刀撃スナイパー~十二聖刀物語外伝~

坂崎文明

008 アカギ攻略

「アカギ……」

サイレンのつぶやきがアキラの耳に届いた。

「あれは、この<アスカ遺跡>の主みたいな土蛇グランドスネークの<アカギ>よ。未だに撃破した者もいないし、あれが出たら、は回れ右して撤退するのがセオリーよ」

と、ネメシスが説明してくれた。
の所に、いやにアクセントがある言い回しである。

「――だけど、お前なら倒せる?」

「そうよ。このネメシス様に不可能はないわ!」

などと黒髪に青い瞳の妖精がのたまう。

「サイレンさん、アカギの攻略してみませんか?」

「やってみる? 作戦はあるの?」

アキラが意外な提案に、何故かサイレンは前向きだった。

「作戦は特にありませんが、サポートお願いします」

サイレンが渋い顔をしたが、口をついて出た言葉は意外なものだった。

「まあ、いいわ。やってみなさい」

「わしもアキラをサポートする」

信長も二つ返事で承諾する。

「じゃ、行ってきます」

自分でも何のためらいのないことに驚いた。
ブレードローラーのギアを最速に入れて、アカギに向かって機動突撃をかける。

あっという間に距離が詰まり、アカギのほのおのような八ツ俣の尾が、スナイパーアレイに襲いかかる。
アキラは腰の蕨手刀わらびでとうの柄に手をかけ、居合い抜きの要領で最速の斬撃を数回放った。
蔦のように絡みつつあった尾が、空中で寸断され、アキラはその空間の隙間に機体を滑り込ませた。
すでに、アカギの巨大な蛇体は目の前だ。

その頃には聖刀<蕨手刀わらびでとう>は鞘に戻っていて、赤い蛇体の上をブレードローラーが滑り、アカギの頭頂部に肉薄していた。

だが、敵も反応は早い。
一度、首を引いて、ジャンプして空中を舞ってるアキラの機体がそのアギトに捕らえられそうになる。
素晴らしいタイミングで時限式クラッカーが炸裂し、アカギは思わず首を避ける。
サイレンのサポートだ。

着地して、バランスを崩しそうになり、そこを八ツ俣の尾が狙うが、聖刀<獅子心剣ライオンハート>が打ち払う。
信長はそのまま八ツ俣を抑え込むように斬撃を繰り出す。

アキラは再度、アカギの頭部を狙ってブレードローラーを鋭い角度でUターンさせる。
サイレンがマシンガンで弾幕を張ってくれる。
弾幕に隠れながら、蛇体の動きを追い、前方回転宙返りから、アカギの頭頂部に着地、聖刀をエネルギー全開にして降り下ろした。

鉄鋼のような鱗は聖刀を跳ね返し、アギトの追い討ちで、蕨手刀が破壊される。
空中で再度のアギトの襲撃に、かわそうとするが、アキラは手詰まりになる。

「背中に予備がある」

ネメシスが背中のバックパックを自動解除し、アキラは飛び出た聖刀の柄を掴んで、ためらいなく一閃した。
紅色の炎が聖刀をつつみ、アカギの鱗が一瞬で弱体化、そのまま放たれた一ノ太刀がアカギの首をあっけなく両断した。

