【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト
Chapter.14
「天椙さん」
「はいっ」
聞き覚えのある声に登校途中に呼びかけられて、驚きとともに振り返るとそこに由上さんと立川くんがいた。
「おはよ」
「おはよう」
由上さんと、その後ろにいる立川くんが挨拶をしてくれる。
「お、おはよう、ございます」
「見たよ、応援合戦」
「えっ、ありがとうございます」
「すごかったね、かっこよかった」
「ありがとう、ございます」照れくさくて、思わずうつむいた。
「めっちゃサマになってたけど、立候補? それとも推薦?」
「いえっ、どちらも違くて! くじ引きで、たまたま……」
「へぇ~! そうなんだ。適役だったから選ばれたんだろうなって思ってた」
「まさか、そんな」
首を横に振る機械と化した私を、すぐそばで立川くんが微笑みながら見守ってる。
(混ざってくれたらいいのに……)
立川くんはいつも、私が由上さんとお話しているとき、そうやって見守ってくれることが多い。言葉が出てこなくなると助けてくれる、頼もしい存在。
それでも今日は、少し心細い。
道端で立ち話をしているだけでも、由上さんは注目を浴びている。その視界の隅に入った私に気付くと、女子たちの表情が少し変わる。
由上さんに向けられる視線と私へのそれは、鋭さが違っていて、そこに込められた気持ちや意識も違う。
あぁ、前にもあったな、こんなこと。
頭の遠くで思いながら、由上さんと対峙をする。始業の時間まではまだ余裕があるけど、立ち止まってるのも変だからと校舎に向かってゆっくり歩き始めた。
「メガネ外してたけど、コンタクトしてたの?」
「いえ、裸眼で」
「そうなんだ。けっこう見える?」
「全然。ぼやけて、みんなの顔も、自分が進む先すら良く見えてなかったです」
「あぁ、だから……」
「?」
「いや、なんか、手ぇ繋いでたから」
おぼろげな記憶がよみがえってくる。良く見えてなくて感覚だけで判断してたけど、やっぱり誰かに手を引かれていたんだと、言われて知った。
「繋いではいません……! 方向を見失ったので、こう、手首をつかまれて……」
「引っ張られてた?」
「そう、そうです」
その手の主は、多分津嶋くんだ。
あのときは誰かが帰る手助けをしてくれたんだって感謝してたけど、こういう風に見られていたとは……そりゃウワサもされるよ……。
「そっか」
由上さんは小さく笑みを浮かべて、私に視線を向けた。
「メガネ、してるのとしてないの、印象違うよね」
「そう、ですか?」
眼鏡をはずした自分の顔は、ぼやけていていつも良く見えない。だからどう違うのかがわからない。
「うん、なんか……うん」
由上さんは言葉を飲み込んで、少し誤魔化すように口を閉じた。そのまま校舎内へ入る。
(会話、終わっちゃった……)
ちょうど下駄箱に到着したからそこでバイバイするかなって思ったけど、立川くんが話を振ってくれてそのまま教室の前まで一緒に行くことになった。
「いつもこのくらいの時間?」
「そう、ですね。たまに電車一本前後しますけど」
「そうなんだ。もっと早く来てるかと思ってた」
「? そういうイメージでしたか?」
「うん。図書室行ってるかなーって」
「あぁ……朝行くと、うっかりして授業に間に合わなくなりそうで……」
そう。別に早起きは苦じゃないけど、そのうっかりを一回しそうになってから、朝、図書室に行くのをやめた。どうせ行くなら、次の予定がないときに心置きなくこもりたい。
「じゃあこのくらいの時間に来れば、毎朝会えるんだね」
「はい…多分」
(それって、会いたいって思ってくれてる……ってこと?)
