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見上げる月夜の照らす者

八つの蜜

21.第弐拾壱話 体育祭 後編


先の衝撃でどうなったのか分からない。俺は今、昔の九尾を見ている。九尾の精神世界、九尾の見ている過去の夢なのだろう。俺は九尾の過去が知りたい。そしたら九尾が抱えている“重り”を少しでも軽くできるんじゃないかって…



森の中の小さな一軒屋。ここが彼の世界だった。

〔俺と瓜二つだ…〕

「怪我治って良かった」

妖怪は怪我を負っても妖力があれば数日で完治する。それを知らないという事は彼は妾の事を人間の女の人だと勘違いしているようだ。妾はその勘違いに乗る事にした。

「其方はなぜこのような場所で生活しているのだ?」

数日間彼と過ごして気になり聞いてしまった。聞いた直後後悔した。(あぁ、聞かなければ良かったと)。

「んーとね…僕は人に迷惑をかけるから。だから人里から離れて暮らしてる」

彼は頬を掻きながら苦笑い気味に答えた。
迷惑なものか、迷惑なのはむしろ妾の方。初めて気遣われ、嬉しく、居座っているのは妾だ。

妾はこの人に何かをしたい。何かしてあげたい。そう思う“感情”が生まれたと同時に自分がここに居て“何か”あったらいけない、という“気がかり”も生まれた。

“妾は自ら自身の尾を切り離し、離れた、一目につかない場所へ封印した”

それから数年の時が過ぎた。出会った頃は青年だった彼は立派に成長し、1人の男となった。
そんなある日もいつもと変わらず過ごしていたのだが、森からなかなか帰ってこない彼を妾は探しに出かけた。

「いっ…」

(あれは、ぬらりひょん!?なぜ、一輝と話している?)

「一輝に何用じゃ?ぬらりひょん」

「ほほほ、いやただ話していただけじゃぞ。のう?」

「道を聞かれたから教えてたんだ。九尾はぬらりひょんさんと知り合い?」

「一輝帰るぞ」

ぬらりひょんに背を向け、一輝の手を取りその場を後にする。

「九尾よ。大事ならどこにも行かぬよう箱にでもしまって隠してしまえば良かったのにのぅ…ほほほ」

九尾と一輝が去った後ポツリと呟くぬらりひょんは不敵な笑みを浮かべていた。


その日の夜、妾は妙に寝付けず外を散歩しに出かけていた。それが間違いだったのだ。一輝を1人にするべきでは無かった。夜中の森では嗅ぐことがない煙の匂いがした。嫌な予感。それは予感から確信へと変わるのにそう時間はかからなかった。彼の家が炎に包まれ、燃え盛り、崩れ落ちる様を…彼の家に火を放ったのは妖怪ではなく人間であった。

〔酷い…〕

「あ、あぁぁぁぁぁ…」

涙で顔を濡らし、膝からガクリと崩れる。なぜ、どうして、そんな答えの出ない問答を脳内で繰り返す。

〔九尾…〕

そんな妾の背後にはぬらりひょん。気づけない。それもその筈。妾の心はもう壊れていた。

ぬらりひょんの手には切り離したはずの“尾”があった。それを妾に投げつけるとその尾は意志を持ったように動きやがて妾の元に戻る。

心の壊れた妾に戻った“尾”の力を制御する事はできず、暴走。それを何千年と繰り返してきた。戻されては暴走し、戻されては暴走。

「其方と出会うまで妾は4回の暴走があった」

「九尾…」

「今回で5回目。謝って済む話ではない事は分かっている。妾は其方に合わせる顔が無い」

「九尾が意思を持って人間を襲っていたなら俺は祓わないといけなかったと思う。でもそうじゃないって分かったから祓わないし」

「違う、違うのじゃ!妾は其方の両親をも手にかけたのじゃ!!」

「え…?」

九尾の言った言葉が頭で反響する。

「暴走してたから?意識がなかったから?そうではないのじゃ!!そうでは…そうでは済まされないのじゃ!!!」

瞳に涙を浮かべ、溢れさせ、言葉にする。妾がした事、その事実。

「祓ってほしいのじゃ…妾が向かうべき場所は決まっている。あの時から…」

一輝が殺されたのは妾と関わったから。妖怪という得体の知れない者と関わりを持ったが故の死。妾があの時、あの場所で、一輝に出会いさえしなければ…

そんな後悔しか生まれない。

「妾は地獄へ堕ちるべきなのじゃ…」

そう力なく答える九尾の目に光は無く、生きる意味すら無くした目をしていた。

なら俺の選択は決まっている。右手を前に出し九尾に触ー

「九尾は一人で抱えすぎだよ。いっぱい…」

力なく立っているだけの妖狐を抱き寄せる。

「俺は父さんや母さんが居なくなってもお婆ちゃんとお爺ちゃんが居たし、この町に帰ってきてから色んな出会いがあった」

妖怪に憑かれやすい八城さん。
不甲斐ない俺を助けてくれたトトさん。
何があっても俺を信じてくれる颯。
助けに行ったのに逆に心配かけちゃった牛呂さん。
怪我して困らせた巳津さん。
勉強を教えてくれた鳥居先輩。
怖いけど優しい猿飛先輩。
ギャップが凄い戌乖先輩。
感情的になって動いちゃう俺を止めてくれたウルさん。
色んな不幸が有っても歩みを止めたりしない雨ちゃん。
こんなにいっぱいの人と出会えたんだ。

「俺は感謝してるんだ九尾に」

出会えなかった人たちが居たかもしれない。

「ダメじゃ…妾を許しては…妾は妾は…」

力なく垂れ下がっていた腕が背中の服を掴む。

「俺は九尾の心の中にちゃんと向き合わなかった。だから俺も背負うよ。信じてばかりじゃダメだって最近知ったばかりなのに…」

信じるだけなら何もしないのと同じ。ただ責任を放棄しているだけだ。揺さぶり、時には崩したり、そうして人と人との繋がりが強くなっていく。

「俺は九尾の事もっと知りたい。だから祓わない。これは俺の自分勝手なエゴだけど俺が“後悔しない”為の選択だ」

「其方は甘い、優しすぎる。何も知らないくせに、他人の心へと土足でズカズカと入り込む。まるでー」

一輝のようではないか。そう応える九尾の瞳には光が見え、それは涙で濡れた視界すらも綺麗に鮮やかに映し出した。

「妾の真の名を言おう」

「え、九尾の狐じゃないの?」

「それは族名であって一個体の個体名ではないのじゃ。妾が真の名を明かすのは其方が初めてじゃ、心して聞くが良い」

「う、うん」

いつもの調子に戻ってきたみたいで良かった。

「我が真の名は妲己だっき。これで契約は結ばれた」

「!?契約って聞いてないけど!!はぁ、ちなみにどんな内容のやつなんです?」

「其方が死ぬ時、妾も死ぬ。文字通りの運命共同体じゃ♡」

その一言に呆れると同時に視界が光に包まれ出した。その光は精神世界の崩壊を意味する。夢から覚める時間になったという訳だ。

妲己と俺は現実へと戻る事になる。

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