはカウンターだろ?』

その拳を刀で受けるがその力に耐えられず後ろに吹っ飛ぶ。
後ろの木にぶつかる。背中を強く打ったため呼吸がし辛くなる。

(こいつ痛みを感じないのか…!?)

『ハッハッハハハッ』ニヤニヤ

身体が元通りに戻り傷口も塞がっていく。

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