自分に想いを寄せる、嫌いな幼馴染を捨てた話
第5話 「夢の否定」
あれは三年前の出来事だ。
中学二年目だった俺は画力向上のため、本格的にデッサンや構図などの練習をしていた。
所構わず何枚も描いてみせた。
自分とは違ってなんでも出来るユリへの劣等感を埋めるための暇つぶしでしかなかった絵描きに俺は夢中になっていたのだ。
気づけば描いた絵の枚数は五千枚を超え、部屋の壁の一面に隙間なく貼りまくっていた。
勝手に部屋に入ってきた幼馴染ユリはそれを不気味に眺めているようだった。それでも俺は構わず机に向かって新たな作品を生み出すために描き続ける。
「サッカー部に入りたくなかった理由が……これのため?」
「……」
極限に集中していたため答えられなかった。
いまはただ目の前にある絵を完成させなくてはならない想いに駆られていた。
急に静かになったかと思えば背後から何かを破くような音が聞こえた。
振り返ると俺の絵が数枚破られていた。
氷のような冷たい表情わした幼馴染の手によって俺の作品が———
次々と破られていく自分の作品を見て、ショックのあまり固まっていた。
「こんな下らないお絵かき辞めなよ……ねっ?」
あの時、ユリの向けてきた笑顔が今でも脳裏に張り付いたままである。
目を閉じると、まるで昨日の出来事のように思い出してしまう。
————
授業中。
廊下側の席に座っていた俺の元に手紙が届く。
隣に座る生徒に渡されたのだ。
手紙の封筒の表面には『空へ』と書かれていた。
誰からの手紙なのかを察しながら無造作に封筒を破りながら中身を取り出す。
そこには『ごめんね』と一言だけしか書かれていなかった。
グシャグシャに丸め、すぐ後ろにあったゴミ箱に捨てた。
(……今更だろうが)
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