【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト

小海音かなた

Chapter.21

 オーダーしたものが届いて、緊張でやっぱりあまり喉を通らなくって、それでも楽しくてたどたどしくもおしゃべりしていたらあっという間に時間が経っていた。
「あ、やばい」スマホの画面を見て枚方さんが小さく言った。「ママから『なにしてるの』ってメッセ来ちゃった」
「あれ、もうそんな時間?」
 枚方さんが持つスマホの画面を立川くんがのぞきこんだ。
「うん。二時間くらい経ってるかな」
「あら、あっという間」
「じゃー、仕方ないからそろそろ出るか」グラスに残った氷をカラカラ鳴らしながら由上さんが言う。
「そうですね」
 とっても残念な気持ちを抱きつつ、それに気付かれないように言った言葉が思いのほかそっけなくなってしまって、少し慌てる。そういうんじゃないんだよぉって。
 そんな気持ちに気付いてか、枚方さんが私に笑顔を向けてくれる。
「また誘うから、時間あうとき四人であそぼ」
「う、うん!」
 多分だけど、枚方さんには私の気持ちが少し漏れて伝わってしまっている気がする。立川くんと同じように、人の気持ちを察して酌むのが上手な人なのかもしれない。
 テーブル席で各自自分のオーダー分の金額を出してレシートの上に置いた。合計金額と同額のお金をレシートと一緒に持って、由上さんが席を立つ。
 横にずれて移動しているとき、由上さんの残り体温が手のひらに当たった。いつか感じたのと同じそれを懐かしく思えるのが嬉しい。
 支払いを二人に任せて、枚方さんと二人でファミレスの外に出た。待っている間、枚方さんが「ね」と私を呼ぶ。
「うん?」
「勘違いじゃなかったら、だけど、協力してもいい?」
 首を傾げた枚方さんに、主語のない質問をされた。
 一瞬考えて、すぐに由上さんのことだとわかる。
 う、うんうん。
 この気持ちを話せる相手ができるのはとても心強い。たとえそれが恋心なんて生々しいものじゃなくても、日記にしか打ち明けられなかった心の内を誰か信頼できる人に言えるのは嬉しい。
 おっけー。
 枚方さんは指で丸を作って笑顔になった。
「確認しないでできたらスマートなんだろうけど、余計なお世話になるのこわくって」
 へへっと笑ったその表情もまたチャーミングだ。
 枚方さんみたいに明るくて社交的な人でもそういう風に思うんだって、そんな新発見もできた。
「おまたせ」
 お店から出てきた由上さんが私に声をかけてくれる。続いて立川くんがやってきた。
「じゃ、帰ろっか」
「はぁい」
 来るとき同様、立川くん先導のもと駅へ向かう。並びも一緒。
「仲良くなれそう?」
 隣に立つ由上さんが私に問いかけた。
「はい。もうすっかり、大好きです」
「えっ? 私?!」
 満面の笑みで振り返った枚方さんに「うん、そう」普段より五割増しな笑顔を向けてうなずく。
「やったー! 告白された~! 両思いだ! いいでしょ~」
 枚方さんが由上さんにニヤリと笑いかける。
「うん、そうね」
 そっけないような、でもなにか感情がにじみ出ているような声色と表情で由上さんが答える。
「私も天椙さん大好き!」
「え、嬉しい。そういうの言われたの生まれて初めてかも」と言ってから浮かんだ津嶋くんの顔を無い無いして、口をつぐんだ。
「えっ、そうなんだ。モテそうなのに」
「へっ?!」言われ慣れないその言葉に変な声が出た。「ぜっ、ぜんぜん! そんなわけないよ!」
「そうかなー。きっと気付いてないだけだよ」
 にこやかに言って前を向く枚方さんのポニーテールが揺れる。
 言葉が出なくて思わず隣を見たら、由上さんもさっきまでとは違った、なんともいえない顔をしながら前を向いていた。
 駅について、ホームに繋がる階段の前でバイバイして階段をあがる。
 すごく楽しかったな。今日の日記、たくさん書けそう。
 えへえへしながら階段をのぼり切ったら、ちょうど電車が来た。近くのドアから車内に入って、まばらに空いた席に座る。
 明日から楽しくなりそうだな。
 正面の窓の外、向かいのホームに由上さんたちが立っている。あちらの電車はまだ来てない。
 三人で談笑しているその中に、私もさっきまで混ざっていたんだって思ったら、なんだか不思議で、嬉しくて、胸が熱くなった。

 帰宅して、リビングにいたママにただいまの挨拶をして自室へ戻る。
 バッグを置いて制服を着替えて机に向かった。記憶が薄れないうちに日記を書く。
 由上さんと同じクラスになったこと、由上さんの幼馴染で立川くんの彼女さんである枚方さんと仲良くなれたこと、四人で学校帰りにファミレスに寄ったこと、そしてそのときの会話の内容。
 思い出しながらそのときの感情と一緒にルーズリーフに書いていく。思っていた通りいつもの枚数じゃ足らなくて、なんだかとってもボリューミーな日記になってしまった。しかしそれは幸せの量でもあって、思い出して綴っているだけで、私はもう恥ずかしいくらい満面の笑みを浮かべている。
 もしかして、尊敬してるだけじゃなくて、好きなのかな。
 ふとした瞬間、高確率で思うこと。
 でもその“好き”の先にはきっと、悲しい結末が待っている。尊敬だったら、想いが届かなくてもガッカリしないで済む。だから。

 楽しかった思い出を文字で残し終えて、チェックリストのページに移る。
 なにか埋められるものはないかな、なんて指でなぞりながら50の項目を確認していく。
【□会話が弾む】? うーん、でも二人きりでってわけじゃないからなぁ。
【□めっちゃ目が合う】。合ってはいたけど“めっちゃ”ではないなぁ。
【□一緒にいると楽しそう】……いや、だから四人でなんだって。
 うーん、と悩んで「あ」思い出した。
 移動する間、ずっとこうしてくれてた。意識的なのかどうかわからないけど、あれはきっと、由上さんの優しさだ。
 時間差で嬉しくなって、ニコニコしながら白い四角を塗りつぶした。

 ■車道側を歩いてくれる

 もし本当に“また”があるなら、今日みたいに由上さんと並んで歩く日が来るかもしれない。
 そう思ったら何もしないではいられなくて、お風呂あがりに化粧水でお肌を手入れしたり足をマッサージしたりしてみる。
 髪を乾かすとき、こっそりママのトリートメントをつけたらドライヤーを使ったのにすごくしっとりサラサラになって、ママやおねーちゃんはいつもこういうの使ってるからキレイなんだぁって感動した。
 おこずかいだけじゃ足りないし、ママにお願いしていつも使わせてもらおうかな。それとも許可を得てバイトしようかな。なんて色々考えながら明日の学校の準備をした。
 きっと音ノ羽の人たちがキラキラして見えるのは、こういう努力を惜しまずやってるからなんだろうなって、少しだけわかった気がした。
【ローマは一日にして成らず】なんてことざわが浮かぶ。
 書道の選択授業が取れたら、書いて部屋に貼ろうかな。
 なんだか前向きでやる気があるのは、年度の始めだからか由上さん効果か……。
 どちらにせよいい変化だと結論付けて、ベッドに入る。
 明日もきっといい日になりそう。そんな期待と一緒に眠りに就いた。

* * *

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