【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト
Chapter.31
由上さんに話しかけるタイミングは何度かあったけど、なんとなく逃してしまって、お礼を直接伝えることができないまま放課後になってしまった。
二時間目のお礼を放課後に言うのとか、タイミング逃しすぎでしょ……と苦笑して、そのまま下校した。
こういうとき、メッセとかで連絡できたらいいのになぁ、って思うけど、それもまたぜいたくな話で、私は由上さんの連絡先を一切知らない。いつか知れたとしても、気軽に連絡とか……できないだろうなぁ……。
家までの道を歩きながら考えていたら、なんだか自然と笑っていた。
生徒手帳に挟まれた紙片は家に帰ったら宝物の仲間入りをする。
そうやって少しずつ増えていく“宝物”が、この先一生の宝物になればいい。いまはそう思ってる。
たとえばいま書き続けてる手帳や日記もそのひとつ。
いつか大人になって、結婚してママになっても、読み返したらいまの嬉しい気持ちを思い出せるような、そういう宝物になっていたらいいなって思ってる。
そんな未来の自分、あまり上手に想像できないけど、おぼろげに、なんとなく。
「ただいまー」
「おかえり~」
ママに挨拶をして自室に戻って、いつものように着替えて宿題を終わらせる。違うのは脱いだ服が制服じゃないってこと。
バッグの中から今日使った教科書とノート、生徒手帳を取りだして机に置く。宿題として出た範囲の課題を解くためと、時間があれば予習復習をするため。
中学のときより宿題が多いのは、音ノ羽が自由な校風とともに謳っている“進学校”という肩書の証。
難しくて困ることもあるけど、勉強を頑張るっていうのの代わりに得た自由だと考えているから、頑張って対応してる。
それに、音ノ羽に入れたから由上さんにも逢えたわけだし。
宿題を終えて、えへへと独り笑う。
生徒手帳から恭しく取り出した由上さんからのお手紙を、もう一度読み返してにへらと笑ってから、お気に入りの缶に入れた。
有名な洋菓子店の限定クッキー缶で、デザインに一目ぼれして貯めてたおこづかいで買ったもの(中身もとても美味しかった)。
空き缶は机の上、由上さんが開けてくれたボトル缶の横に飾られてる。
カシュ、と音を立てて蓋が閉まる。きっとこの先、悲しくなったりつらくなったりしたときに何回も読み返すだろうな、と思いながら、缶を撫でた。
その手を横に移動させて、ルーズリーフのノートを取る。しおりを頼りにページを開いて、今日の日付を書いた。日記を書くのだ。
朝、初めて私服登校したときの感想、状況。登校してみんなに褒めてもらえたこと。由上さんとのやりとり。お手紙の内容。
そういえば、返事した私の手紙、由上さんはどうしたんだろう。名前が見えないように捨ててくれてたらいいなぁ。
由上さんはそういうの、きちんとしてくれそうだからあまり心配はしていないけど……。
由上さんは私がこんなに大事にお手紙保管してるの知ったらどう思うかな。私だったらけっこう嬉しいけど、男の人はどうなんだろう。
自分から言わなければきっとバレないよね。見せる機会なんてないし。うん。
日記を書き終えて、チェックリストのページに移動する。今日のはどうかなぁ……。
毎日見てるから割と覚え始めている項目を指でなぞって確認して……うーん、これ、かなぁ……。
少し考えて悩んで、ひとつの四角を黒く塗りつぶす。
■安心させてくれる
きっとすごく落ち込んでたのが目に見えてわかったんだろうな……。
気を遣わせてしまって申し訳ない気持ちもあるけど、それより嬉しさのほうが勝ってしまう私はゲンキンだよね。
自分勝手なのは良くないなって思うけど、それでも嬉しいんだもんなぁ。仕方ない。
