シーマン

文戸玲

暗証番号

 もう一度大貴の父親と連絡を取り,日程を調整した。日取りはすぐに決まり,加害者が来ることを再度確認すると,満足げにしているのが電話越しに伝わった。


「親との連絡ぐらい,自分でしてほしいんだけど」
「あいつを親だと思ったことなんか,いっぺんもないわ」
「いや,戸籍上親なんだ。今度からは自分で連絡を取ってくれ」
「なんでそんな偉そうやねん」
「どの口が言ってるんだ。お前の問題だろ」


 そうこうやり取りをしていると,こぽん,と泡が水面に浮かぶ音がした。
 シーマンが何か言いたそうにしている。


「そうや。なんか解決策浮かばへんか? 親父と会わずに金だけ借りる方法」
「金を借りたら問題が解決するように思えんのんじゃけど。それより,・・・・・・」
「せや!!!」


 シーマンが何かを言おうとしているのを遮って,,大貴は興奮しながら話し始めた。


「暗証番号や! どうや! シーマン,分かるやろ?」


 暗証番号さえ分かれば,あとはキャッシュカードを盗むだけや。そうすればすべてが解決する。
 そう熱弁する大貴を,おれたちは冷めた目で見つめた。



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