一瞬思って、すぐに打ち消した。まさか由上さんが私なんかにそんなこと思ってくれてるわけない。
すれ違う人が男女かまわず視線を投げたり表情を変えたりするような人が、こんな……地味な私と……。考えて落ち込んできた。すごい卑屈だなぁって。
由上さんと立川くんは、お互いの教室の間でそのまま立ち話を始めた。立川くんも由上さんも私に話を振ってくれるから、私もその場にとどまって、たどたどしくも会話に加わってる。
登校してきたクラスメイトたちに挨拶されて返すけど、その視線は一緒にいる由上さんにそそがれてる。けど由上さんはそれを気にしたりしてない。
途中、津嶋くんが通りかかって何気ない感じで挨拶してくれたけど、なんとなく、空気がピリッとした気がした。
き、気のせいだよね。
立川くんはいつもと変わらずニコニコしてるし、きっと屋上でのことがあるからって思ってる私の考えすぎだよね。
津嶋くんはそのまま教室に入って、すでに着席している人たちと挨拶して談笑を始めた。
うん、やっぱり、気のせいだよ……。
話すのにも慣れてきて楽しくなってきたころ、校内に予鈴が鳴り響いた。
「あ、鳴っちゃった。じゃあ、また」
「はい……また」
由上さんと別れて、私と立川くんは一緒に教室に入る。
「仲良くなったんじゃなかったんだ」
「えっ?」
「いや、蒼和と天椙さんさ」立川くんは口元を手で隠しながら「一緒にメシ食ったりしてるって聞いてたから」私に耳打ちをしてきた。
「う、うん。そうだったんだけど……な、なんで?」つられて私も小声になる。
「蒼和と話してるとき相変わらず敬語だったし、なんか久しぶりに喋ってる感すごかったし」
「うん、今日みたいに長く喋るのは久しぶりだったかな……」
そういえば、体育祭準備の間は顔を合わせても会話に発展することはなかった。私はだいたい応援団メンバーと一緒にいたし、由上さんも誰かと一緒にいることが多かったし。
「そっかー。蒼和、寂しがるだろうから、たまにはかまってやってね」
じゃあ、と立川くんは自分の席に向かった。
(寂しがる?……由上さんが?)
立川くんが言い残した言葉に疑問符を付けて反芻して、私も自席に行く。
青春席を引いてからまた席替えがあって、私はもう立川くんと隣の席じゃなくなった。相良先生の気まぐれで行われる席替えも最初のころはビクビクしてたけど、体育祭が終わったいまでは誰と隣になっても大丈夫って自信がある。
親しいかどうかまでは謎だけど、クラスメイトとだったら誰とでも雑談くらいできるようになったから。
美術の時間に一緒になる隣のクラスの人とも多少喋れるようになったし、私にしては本当に進歩できてる。だから……。
今度、由上さんに会えたら、私から話しかけてみよう。
そう思った。
* * *
■知ろうとしてくれる
■ほめてくれる
白い四角を塗りつぶす。
由上さんが寂しがる……それが真実かどうか、私はまだ確認できていない。立川くんが嘘をつくとも思えないし、由上さんに直接聞いたんだろうけど……うーん、どういうことなんだろう。
考えても答えは出ないし、出たとしてもそれが正解かわからないしで、たまに思い出しても考えるのを途中でやめてしまう。
……少しは気に入ってもらえてるのかな……。
自惚れた考えなのはわかってるけど、そうだったら嬉しい。
嫌ってたら話しかけたりしてくれないだろうから、そこは自信あるんだけど……。
そういえば、由上さんが苦手にしてる人っているのかな。由上さんを苦手にしてる人がほとんどいないように、由上さんにそういう人がいるとは思えない。けど……。
由上さんのことになると、知りたいことか次々に湧いてくる。
今度聞こう、いつか聞こうと思っていても、由上さんを前にすると緊張して言葉がでなくなってしまう。
もう何回もお喋りしてるんだから、いい加減慣れてもよさそうなんだけどなー。
考えとは裏腹に、姿を見るだけでドキドキと心臓が跳ねるのは自分ではどうにもできないんだ。
自然にめくった次のページに書かれているのは、季節が秋から冬に変わるころのことだった。