ノートを閉じて元の位置に片付ける。
そろそろ夕食の時間かなとリビングへ行ったら、ママとおねーちゃんが喋っていた。
「あ、来た来た」
「え? なに?」
「どうだった? お洋服」
ママが興味津々で聞いてきた。そういえば報告しないまま部屋に入っちゃった。
「うん、みんな似合うって言ってくれた」
「でしょ~? ママの腕も衰えてないわね。復職しようかしら」
「え、いいじゃんいいじゃん。社割とかきくところ入ってよ。そしたら私たちも使えるでしょ」
「おねぇちゃんたちが着るようなブランドのとこはもう無理よ。っていうか、もう着替えちゃったの?」
「うん、汚したりしたらイヤだから」
「普段着なんだからいいのに。クタクタになっちゃったらまた新しいのにしよ」
「そうだよ、そのときのトレンドだってあるんだからさ」
「おねぇちゃんとこもみぃちゃんのとこもバイト禁止だからまだいいけど、大学行ったら自分で稼いだお金で買うようにしてね?」
「えー」
「バイト……できるかな……」
おねーちゃんは大丈夫だろうけど、人見知りで積極性のない私に務まる職業などあるのだろうか。
「二人ともいずれ就職してウチ出ていくんだからー、若いうちに慣れておいたほうがいいわよ~?」
「はぁーい」
「う……がんばる……」
「みぃちゃん、お洋服は洗濯ネットに入れておいてね。あとでお洗濯するから」
「うん、ありがとう」
「明日も私服で行くなら、乾燥機かけておくけど」
「あー……明日は、いいや。制服で行く」
「あら、そうなの?」
「なんでー? 私服オッケーの高校なんてそんなにないんだから、楽しめばいいのにー」
「うーん……なんか色々気遣わないといけないの、ちょっと大変……」
「あー、確かにねー。制服だったら別にねー」
「ちょっと二人とも。あんまり言いたくないけど、二人が持ってるお洋服の中で、制服が一番高価なんだからね? よほどのことがない限り三年間着られる強度はあるからいいものの、お洗濯だってクリーニングだし、女の子だから大丈夫だろうけど、あんまり粗雑にはしないでね?」
「言われてみれば」
「確かに」
私は詳しくないから良く知らないけど、おねーちゃんの高校も私の高校も、有名なデザイナーが手掛けた制服らしいし、可愛い。
なのに音ノ羽では制服着る人、いないんだよなぁ。みんな私服のがラクなのかな?
そう思って後日初音ちゃんに聞いてみたら、「えー、だって私服だったら帰りに遊びに行くの困らないじゃない。制服は補導されちゃうかもだもん。あと、通ってるとこバレるのやだし」との回答。
なるほど、考えたことなかった。
周囲で聞いていたクラスメイトも同意してたから、そういうものらしい。
帰りに寄り道とかあんまりしないもんなー。行って本屋さんか、ママのおつかいで家の近くのスーパーに寄って帰るかくらい。
部活で忙しい初音ちゃんと帰りに一緒にどこかへ寄ることもなく、ただ平々凡々と一人で……たまに津嶋くんに誘われて一緒に帰ってる。
津嶋くん、ほかに誰か気になる人いないのかなって思うんだけど、さすがに聞くことはできない。さすがにデリカシーに欠けることくらいはわかる。
登校時の服装が制服に戻って、津嶋くんは残念がってたけど嬉しがってもいた。
天椙の私服姿を見られるの、学校内で俺だけって。
確かにそうなんだけど、私的にはあまり……うーん。
そう言ってもらえるのは嬉しいけど……うーん。
結局私は、すぐに制服姿に戻ってしまった。経緯を知らない初音ちゃんは「ソワちゃんのことなんて気にしなくていいからね」って言ってくれたけど、ううん。それはもう解決してて、でもあのお手紙のことは二人だけの内緒にしておきたくて、初音ちゃんにも言ってない。
理由はそこじゃなくて、やっぱり私は制服で学校にいるのが自然でラクなんだって思った。でもまたなにかキッカケがあったり、気分がそうなったら私服で登校すると思う。それが私なりの“自由”だった。
