銀杏物語

ノベルバユーザー559333

銀杏の女王

あるイチョウの木がありました。今は少し年をとってしまったけれど、昔は、それはそれは輝いていて、大きく豊かな枝ぶりをしていました。

みあげる人たちを優しく見おろす立派な大木だったのです。 イチョウが輝いている秘密はひときわ大きな1枚の葉にありました。それはイチョウの女王と謳われたとても美しい一枚の葉でした。

心優しい女王は、従えるイチョウの葉たちに慕われていました。自分の下に連なる葉たちをいつも励まし、心の温かくなる言葉をかけるのが、女王自身大好きだったのです。
旅人は、「なんて美しい大きな木だろう!」と見惚れて足をとめるのです。

道に迷った旅人には、「あちらが南ですよ」と教えてあげるのでした。

春には、いちょうのコーラス隊を指揮し、そよそよと美しいハーモニーを奏で、そばを通り過ぎる人を立ち止まらせ、夏は青々と萌える葉を茂らせて、遊び疲れた子供たちの影になり、癒しのオアシスになってあげるのでした。

そんなイチョウには、秋が一番悲しいのです。人間はイチョウが黄金色に衣替えをするのを眺めるのが大好きです。でも、イチョウたちは、春、夏と過ごしてきた仲間達と別れなくてはなりません。そう、秋は落葉の季節なのです。

イチョウの女王が言います。「風が吹いてきたら懸命に生き残るのですよ。枝を離してはいけません。皆で力を合わせて、黄金の葉を輝かせ、旅人の道案内をするのです」

落ちてしまいそうな葉っぱたちも、その言葉を聞いて、隣の葉っぱと笑顔を交わし、風に向かってきりっと立ち向かうのです。

しかし風は容赦なく大きな音を立てて、葉っぱたちを吹き飛ばそうとしました。 女王が、厳しく叫びました。「落ちてはいけません!」イチョウの葉たちは、目をつぶり、葉を食いしばって踏みとどまりました。 すると、通り過ぎる風が舌打ちをしたように聞こえました。

女王の明るい声が響きます。 「皆いるわね!」 葉っぱが団結して勝ったのです。 いちょうの見事な黄金色は青い空に映え、旅人の心は華やぐのでした。 でも、また試練です。突風が吹きました。女王がまた叫びました。

「負けないで!」 風は通り過ぎていきました。

こうやって、何年も、何十年もイチョウの木はその土地のシンボルとして、生きつづけていきました。

少しずつ、葉の数は少なくなっていくのです。でも、イチョウの木はずっと旅人に道を示し、子供に癒しを与え続けているのです。イチョウは使命を忘れないからです。

そして、いまでもこのイチョウの木を支えているのは一番てっぺんで皆の指揮をとるイチョウの女王なのです。

女王の声が皆を支えているのです。そして、イチョウの仲間の団結は、ずっとずっと続いていくのです。






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