【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト
Chapter.33
席は由上さんの隣のまま一ヶ月。朝見つけられなくても絶対会えるし、挨拶も会話もできるし、その気になれば一挙手一投足を確認できるし(しないけど)、とっても幸せ。この先の幸運を全部使っちゃってないかなぁって心配になっちゃうくらい幸せ。
そうれとは別にもうひとつ幸せがあって、それは初音ちゃんとお友達になれたこと。
初音ちゃんと一緒にいると、初音ちゃんのお友達とお喋りする機会も増えて、なんだか自分まで明るくなれた気がする。
たまに初音ちゃん提案で立川くん、由上さんと四人で帰りに寄り道したりして、本当に幸せすぎて、いいのかなって思いながら楽しんでる。
クラスメイトにも家族にも「最近なんかいいことあった?」「なんか楽しそう」「前より明るくなったね」って言われて、それがますます私の前向きさに拍車をかける。
日記も毎日充実していて、チェックリストも少しずつ埋まっていった。
そうして穏やかで幸せな日々を暮らしていたのだけど……。
* * *
休み時間中にトイレに入った。個室を出たら、女子がずらりと横並びで私の行く手を阻んでいた。五人も並んでいたら、トイレの敷地はほぼ満杯で、脇を通り過ぎて出口に向かうのも難しい。
え……なに……。
考えが顔に出ているのが自分でもわかる。たじろいでいたら並びの中の女子が一人、口を開いた。
「あんたさぁ、最近チョーシのってんじゃない?」
唐突に言われて、なんのことかわからず、首をかしげる。
「蒼和様に近付きすぎなんじゃないって言ってんの」
そわさま……由上さん、に? 近付きすぎ?
「私、が?」
「あんた以外に誰がいんのよ!」今度は別の女子。
言われれば確かに、トイレの中には私と、彼女たちしかいない。
しかし私に近付いているつもりはない。むしろ、かまってもらってしまって申し訳ないとすら思ってる。けど、周りからみたらそうは思えないのかもしれない。
ごめんなさい、と謝るのも、もうしません、と引き下がるのも違う気がして、言葉を探す。だけど、うまい言葉が見つからない。
だって、彼女たちの認識と、私の認識は真逆なのだ。
「なんとか言いなさいよ!」
しびれを切らしたまた別の人が、壁を叩かんばかりに声を荒げた。反射でビクリと身体がすくむ。でも内心は腹が立っている。なんでこんなことされなきゃなんないのって。
言い返そうとして言葉を探していたら
「ねーちょっと、外まで聞こえてんだけど」
出入口のほうから女性の声がした。
「なによ、あんたには関係ないでしょ」
「関係ないけど、目立つのよ。ちょっとは周りの状況も見てみたら?」
言われて、私たちは出入口のほうを見た。何人かの生徒が集まってトイレの中を見ようとしている。
「続けてたらそのうち先生が来ると思うけど、それまでここにいましょうか? 私、状況説明できるけど」
五人の女子たちは悔しそうに顔をゆがめ、口火を切った中心的な女子一人が私たちに聞こえるように舌打ちをしてトイレを出て行った。場を静めてくれた人は去っていく女子たちを見て、ため息をついた。
見覚えのあるその人は、確か二年になって同じクラスになったヒトだ。
「……ありがとうございます」
「いいんだけど……あますぎさん、だっけ」
「はい。美好さん……ですよね」
クラスカースト高めの美好さんは、度々由上さんに声をかけて一緒にゲームをしたりおやつ食べたりしてる人。
二年になって初めて同じクラスになって、自己紹介のときに名前と同じで美しくて人に好かれそうな人だなって思ったのが第一印象だった。
「えぇ。あなた、誰とも話さないようにしてるのに、目ぇつけられたのね」
「う…誰とも話さないようにしてるわけでは……」
「蒼和くん、なにかと目立つから、少し気を付けたほうがいいわよ」
