シーマン
出会い
大貴とおれが出会ったのは,大学に入学して間もなく,履修に苦戦している時だった。
「あー,かなんでほんま。ほんまやれんわ」
同じように初めての履修に苦戦しているのだろうと思われる人の声が,ひときわ大きく響いた。
その声はペットショップで鳴いている動物のごとくとめどなく続いている。
大学にはいろんな人がいるって何度も聞いていたけど,本当に変わり者がいるんだなと妙なことに実感していたところ,しばらくするとその声の主に明らかに違和感を感じ始めた。
「かなんかなん。かなんでほんま」
関西弁はテレビでも耳にしたことがあったから,そのイントネーションから関西弁であることは分かったし,言っている意味も何となくだけど伝わった。きっと,おれと同じように困っているのだ。
ただ,その声のベクトルは明らかにこちらに向いているし,距離も明らかに近づいている。
ばれないように,声のする方を盗み見た。
その瞬間,「ひゃっ」と情けない声をあげてしまった。前髪を下ろした明るい髪の毛の男が,文字通り目と鼻の先ほどの距離にまで近づいてきていた。
「自分,困ってるやんな? 困ってるもんどうし,ええようにやろうや。一人じゃ抱えきれへんことも,二人なら解決するか問題が大きなるかのどっちかや」
けらけらと笑いながら,不思議なオーラを放つ男は馴れ馴れしく肩を組んできた。
横の椅子に勢いよく座った瞬間,伸ばした前髪がふわりと浮きあがった。
額には,月の表面を思わせる不自然な凹凸があった。
それが,おれと大貴の出会いだった。
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