【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト

小海音かなた

Chapter.85

「それにしても良かった、やっと言えた」
「やっと……」
「そー! ずっと言えなくてもやもやしてたからさ」
 由上さんが笑う。
「由上さんでも、そういう風になるんですね」
「なるよ、そりゃー。普通の男子ですから」
 そっか、って納得して、同時に嬉しくなるし、疑問がわいた。
「ずっとって、いつからですか?」
「一年の、はじめのほう」
「えっ……!」
 意外そうな私の反応に、由上さんが困ったように笑った。
「さっき言ってた、高校入ってからはずっと、ってのは、そういうこと。高校入ってからはずっと、天椙さんしか見てなかった」
 心底意外な“告白”に、私は目を丸くした。でも確かに言われてみれば、都度、ことあるごとにかまってくれていた。それは由上さんが、私をそういう風に想ってくれていたから、ってわかったら、至極納得のいく行動だった。
「天椙さんって、目立ってたんだよね」
「えっ」
 今度は心外そうな私に、由上さんが微笑む。
「悪い意味じゃなくてね? うちの学校、みんなチャラいっていうか、良くも悪くもテキトーじゃん? だけどそんな中で、ちゃんとキレイに制服着こなして、姿勢もキレイで、動きとか言葉遣いもさ。そういう意味で、目を引いたんだよ」
「……そうなんですか……」
「だから三咲と同じクラスなの知ったとき、チャンスだって思って、色々、こう、接点つくろうって思って、話しかけたりしてた」
「え、じゃあ、立川くんは知って……?」
「いや? どうだろう。最初のうちは知らなかったと思う。言ってなかったし。でも途中でなんか、感づかれて……そしたらもう枚方にも筒抜けだしさ。二年になって、三咲は違ったけどオレらと枚方は同じクラスになって、そしたら枚方がはりきりだしてさ……」
「あぁー……」
「思い当たる?」
「なんとなくは……」
「だから、いつかあいつからバレるんじゃないかってヒヤヒヤしてた」
「それは、大丈夫でした」
「うん……」
 由上さんは少し複雑そうな表情になって、少し言いよどむ。なんとなく含みのある答え方に私は首をかしげた。
「……枚方からは、バレちゃったかも、って言われたことあったけど……やっぱ、鈍いよね、そういうの」
「だ、だって……」
 自覚はあるし、理由もわかってる。昨日今日でも何回か言われた。だから、思わず反論しそうになる。でも言うのははばかられて、口ごもる。
 黙った私を見て由上さんは優しく笑みを浮かべた。
「いいよ、言って」
 どうやら遠慮していると思われたらしい。本当は違うけど、こういう機会がないともう伝えることもないかと思って、勇気を出した。
「……そういう、その、誰かを、好き……になる、とか、したこと、なかったんで……よく、わからなくて……」
 言い終わって由上さんを伺い見たら、驚き顔でこちらを見つめていた。
「え、は、はつ、こい……?」
 心底意外そうに自分を指さしながら言う由上さんにぶぜんとした顔を見せつつ、こくりとうなずいた。自分でだって遅いのはわかってるから、なに言われても大丈夫、と思ってたんだけど……。
「め…………っちゃ嬉しい」
 真顔でそんなこと言われたら、もう照れるしかなくて。
「そ、そんな大したものでは……」
「いや、いやいや! 天椙さんはそう言うけどさ、嬉しいでしょ、好きな人の初恋相手が自分とか、そんなん。嬉しいよ、すごく」
 由上さんに一気に言われて、私は一気に耳まで赤くなる。
「そ、それはよかった、です」
 恥ずかしくなってうつむいた私に、
「……ひとつ、いい?」
 由上さんが優しく問いかける。
「はい」
「オレも、ただの男だからさ……その……本当に、いやなことしそうなときは、ちゃんと、止めてね?」
「……は、い」
「自制心、きかなくなるときがあるかも……? いや、頑張るけど……うん」
 人より遅いのは知ってる。いままでは追いつこうなんて思ってもなかった。けど……もうそれは、一人の問題じゃないんだって、そう思うから。
「は、はい……私も、が、がんばります……」
「うん。ゆっくりね」
 由上さんが猫の笑顔で言ってくれるから、私は安心できる。
「けっこう遅くなっちゃった。そろそろ行こうか」
 そう言って由上さんが立ちあがる。そのまま進もうとする由上さんは、手を繋いだ私に引きとめられる形で立ち止まった。
「ど一したの?」
 そういえば、って、思い出したから……私は口を開いた。
「由上さん」
「はい……」
 神妙な面持ちの私につられて、由上さんも真剣な表情になった。
「……好きです……きっと、初めて会ったときから、ずっと」
 人生で初めての“告白”は電灯が照らす仄明るい空の中に消えた……と思ったら、次の瞬間、私は由上さんの胸の中にいた。
 突然すぎて、動きが、思考が、止まる。
 今まで感じたことのない箇所に、熱が伝わってくる。抱きしめられている、と気づくまでに数秒かかって、ようやく理解した。 
 【好き】の度合いが目に見えるとしたら、ぎゅーんと急激に上がって、メーターを振り切っていると思う。
 こんなにも人の体温が心地いいと思ったこと、人生で一度もなかった。
「やっと……聞けた、天椙さんの気持ち……」
 嬉しそうにつぶやく声が耳をくすぐる。
 さっきからずっと、胸の奥がぎゅんぎゅん締め付けられて、気持ちがあふれ出して、もう、だめだ。
 空中で固まったままの手を動かして、由上さんの背に回す。少し力をこめたら、細いけど、思っていたより体格ががっしりしているのがわかる。
 由上さんも私の体格が伝わっているのかな?
 そんな風に考えて、また不思議な気分になって……。
 私たちは少しの間そのまま、愛しいお互いの体温を感じていた。

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