「え、あ、そう、ですね……」
さっきまでの人たちとは少し違った雰囲気の威圧感がある。自信の表れだろうか。私が卑屈なだけだろうか。
「あの、巻き込んで、すみません……」
「うん。ただうるさかっただけだから、気にしないで。蒼和くんまで巻き込まれるの、ちょっとなって思っただけだから」
「それは、そうですね……」
私のせいで由上さんがなにか言われるとか、申し訳なさすぎる。
「静かになったしいいわ、そろそろ授業始まるから、戻りましょう」
「は、はい」
美好さんも私服組で(毎日制服着て来てるのなんて全校でも私くらいしかいないんだけど)、なんというか、派手だ。服装がどうとかじゃなくて、顔立ちが。
目鼻立ちがはっきりしていて、長い茶髪にゆるやかなウェーブがかかっていて、ボリューミー。稀代の名作に登場するテニスが上手であだ名が“夫人”のあのキャラにちょっと似ている。
私とは全然違う人種だからいまいち想像つかないけど、私が美好さんみたいな見た目だったら、さっきみたいなこと言われなくて済んだのかな……、なんて思う。実際、由上さんと遊んだりしてるのに誰にもなにも言われてないみたいだし……。
なんとなく、二人で一緒に教室に戻る。
“蒼和くん”か……。
先を歩く美好さんの後ろ姿を見ながら反芻してみた。その呼び方は、二人の親しさを現しているみたいで、胃のあたりがチクリと痛んだ。
「じゃ」
「あ…はい」
美好さんとは席が離れているから、入口付近で別れた。そのまま席に戻ったら、それを見ていた由上さんから声をかけられた。
「美好と仲良かったっけ?」
「いえ……さっき、ちょっとあって……」
由上さんが関わっているから詳しくは言えない。それにさっきテンパってて気付けなかったけど、あの五人、由上さんファンクラブに入っているらしい人たちだ。そのうち二人は同じクラスの恵井さんと椎さん、だったはず。席は私より後ろだから、見るには振り返らなきゃならないけど、それはあからさますぎてできない。
「美好になんかされた?」
「ち、違います。どちらかというと、助けていただきました」
「そうなんだ。それなら良かった」
明らかにホッとした顔をして、由上さんが前を向く。
美好さんと、親しいんですか……?
聞こうかどうしようか。聞いてどうするのか。そうだよって言われたらどうするのか。
悶々と考えていたら、先生がやってきた。次の授業が始まる。
集中しなくちゃと思うけど、頭の片隅で色々なことが渦巻いて気が散る。
なんだか最近こういうこと多いなぁ。
授業に集中できるよう小さく息を吐いて、頭を切り替えた。
* * *
そうれとは別にもうひとつ幸せがあって、それは初音ちゃんとお友達になれたこと。
初音ちゃんと一緒にいると、初音ちゃんのお友達とお喋りする機会も増えて、なんだか自分まで明るくなれた気がする。
たまに初音ちゃん提案で立川くん、由上さんと四人で帰りに寄り道したりして、本当に幸せすぎて、いいのかなって思いながら楽しんでる。
クラスメイトにも家族にも「最近なんかいいことあった?」「なんか楽しそう」「前より明るくなったね」って言われて、それがますます私の前向きさに拍車をかける。
日記も毎日充実していて、チェックリストも少しずつ埋まっていった。
そうして穏やかで幸せな日々を暮らしていたのだけど……。
* * *
休み時間中にトイレに入った。個室を出たら、女子がずらりと横並びで私の行く手を阻んでいた。五人も並んでいたら、トイレの敷地はほぼ満杯で、脇を通り過ぎて出口に向かうのも難しい。
え……なに……。
考えが顔に出ているのが自分でもわかる。たじろいでいたら並びの中の女子が一人、口を開いた。
「あんたさぁ、最近チョーシのってんじゃない?」
唐突に言われて、なんのことかわからず、首をかしげる。
「蒼和様に近付きすぎなんじゃないって言ってんの」
そわさま……由上さん、に? 近付きすぎ?
