シーマン

文戸玲

吾輩は魚である

「思考が表に出ることほど恥ずかしことはないな。意識高い系のゾーンに入っちゃってる大学生のツイッターもそんな感じで目も当てられないからな。ところでさかなクン,君も男であるならば人の思考が読めてもそ知らぬふりをするのも粋な生き方ではないのか? プライバシーの侵害だよ」
「誰がさかなクンじゃ。そんな名前で呼ぶな」
「じゃあなんて読んだらいいんだ?」

 
 魚は首をかしげた。体の構造上もちろん首を傾けることは出来ないのだが,はて,という顔をして首を横に向ける姿はまさに人がするそれだった。
 そして水中をゆっくりと旋回して,こう言った。


「吾輩は魚である。名前はまだ無い」


 そしてまた旋回し始めた。口元からぷくく,と泡がこぼれ上がってく。


こいつ,笑っているのか?

 
 ぼくはどこか憎めないこの魚をジッと見つめて,そういえば何かに似ているよな,と自分の記憶の中を探り始めた。


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