シーマン

文戸玲

変えられるものと,変えられないもの



「ええか? 人には影響を与えられる範囲と,そもそも関与することが出来ない範囲っちゅうもんがあるんよ」


 言ってることが分かるようで,分からない。


「分かっとらん顔しとるの。分かりやすく説明しちゃる。例えば・・・・・・」


 シーマンはそういうと,大貴の方をひれで指さした。


「大貴は,清介に煙草をやめてほしいと思っとる。ほな,清介,お前は煙草をやめられるか?」


 ちょっと考えたが,そんなもの答えは決まっている。


「いや,無理だな」

 そうきっぱりと答えて,ポケットから煙草を取り出して火をつける。大貴はみるみる深いな表情になった。


「ほうじゃろ? それはなんでや?」


 なんでや,って聞かれても,その問いには答えられそうで,明確な答えを返すことが出来なかった。
 それに,恋愛と煙草を結びつけるのはなんだか無理矢理な気もする。


「そこじゃろ。人に影響を与えることが出来ないことって,結構たくさんあるじゃろ?」
「でもそれは,おれが振られたこととは関係ないだろ。煙草にはニコチンが含まれていて,天にも昇る気持ちになれるんだ」
「中毒じゃの。まあええわ。この話のポイントは,結局清介は,変えられんもんをいつも必死で変えようと努力する。もちろん,結果は報われない。じゃけえ,しんどいんじゃないんか」


 言われてみればそんな気がしないこともない。
 自分のこれまでを振り返ってみた。


「せやせや,痛んだ食材を食べれる方法を探して腹を壊したり,意見が一つにまとまらないときに,『満場一致じゃないとだめだ』とこだわって延々と相手を説得したり・・・・・・」
「まさにそれじゃ!」


 水槽が震えるような声で,シーマンは興奮して言った。


「相手の気持ちを知ることは出来ても,相手の考え方そのものを否定したり,変えさせたりすることは出来んのんよ。そんなところで土俵に上がったところで,相手は相撲を取ってくれはせん」


 シーマンの言いたいことが,やっと分かってきた気がした。



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