「私、が?」
「あんた以外に誰がいんのよ!」今度は別の女子。
言われれば確かに、トイレの中には私と、彼女たちしかいない。
しかし私に近付いているつもりはない。むしろ、かまってもらってしまって申し訳ないとすら思ってる。けど、周りからみたらそうは思えないのかもしれない。
ごめんなさい、と謝るのも、もうしません、と引き下がるのも違う気がして、言葉を探す。だけど、うまい言葉が見つからない。
だって、彼女たちの認識と、私の認識は真逆なのだ。
「なんとか言いなさいよ!」
しびれを切らしたまた別の人が、壁を叩かんばかりに声を荒げた。反射でビクリと身体がすくむ。でも内心は腹が立っている。なんでこんなことされなきゃなんないのって。
言い返そうとして言葉を探していたら
「ねーちょっと、外まで聞こえてんだけど」
出入口のほうから女性の声がした。
「なによ、あんたには関係ないでしょ」
「関係ないけど、目立つのよ。ちょっとは周りの状況も見てみたら?」
言われて、私たちは出入口のほうを見た。何人かの生徒が集まってトイレの中を見ようとしている。
「続けてたらそのうち先生が来ると思うけど、それまでここにいましょうか? 私、状況説明できるけど」
五人の女子たちは悔しそうに顔をゆがめ、口火を切った中心的な女子一人が私たちに聞こえるように舌打ちをしてトイレを出て行った。場を静めてくれた人は去っていく女子たちを見て、ため息をついた。
見覚えのあるその人は、確か二年になって同じクラスになったヒトだ。
「……ありがとうございます」
「いいんだけど……あますぎさん、だっけ」
「はい。美好さん……ですよね」
クラスカースト高めの美好さんは、度々由上さんに声をかけて一緒にゲームをしたりおやつ食べたりしてる人。
二年になって初めて同じクラスになって、自己紹介のときに名前と同じで美しくて人に好かれそうな人だなって思ったのが第一印象だった。
「えぇ。あなた、誰とも話さないようにしてるのに、目ぇつけられたのね」
「う…誰とも話さないようにしてるわけでは……」
「蒼和くん、なにかと目立つから、少し気を付けたほうがいいわよ」
「え、あ、そう、ですね……」
さっきまでの人たちとは少し違った雰囲気の威圧感がある。自信の表れだろうか。私が卑屈なだけだろうか。
「あの、巻き込んで、すみません……」
「うん。ただうるさかっただけだから、気にしないで。蒼和くんまで巻き込まれるの、ちょっとなって思っただけだから」
「それは、そうですね……」
私のせいで由上さんがなにか言われるとか、申し訳なさすぎる。
「静かになったしいいわ、そろそろ授業始まるから、戻りましょう」
「は、はい」
美好さんも私服組で(毎日制服着て来てるのなんて全校でも私くらいしかいないんだけど)、なんというか、派手だ。服装がどうとかじゃなくて、顔立ちが。
目鼻立ちがはっきりしていて、長い茶髪にゆるやかなウェーブがかかっていて、ボリューミー。稀代の名作に登場するテニスが上手であだ名が“夫人”のあのキャラにちょっと似ている。
私とは全然違う人種だからいまいち想像つかないけど、私が美好さんみたいな見た目だったら、さっきみたいなこと言われなくて済んだのかな……、なんて思う。実際、由上さんと遊んだりしてるのに誰にもなにも言われてないみたいだし……。
なんとなく、二人で一緒に教室に戻る。
“蒼和くん”か……。
先を歩く美好さんの後ろ姿を見ながら反芻してみた。その呼び方は、二人の親しさを現しているみたいで、胃のあたりがチクリと痛んだ。
「じゃ」
「あ…はい」
美好さんとは席が離れているから、入口付近で別れた。そのまま席に戻ったら、それを見ていた由上さんから声をかけられた。
「美好と仲良かったっけ?」
「いえ……さっき、ちょっとあって……」
由上さんが関わっているから詳しくは言えない。それにさっきテンパってて気付けなかったけど、あの五人、由上さんファンクラブに入っているらしい人たちだ。そのうち二人は同じクラスの恵井さんと椎さん、だったはず。席は私より後ろだから、見るには振り返らなきゃならないけど、それはあからさますぎてできない。
「美好になんかされた?」
「ち、違います。どちらかというと、助けていただきました」
「そうなんだ。それなら良かった」
明らかにホッとした顔をして、由上さんが前を向く。
美好さんと、親しいんですか……?
聞こうかどうしようか。聞いてどうするのか。そうだよって言われたらどうするのか。
悶々と考えていたら、先生がやってきた。次の授業が始まる。
集中しなくちゃと思うけど、頭の片隅で色々なことが渦巻いて気が散る。
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