二時間目のお礼を放課後に言うのとか、タイミング逃しすぎでしょ……と苦笑して、そのまま下校した。
こういうとき、メッセとかで連絡できたらいいのになぁ、って思うけど、それもまたぜいたくな話で、私は由上さんの連絡先を一切知らない。いつか知れたとしても、気軽に連絡とか……できないだろうなぁ……。
家までの道を歩きながら考えていたら、なんだか自然と笑っていた。
生徒手帳に挟まれた紙片は家に帰ったら宝物の仲間入りをする。
そうやって少しずつ増えていく“宝物”が、この先一生の宝物になればいい。いまはそう思ってる。
たとえばいま書き続けてる手帳や日記もそのひとつ。
いつか大人になって、結婚してママになっても、読み返したらいまの嬉しい気持ちを思い出せるような、そういう宝物になっていたらいいなって思ってる。
そんな未来の自分、あまり上手に想像できないけど、おぼろげに、なんとなく。
「ただいまー」
「おかえり~」
ママに挨拶をして自室に戻って、いつものように着替えて宿題を終わらせる。違うのは脱いだ服が制服じゃないってこと。
バッグの中から今日使った教科書とノート、生徒手帳を取りだして机に置く。宿題として出た範囲の課題を解くためと、時間があれば予習復習をするため。
中学のときより宿題が多いのは、音ノ羽が自由な校風とともに謳っている“進学校”という肩書の証。
難しくて困ることもあるけど、勉強を頑張るっていうのの代わりに得た自由だと考えているから、頑張って対応してる。
それに、音ノ羽に入れたから由上さんにも逢えたわけだし。
宿題を終えて、えへへと独り笑う。
生徒手帳から恭しく取り出した由上さんからのお手紙を、もう一度読み返してにへらと笑ってから、お気に入りの缶に入れた。
有名な洋菓子店の限定クッキー缶で、デザインに一目ぼれして貯めてたおこづかいで買ったもの(中身もとても美味しかった)。
空き缶は机の上、由上さんが開けてくれたボトル缶の横に飾られてる。
カシュ、と音を立てて蓋が閉まる。きっとこの先、悲しくなったりつらくなったりしたときに何回も読み返すだろうな、と思いながら、缶を撫でた。
その手を横に移動させて、ルーズリーフのノートを取る。しおりを頼りにページを開いて、今日の日付を書いた。日記を書くのだ。
朝、初めて私服登校したときの感想、状況。登校してみんなに褒めてもらえたこと。由上さんとのやりとり。お手紙の内容。
そういえば、返事した私の手紙、由上さんはどうしたんだろう。名前が見えないように捨ててくれてたらいいなぁ。
由上さんはそういうの、きちんとしてくれそうだからあまり心配はしていないけど……。
由上さんは私がこんなに大事にお手紙保管してるの知ったらどう思うかな。私だったらけっこう嬉しいけど、男の人はどうなんだろう。
自分から言わなければきっとバレないよね。見せる機会なんてないし。うん。
日記を書き終えて、チェックリストのページに移動する。今日のはどうかなぁ……。
毎日見てるから割と覚え始めている項目を指でなぞって確認して……うーん、これ、かなぁ……。
少し考えて悩んで、ひとつの四角を黒く塗りつぶす。
■安心させてくれる
きっとすごく落ち込んでたのが目に見えてわかったんだろうな……。
気を遣わせてしまって申し訳ない気持ちもあるけど、それより嬉しさのほうが勝ってしまう私はゲンキンだよね。
自分勝手なのは良くないなって思うけど、それでも嬉しいんだもんなぁ。仕方ない。
ノートを閉じて元の位置に片付ける。
そろそろ夕食の時間かなとリビングへ行ったら、ママとおねーちゃんが喋っていた。
「あ、来た来た」
「え? なに?」
「どうだった? お洋服」
