【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト

小海音かなた

Chapter.58

 初音ウブネちゃんと一緒に、すっかり行き慣れたファミレスへ向かう。
 四人席に通されて、二人なのにいいのかなと恐縮しながらメニューを開いた。
「ご飯食べる?」
「うーん、どうしよう。ママが用意してくれてそう」
「だよね~。じゃあデザートセットとかにしようかな」
「あ、いいかも」
 二人で色々お話しながらオーダーを決めて、テーブルに置かれている呼び出しボタンを押そうとしたら
「ごめんごめん、お待たせ~」
 席の後方から声が聞こえた。
「おー、いま注文しようと思ってたとこ~」
 初音ちゃんが手を挙げて応えたのは、立川くんだった。あ、声かけてたんだ、と思って振り向いたら、立川くんの後方に由上さんが立っていた。
 えっ、えっ、うそ。聞いてない……!
 結局今日は一言も交わしてないし、私の中ではまだちょっと、心の整理がついていないというか、ちょっとまだ気まずいというか……。
 でもそんな心境は誰にも話してないから、初音ちゃんや立川くんはもちろん、由上さんも知らなくて……。
「元気そうで良かった」
 隣に座った由上さんが猫の笑顔で声をかけてくれる。私の心境とは裏腹に、由上さんは普段通りの優しさをくれる。
「はい、元気でした」
 すみません、って言いそうになって、やめた。謝られる覚えがないだろうなと考えたからだ。
「あれ? 二人も久しぶりなの?」
「んー? うん、まぁ」
 初音ちゃんの質問に、言葉を濁しつつ由上さんが答えた。
「なんだー、夏休み中ふたりで遊んでるのかと思ってた~」
「遊んでは、ないかな」
 うん、確かに“遊んで”はない。一緒に勉強はしてるけど。
「ね」
 由上さんに同意を求められて
「はい」
 と答えた瞬間、おかしくなって二人で小さく笑ってしまった。
「えー? なになに~?」
「別に?」由上さんがとぼけて首をかしげたので、
「なんでもないよ」私も倣って小さく笑いながら答える。
「あやしい~」
「まぁまぁ、仲がいいのはいいことでしょ」
「うーん、そうだね」
 立川くんのフォローに、いまいち納得してなさそうな返答で初音ちゃんがうなずいた。
 立川くん、なにか知ってるのかな?
 私も自分の気持ちが説明できるようになったら、初音ちゃんに夏休み中のことを報告しようと決めた。
 由上さんと立川くんも一緒にオーダーして落ち着いたところで、
「はいっ」初音ちゃんが小さな紙袋を私に向かって差し出した。「お誕生日、おめでとう!」
「わ、ありがとう! 気を遣わせてごめん」
「こういうのはお友達のだいご味なんだから、味わわせてよ~」
 初音ちゃんが笑う。
「じゃあ、ありがたく、いただきます」
「召し上がれ~。食べ物じゃないけど~」
「え、今日?」
 私たちのやりとりを見ていた由上さんが、伺うような顔で私を見る。
「いえ、来週です」
「来週会う予定なさそうだし、当日はもっと大事な用事があるかなって思って」
「そんなことないけど」
「じゃあ予約しちゃえばよかった」
 初音ちゃんがわざとらしく残念そうに口をとがらせて
「っていうか、誕生日くらいリサーチしておかないと~」
 とがらせた口のまま、由上さんに言う。
「そっか、そうだよね。自分が割と気にしないほうだから……」ご、と言いかけて、由上さんが口をつぐんだ。
 ごめん、かな? でも謝っていただいても申し訳ない。そう思うのを察してもらったみたいで嬉しい。
「もっと早く知ってればなぁ……」
 言いながら、由上さんがカバンをゴソゴソあさる。
「うーん、なんもない」
「だ、大丈夫です。お気持ちだけで、充分嬉しいので」
「えー? またそうやってさぁ~」
 由上さんは少し拗ねたように言って、顔をゆがませる。立川くんと初音ちゃんはそんな由上さんをニコニコ……いや、ニヤニヤ見守ってる。
「なんかバースデー特典とかないのかな」
 メニューを広げた立川くんが、ページをめくって探し出した。
「いいよ、大丈夫。そういう大々的なの、恥ずかしいんだ」
「そ?」
「割引くらいはあるんじゃない?」
 立川くんの隣で初音ちゃんもメニューをのぞき込んだ。
 裏表紙の下のほうに、【誕生月のお客様にケーキセットをサービスいたします。ご希望のお客様にはロウソクとバースデーソングもお付けします!※最大四名様まで】という文言を見つけた初音ちゃんが「ほら、あったよ」と教えてくれた。
 とはいえさっきケーキセット頼んじゃったしな~と思っていたら、由上さんが店員さんにかけあってくれて、無事人数分のケーキセットを提供してもらえることになった。
 せっかくだからとみんなで食べられるサイドメニューをいくつか注文して、ひそやかにお祝いしてもらった。お友達にも、もそうだけど、まさか由上さんにお祝いしてもらえるなんて思ってもなくて、胸がいっぱいになった。

