見上げる月夜の照らす者

八つの蜜

1.第壱話 新生活


出会いと別れの季節と言われる春。両親が他界後、祖父母に引き取られた俺も今年で高校生。祖父母の家から高校に通うには遠過ぎる為、春から一人暮らしだ。

祖父が用意してくれた“部屋”には学校からの帰りに行こうと思う。お昼頃にはその部屋に荷物が届くことになっている。


学校へ着くとクラス、ロッカーなどの確認で昇降口には人が大勢居た。人波を掻き分けながら表の覧を確認し、教室へと向かう。一年の教室は3階と階段を登るのが億劫になる。
クラスに入ると何人かがグループで楽しそうにおしゃべりしている。

(もう友達がいるのか…あ、でも同中の子とかかもしれない。そう、焦らない焦らない)

自分の席へ座ると同時に1人の男子生徒が話しかけてきた。

「凪じゃん久しぶり!」

「颯?え、同じクラス!?」

鼠入そいりはやて。同中だった俺の友達。

「俺もびっくりだよー。お前急に居なくなったから心配したんだぜ。俺はお前しか友達が居なかったから残りの中学生活ぼっちで過ごしたからな…」

「す、すまん…」

「いや、事情は先生から聞いてたから謝るなよー。それより今日学校午前で終わるじゃん!どっか遊びに行こーぜ」

「あ〜今日俺、家の荷物整理しないといけなくて」

「一人暮らしだと…」

「え、うん。お爺ちゃん家からこの高校通うにはちょっと遠かったからお爺ちゃんに頼んだら部屋用意してくれてさ」

「ほぅ…なら今日はお前の家行くわ」

「うぇ?」

「いいだろぉ、俺も手伝ってやるからさ」

こうして半ば強引に午後の予定を決定されてしまった…

同じクラスの1人の女子生徒はその様子を眺め話しかけようと試みるが…

「あ…」

後ろからの小さな声も虚しく凪には届かなかった。

学校も早々に終わり颯と一緒に帰路に着く。2人で帰るのは中学以来なので少し気恥ずかしい。

お爺ちゃんから貰った地図によると学校から少し歩かなければならないらしい。地図を見ながら歩き、学校からおおよそ約15分くらい地点に来て唖然とする。

「ここ、なのか…?」

「ら、らしい…」

貰った地図には一寸の狂いも無かった。間違いなく“ここ”が今日から俺の家らしい。

驚いたのも無理はない。凪が想像していた家とはマンションの一室。だが、“ここ”はマンションなどではなく、古い一軒家の屋敷だったのだから…

「凪の爺ちゃんすげぇな…」

「俺もびっくりしてる…」

(後でお爺ちゃんに連絡しよ…)

地図と一緒に貰った鍵を使い中に入る。使われてないと思われるが家の中は整っており綺麗に保たれていた。
屋敷の中を探索して思った事がある。広い。とにかく広い。12畳の部屋が3つ。リビングは10畳ある。台所も広々として使いやすいし電化製品も結構新しめ…お風呂は木製の檜風呂。

なんかもう…やばいわ(ただいま凪は語彙力を失っております。あらかじめご了承ください。)

スマホを取り出しお爺ちゃんに電話をかける。

「お爺ちゃん!!この家どうしたの!?」

「気に入ったかい?それは良かった」

「いや、凄いけど。ここに住むの!?」

「そりゃ凪のために作ったからのう。住んでもらわんと家も浮かばれん。あ、婆さんに呼ばれたから切るの」

プツンッ…ツー…ツー…ツー…

(…ん?作った……??)

一部始終を目撃していた楓の方を向く。

「凪の爺ちゃんやべぇな…」

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