【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト

小海音かなた

Chapter.90

 窓の外は変わらず快晴で、海と空の青がキレイ。もう少し上に行くともっと視界が開けるんだけどなって眺めてたら、
「ね」
 由上さんに小さく問いかけられた。
「そっち、行ってもいい?」
「? はい」
 向かいの席からじゃ見えない景色があるのかな? と思って、座る位置をずらして一人分空けた。由上さんはそっと立ち上がって、そっと私の隣に座る。
 揺れないように配慮してくれたんだ、って気づくと同時に、右手に由上さんのぬくもりが重なった。
 ドキリと心臓が跳ねる。
 脳内に、さっき浮かんだ“期待”がよみがえる。
「……光依那」
 ドキリ。名前を呼ばれて心臓がまた跳ねる。
「はい……」
「……好き、だよ」
 ドキリ、ドキリ……由上さんの一挙手一投足に反応して、鼓動が徐々に強くなる。
「わたしも、好き……です」
 目の前に、由上さんの端正な顔。
 景色なんか見えなくて……由上さんを見ていたくて……狭い室内に鼓動が響きそうなくらいドキドキして……。


 近づいてきた唇が、軽く、触れた。


 小説や漫画で読んだ『ファーストキスは●●の味』ってフレーズがよぎる。けど、何味かなんてわからないほど、全身がドキドキして、クラクラして、どうにかなってしまいそうだ。
 少しでも落ち着くためにこっそり深呼吸して前を見たら、由上さんも照れくさそうに、でも嬉しそうに微笑んでいた。
 あぁ、私、由上さんが好きだ。とても、すごく、この世で一番……。
「ドキドキした」
 小さく笑ってつぶやくその声さえ愛おしい。
「そうですね……」
 ふふっと笑って答えたら、由上さんは優しく私を抱き寄せた。
「ね」
「はい」
「そろそろやめない? 敬語」
「ぅ、ど……努力します」
「や、無理はしないでいいんだけど……」
「よそよそしい、ですか」
「ちょっと、寂しい、かな?」
「じゃ、じゃあ、少しずつ、慣れるようにします」
「うん。じゃあ、まずは……呼び方から?」
「呼び方……」
 確かに“由上さん”はクラスメイトにしてもよそよそしい。じゃあ、だったらなんて? 考えて出した答えを、口にしてみた。
「そ、蒼和、くん……?」
「……うん。なんか新鮮。そんで、嬉しい」
 離れた身体。目の前に猫の笑顔。
 愛しくて……私の語彙力じゃとても表現できないほどの感情が湧いてくる。
 蒼和くんの温かい手が私の頭を、髪をなでて、そのまま頬に移動した。優しくて、温かいまなざしがまた近づいて……さっきよりも少し長く、強く、唇が重なって……離れる。
「……すき……」
 あふれ想いが言葉になって、口からこぼれた。
「オレも、すげー好き……」
 微笑みあって、ぎゅって抱きしめたら、身体の底から幸福感がにじみ出てきた。 好きな人に好きって言えるのって、好きな人に好きって言ってもらえるのって、こんなにも幸せなんだって、嬉しくてたまらなかった。

* * *

 観覧車を降りて、また海沿いの公園に戻る。初音ちゃんと立川くんの姿は見えなくて、いまごろどこかでデートを楽しんでいるんだろうなって思う。
「さて、これからどうしようか」
「うーん、お腹は? 減ってないで……ない?」
 思わず出そうになる敬語を飲み込んだら、由……蒼和くんが小さく笑った。「減ってはいます」
 からかわれて、いやな気分じゃないけど少し恥ずかしくて、わざとすねた顔をして蒼和くんから視線をそらした。
「ごめん、怒った?」
「怒ってはない。でも、まだ慣れるまで時間がかかりそう……」
「それでいいよ。気長に行こう。もうずっと、一緒にいるでしょ?」
 蒼和くんの言葉の真意がつかめなくて返事できずにいたら
「あれ? そう思ってるのオレだけ?」
 少しさみしそうに首をかしげる。
「う、ううん? ちょっと、ビックリしたっていうか……うん……もうずっと、一緒にいたい」
「うん」
 繋いだ手の熱が混ざって馴染んで、ひとつになって……本当にこのままずっと、二人の時間が永遠に続けばいいなって、思った。

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