シーマン

文戸玲

うっせえうっせえうっせえなあ



「苦労をかけて悪かった」
「水くせえな。おれたちの仲じゃないか・・・・・・とはならないな」
「世知辛ぇ」


 大貴は一向にこっちを見ようとせず,手元はただひたすら忙しそうにホーム画面をスクロールしている。


「大貴,さっきから何してんだ?」
「何で分からへんねん。やから清介はモテへんねん」
「お前のその気持ち悪い行動を理解できるやつは,恋人どころか友達を作れないだろうな」
「清介は人間ってものを分かってへん。せやから,人間関係もうまくいかへん,ええ感じの女の子を逃す,唯一の親友にも愛想をつかされる,挙句の果てには・・・・・・」
「ほんとどうでもいいな。手も無沙汰でやることないんだろ。周りを散々引っ掻き回しておいて」
「モテへん男がやる典型的なアピールやな」
「あー,うっせえうっせえうっせえなあ!」


 急に大貴が話題の音楽に乗せて急に大きな声を出した。


「そうやねん! おれってしょうもないねん。女子と連絡とってるやつらが羨ましくて,同じように忙しいふりをしてスマホのホーム画面をひたすら触り続ける人生やねん。どうや? 非の打ち所がないというところが唯一の欠点と思われていた田淵大貴様にも,こんな情けない一面があるんや。人間らしいとは思わへんか? 愛着が湧いてこーへんか? あまりにも神々しいと,おだやかに手を振るぐらいしかできひんかもやけど,アエルアドル的なポジションを取ったことで今度は親近感が湧いてきたやろ」
「ほら吹きがまた調子のいいこと言ってるぐらいにしか思わねえよ」
「なんてこと言うねん! もうええ! わし,帰る!」


 そう言うと,大貴はつんけんしながら病室へと戻っていった。
 ずっと抱きかかえらえていたシーマンは,急にソファに置き去りにされて間抜けな顔で泡をこぼしている。


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