 テーブルでお金を出し合って、預かってくれた由上さんと立川くんが会計をしている間、レジ横の棚を眺める。小さい子向けのお菓子の詰め合わせやおもちゃなんかが並んでいて、もう対象年齢からはとうに外れているけど、華やかさに惹かれてついつい見てしまう。
 あ、可愛い。
 平たい箱の中にきちんと並ぶキラキラしたくまの顔。ブローチとかかな? と思って取り出したら、サイズ調節が簡単にできる指輪だった。
「えー、可愛いね」
「ね」
「そういうのも良かったね」
「ん?」
「プレゼント」
「初音ちゃんがくれたヘアアクセサリー、素敵だよ? 大事に使う」
「それならよかった。みーなちゃん髪きれいだからさ、似合うと思ったんだ」
「ありがとう。今度つけてくるね」
「うん、楽しみにしてる」
 二人でニコニコ話していたら、会計を終えた二人がやってきた。四人でそろってお店を出たら、由上さんが「あ」と立ち止まった。
「ごめん、忘れ物したかも」
「ありゃ」
「待ってるから、探しにいってきたら?」
「うん、そうする。ごめん」
 立川くんの提案に由上さんが同意して、小走りに店内に戻った。
 席、帰る前に一応全体的に見てみたのに、それらしきものなかったなぁ。どこか見つけにくいところにでも置かれてたのかな? 見つかるといいな。
 一緒に探しに行くのはおおげさかなと思って、少し移動してファミレスの駐車場脇で待つことにした。
 ほどなくして、由上さんが小走りで戻ってくる。
「あった?」
「うん。お待たせ」
「見つかってよかったです」
 ホッとして笑顔になったら、由上さんも同じように笑みを浮かべた。
 談笑しながら駅に向かう。
 私だけ逆方向の電車に乗るから、三人にバイバイしようとしたら初音ちゃんが由上さんをひじでつついた。
「送っていきなよ」
「そのつもりだよ」
「だっ、大丈夫ですっ」
 そんなの緊張するって思って断ったら
「ダメですよ」由上さんが諭すような敬語で言った。「夏の制服はガードが甘いし、この時間ホームに駅員さんいないこと多いから」
「でも別に、いままでなにも……」
「いーのいーの、かっこつけたいお年頃なんだから、送ってもらっちゃいなよ」
 私の言葉をさえぎって初音ちゃんが由上さんの背中を押した。
「全員タメだろ」
「精神年齢の話をしてるの~」
 じゃーね! って半ば強引にバイバイされて、由上さんと二人で階段をのぼる。なにか会話を……と考えていたらすぐに電車がやってきて、無言のまま近くの車両に乗った。

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