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見上げる月夜の照らす者

八つの蜜

17.第拾漆話 “奪われたもの”


「おはようございます」

「おはよう、よく眠れた?」

「はい。おかげさまで」

「朝から夫婦みたいな会話じゃのぅ」

俺と八城さんの間に突如現れそんな事を言ってくる。

「夫婦…」プスプス

八城さんの頭から湯気が!?

「大丈夫…?」

「だ、大丈夫です」

「面白いのぅ。からかい甲斐がある」

「ちょっと九尾!暇なら手伝ってよ」

「あーちょっと野暮用があってのぅ〜」

そう言い九尾は足早に何処かへ行ってしまった。
八城さんにはみんなを起こしに行ってもらい自分は朝食の準備を再開する。
お米にお味噌汁、焼き魚にサラダ。一般的な料理だがこれが美味しいのだ。

机に並べ終わる頃にはみんなが起きて机を囲む。「いただきます」の言葉と共に食べはじめた。

「美味い。凪は料理上手なのだな」

吸血鬼はとてつもなく寿命が長い事で知られる。その間に食べてきた料理は数え切れないだろう。そのウルさんからお世辞でも褒められたのだ。素直に嬉しい。

雨ちゃんの手は痛々しいほどに傷だらけ、お箸を使った事が無いのだろう。それに加えて目が見えない。ご飯もまともに食べれない状態。今はウルさんが食べさせている。

「今日巳津さんの所に行こうか」

「巳津とは誰だ?」

「巳津沙霧先生。診療所の先生だから雨ちゃんの傷や目を診てもらうのはどうかなって」

「そうだな。大事になる前にいくべきだろうな」

「九尾はどうする?」

「妾はパスじゃ」

「なら俺と八城さん、トトさん、ウルさん雨ちゃんで行こうか」

雨ちゃんを診療所に連れていく事に決まり朝食をゆっくり味わった後、診療所へと足を運んだ。

診療所に着く手前でウルさんが急に足を止める。

「どうしたのウルさん?」

「血の匂いだ…」

「え…?」

診療所をよく見ると窓にかけられているカーテンに赤黒い液体が飛び散ったように付着しているのが見える。

「巳津さんに何かあったんじゃ…」

俺は“助ける”と言う事で頭がいっぱいになり診療所の扉に走る。が、ウルさんに両脇から抱えられ身動きが取れなくなる。

「ウルさん離して!巳津さんが!!」

「落ち着け、凪!」

「凪坊、まずは自分の事からじゃ。診療所あそこにまだ敵が潜伏しているとしたら危ないのは凪坊じゃぞ?」

その言葉を聞き少し落ち着きを取り戻す。俺の身勝手な行動でみんなを危険に晒す所だった。

「ありがとうウルさん…」

「私が開けよう。お前たちは少し下がっていろ」

「うん…」

ウルさんに言われた通り少し離れた所で待機する。扉を開け、中に入り数秒も経たないうちにもう一度ウルさんが外に出てくる。

「見れば分かる」

そう言われ俺は扉に手をかけ開く。
そこにはモップを持って泣きながら床を掃除している蜘蛛の怪異?妖怪?の姿と椅子に座り珈琲片手に寛ぐ巳津さんの姿があった。

「あれ?凪じゃないかい。どうしたんだい?」

「こっちは後でも良いからまずこの状況を説明してくれませんか!?」

「立ち話もなんだ。こっちに来て座りな」

ふふと笑い昨日の夜にあった出来事を俺たちに話してくれた。

「と言う事があって私の血で汚れた部屋の掃除をしてもらおうと思ってね」

「傷は大丈夫なんです…?」

「もっと他に聞くところあったと思うぞ凪坊…」

聞いた話と、この惨状だ。結構な傷のはず…呑気に珈琲なんて飲んでて良いはずがない!

「私は医者だよ?自分の傷も治せないで患者なんて治せるわけないじゃないか」

珈琲を啜りながらかっこよく答えてくれたが「あちッ」と言う言葉で台無しだ。

「あの、どうすればああなるんです?」

「今聞くのか…」

今もなお泣きながら床掃除をしているアラクネーを指差して巳津さんに質問する。

「んー聞きたい…?」

「やっぱり遠慮しておきます」

ニコッと笑う巳津さんが怖すぎて早口で答える。なんだかアラクネーが可哀想になってきた…

「こちらの話は済んだね。そっちの話は?」

あまりに衝撃的過ぎてここにきた目的を忘れる所だった。

「雨を見てもらいたい」

後ろに隠れていた雨ちゃんをウルさんが前に出す。

「へぇ、君の名前は雨ちゃんって言うんだ。よろしくね」

「…」ペコッ

「では診察を始めようか」

腰まである長い髪の毛を一つに束ねる。これが先生の診察スタイルらしい。これをするとスイッチが入るようだ。

「手と足を触るよ?えっと〜、手足は少し擦り傷が目立つだけで腐っているような所もない。顔を触るよ?目は…へぇ…そうか」

「何か分かったのか?」

「その前に君は彼女の目のことをどれくらい知っている?」

「質問を質問で返してすまないね」そうウルさんに問いかける。

ウルさんは俺たちに話した内容と相違ない雨ちゃんとの過去を話した。

「俺と出会った3年前には既に見えていなかった。俺の知っているのは“見えない”と言うことだけだ」

「そうか…なら細かい説明は省いて結果だけ教えよう。彼女は視力を“奪われている”」

「え?」

「彼女は普通の少女ではなく、能力を持った少女だね」

「…」

「能力はそうだな。例えるならコウモリやイルカ、一部のクジラなどが持っている“反響定位エコーロケーション”と同じもの。音の反響で周囲の物を知覚する力」

「そうか…」

「知ってたみたいだね」

「薄々な。3年も一緒に過ごしていたら嫌でも相手のことが分かってくるさ」

「ウル、ごめんなさい、だまっ、てた」

今にも泣きそうな目でウルさんの服の裾を引っ張る。

「知られたくなかったんだろ?」

「…」コク

友達だから、一緒にいるから言えない事もある。つい最近思い知らされた事。それと同じようにウルさんや雨ちゃんの間にも少しの秘密があるのだろう。

「巳津と言ったか、さっき“奪われている”って言っただろ?誰に奪われているか分かるか?」

「残念ながらそれが分からないんだよね。でも忠告って言うか助言みたいなのはできるよ」

“目が良い奴を信用しない事だ”そう言い巳津さんは珈琲を口にするがまたも「あちッ」と言い格好がつかない。

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