「……えっ」

アカギを瞬殺したアキラはその聖刀を見て驚く。

「<真田丸>、左剣よ」

ネメシスが自慢気に胸を張る。

「だけど、<真田丸>はメガネ先輩が持ってるはず」

真田幸村から託された<真田丸>はメガネ先輩が持ってると聞いていた。

「<真田丸>は左右で一刀。メガネ先輩が持ってるのは右剣よ。いろいろ事情があって、このスナイパーアレイの前の搭乗者に託されたものよ。大切に使いなさい」

ネメシスは珍しく訳ありな表情でいう。
アキラもそれ以上は訊かなかった。

「俺が使っていいのか?」

それだけ確認したかった。

「もちろんよ。それも、このスナイパーアレイの搭乗者のものよ」

ネメシスはあっさり答えてくれた。
自分にこの聖刀をもつ資格があると思えないが、蕨手刀が破壊されては仕方がない。

「アキラ、やったな」

信長の<ゴールデンライオン>がアキラの側にきて、短い賞賛の言葉を贈った。

「やればできるじゃない」

サイレンのダークレッドの<ニンジャハインド>も近づいてきた。

「ふたりの協力のお陰です」

ネメシスが当然、不満げな表情でふくれっ面になっている。
意外に、なかなか可愛いところがある。

「分かってるよ。ネメシス様のお陰です」

アキラは大げさに身振りで手を合わせて、ネメシスを拝みながら一礼した。

「分かれば、よろしい!」

赤い服の妖精の青い瞳が満足そうに見開かれる。

「さて、この賞金首<アカギ>だけど、ギルド本部まで届けるのが大変ね」

サイレンが少し思案気な口調で話している。
通常、モンスターの死骸は部位によって色々と活用できるので、ギルド本部に持ち込めば高値で引き取ってくれる。
グランドスネークの<アカギ>ともなれば、新しい聖刀や各種の武器弾薬、装備、果ては人型機動兵器ボトムストライカーそのものを新装備にすることもできるほどの賞金が手に入る。

「バックパックの積載限度も越えてるからのう」

信長もいいアイデアは思いつかないみたいである。
ボトムストライカーのバックパックは四次元ポケットのようになってはいるが、その積載量は無限ではない。
ゲームの設定上の上限があり、拡張するためにはそれなりの費用がかかるので一種の装備のようなものである。

「さてさて、私の出番かな?」

ネメシスが青い瞳をキラキラさせながら、腰に手を当てて胸を張る。
ドヤ顔でアキラを見ている。
悔しいが、ちょっと訊いてみたくなった。

「――ネメシス様、どうか、愚かな私達に道をお示し下さい」

アキラも思いっ切りへりくだって、ネメシスを持ち上げる。
だんだん、この唯我独尊の人工知能の扱いの方に慣れてきたと思う。

「よろしい! 哀れな子羊に慈悲を与えてやろう。これだ!」

アキラのスナイパーアレイの掌の上に突如、光球が現れて、その光球の中から変な虫のようなものが出現した。
玉虫色の甲虫がはねを生やして飛んで、<アカギ>に取り付くと徐々にそれを取り込んでいった。
<アカギ>がみるみるうちに縮んでいって消滅し、逆にその甲虫は子猫ぐらいの大きさになった。

「……あの、ネメシス様、この虫は何なんですか?」

アキラはあまりの光景に、仕組みが知りたくなった。

「<食いしん坊甲虫>、ナノテク甲虫のひとつで、まあ、バックパックの四次元ポケットと同じ原理よ」

無い胸を反らして、得意気に話す女神様だが、アキラ達の間には驚きと共に微妙な空気が流れた。

「さすが、ネメシス様です!」

アキラはこの我儘わがままな妖精の扱い方を完全に修得したかもしれないと思った。
お世辞が上手くなりそうだ。






(あとがき)

久々に小説を更新しました。
しばらく、遺跡探索編を書きながら、VRゲーム<刀撃ロボパラ>の世界を巡ります。
『非正規社員 石田三成』~ショートストーリー集~のエピソードで月面基地決戦があったりするので、月遠征とか火星遠征編もあるかもしれません。


月面基地決戦 ! 黙示録の四騎士/『非正規社員 石田三成』~ショートストーリー集~ 坂崎文明
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復活、赤き流星/『非正規社員 石田三成』~ショートストーリー集~ 坂崎文明<a href="https://kakuyomu.jp/works/4852201425155006317/episodes/1177354054888961364">https://kakuyomu.jp/works/4852201425155006317/episodes/1177354054888961364</a>

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