ママが興味津々で聞いてきた。そういえば報告しないまま部屋に入っちゃった。
「うん、みんな似合うって言ってくれた」
「でしょ~? ママの腕も衰えてないわね。復職しようかしら」
「え、いいじゃんいいじゃん。社割とかきくところ入ってよ。そしたら私たちも使えるでしょ」
「おねぇちゃんたちが着るようなブランドのとこはもう無理よ。っていうか、もう着替えちゃったの?」
「うん、汚したりしたらイヤだから」
「普段着なんだからいいのに。クタクタになっちゃったらまた新しいのにしよ」
「そうだよ、そのときのトレンドだってあるんだからさ」
「おねぇちゃんとこもみぃちゃんのとこもバイト禁止だからまだいいけど、大学行ったら自分で稼いだお金で買うようにしてね?」
「えー」
「バイト……できるかな……」
おねーちゃんは大丈夫だろうけど、人見知りで積極性のない私に務まる職業などあるのだろうか。
「二人ともいずれ就職してウチ出ていくんだからー、若いうちに慣れておいたほうがいいわよ~?」
「はぁーい」
「う……がんばる……」
「みぃちゃん、お洋服は洗濯ネットに入れておいてね。あとでお洗濯するから」
「うん、ありがとう」
「明日も私服で行くなら、乾燥機かけておくけど」
「あー……明日は、いいや。制服で行く」
「あら、そうなの?」
「なんでー? 私服オッケーの高校なんてそんなにないんだから、楽しめばいいのにー」
「うーん……なんか色々気遣わないといけないの、ちょっと大変……」
「あー、確かにねー。制服だったら別にねー」
「ちょっと二人とも。あんまり言いたくないけど、二人が持ってるお洋服の中で、制服が一番高価なんだからね? よほどのことがない限り三年間着られる強度はあるからいいものの、お洗濯だってクリーニングだし、女の子だから大丈夫だろうけど、あんまり粗雑にはしないでね?」
「言われてみれば」
「確かに」
私は詳しくないから良く知らないけど、おねーちゃんの高校も私の高校も、有名なデザイナーが手掛けた制服らしいし、可愛い。
なのに音ノ羽では制服着る人、いないんだよなぁ。みんな私服のがラクなのかな?
そう思って後日初音ちゃんに聞いてみたら、「えー、だって私服だったら帰りに遊びに行くの困らないじゃない。制服は補導されちゃうかもだもん。あと、通ってるとこバレるのやだし」との回答。
なるほど、考えたことなかった。
周囲で聞いていたクラスメイトも同意してたから、そういうものらしい。
帰りに寄り道とかあんまりしないもんなー。行って本屋さんか、ママのおつかいで家の近くのスーパーに寄って帰るかくらい。
部活で忙しい初音ちゃんと帰りに一緒にどこかへ寄ることもなく、ただ平々凡々と一人で……たまに津嶋くんに誘われて一緒に帰ってる。
津嶋くん、ほかに誰か気になる人いないのかなって思うんだけど、さすがに聞くことはできない。さすがにデリカシーに欠けることくらいはわかる。
登校時の服装が制服に戻って、津嶋くんは残念がってたけど嬉しがってもいた。
天椙の私服姿を見られるの、学校内で俺だけって。
確かにそうなんだけど、私的にはあまり……うーん。
そう言ってもらえるのは嬉しいけど……うーん。
結局私は、すぐに制服姿に戻ってしまった。経緯を知らない初音ちゃんは「ソワちゃんのことなんて気にしなくていいからね」って言ってくれたけど、ううん。それはもう解決してて、でもあのお手紙のことは二人だけの内緒にしておきたくて、初音ちゃんにも言ってない。
理由はそこじゃなくて、やっぱり私は制服で学校にいるのが自然でラクなんだって思った。でもまたなにかキッカケがあったり、気分がそうなったら私服で登校すると思う。それが私なりの“自由”だった。
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