「はいっ」
聞き覚えのある声に登校途中に呼びかけられて、驚きとともに振り返るとそこに由上さんと立川くんがいた。
「おはよ」
「おはよう」
由上さんと、その後ろにいる立川くんが挨拶をしてくれる。
「お、おはよう、ございます」
「見たよ、応援合戦」
「えっ、ありがとうございます」
「すごかったね、かっこよかった」
「ありがとう、ございます」照れくさくて、思わずうつむいた。
「めっちゃサマになってたけど、立候補? それとも推薦?」
「いえっ、どちらも違くて! くじ引きで、たまたま……」
「へぇ~! そうなんだ。適役だったから選ばれたんだろうなって思ってた」
「まさか、そんな」
首を横に振る機械と化した私を、すぐそばで立川くんが微笑みながら見守ってる。
(混ざってくれたらいいのに……)
立川くんはいつも、私が由上さんとお話しているとき、そうやって見守ってくれることが多い。言葉が出てこなくなると助けてくれる、頼もしい存在。
それでも今日は、少し心細い。
道端で立ち話をしているだけでも、由上さんは注目を浴びている。その視界の隅に入った私に気付くと、女子たちの表情が少し変わる。
由上さんに向けられる視線と私へのそれは、鋭さが違っていて、そこに込められた気持ちや意識も違う。
あぁ、前にもあったな、こんなこと。
頭の遠くで思いながら、由上さんと対峙をする。始業の時間まではまだ余裕があるけど、立ち止まってるのも変だからと校舎に向かってゆっくり歩き始めた。
「メガネ外してたけど、コンタクトしてたの?」
「いえ、裸眼で」
「そうなんだ。けっこう見える?」
「全然。ぼやけて、みんなの顔も、自分が進む先すら良く見えてなかったです」
「あぁ、だから……」
「?」
「いや、なんか、手ぇ繋いでたから」
おぼろげな記憶がよみがえってくる。良く見えてなくて感覚だけで判断してたけど、やっぱり誰かに手を引かれていたんだと、言われて知った。
「繋いではいません……! 方向を見失ったので、こう、手首をつかまれて……」
「引っ張られてた?」
「そう、そうです」
その手の主は、多分津嶋くんだ。
あのときは誰かが帰る手助けをしてくれたんだって感謝してたけど、こういう風に見られていたとは……そりゃウワサもされるよ……。
「そっか」
由上さんは小さく笑みを浮かべて、私に視線を向けた。
「メガネ、してるのとしてないの、印象違うよね」
「そう、ですか?」
眼鏡をはずした自分の顔は、ぼやけていていつも良く見えない。だからどう違うのかがわからない。
「うん、なんか……うん」
由上さんは言葉を飲み込んで、少し誤魔化すように口を閉じた。そのまま校舎内へ入る。
(会話、終わっちゃった……)
ちょうど下駄箱に到着したからそこでバイバイするかなって思ったけど、立川くんが話を振ってくれてそのまま教室の前まで一緒に行くことになった。
「いつもこのくらいの時間?」
「そう、ですね。たまに電車一本前後しますけど」
「そうなんだ。もっと早く来てるかと思ってた」
「? そういうイメージでしたか?」
「うん。図書室行ってるかなーって」
「あぁ……朝行くと、うっかりして授業に間に合わなくなりそうで……」
そう。別に早起きは苦じゃないけど、そのうっかりを一回しそうになってから、朝、図書室に行くのをやめた。どうせ行くなら、次の予定がないときに心置きなくこもりたい。
「じゃあこのくらいの時間に来れば、毎朝会えるんだね」
「はい…多分」
(それって、会いたいって思ってくれてる……ってこと?)
一瞬思って、すぐに打ち消した。まさか由上さんが私なんかにそんなこと思ってくれてるわけない。
すれ違う人が男女かまわず視線を投げたり表情を変えたりするような人が、こんな……地味な私と……。考えて落ち込んできた。すごい卑屈だなぁって。
由上さんと立川くんは、お互いの教室の間でそのまま立ち話を始めた。立川くんも由上さんも私に話を振ってくれるから、私もその場にとどまって、たどたどしくも会話に加わってる。
登校してきたクラスメイトたちに挨拶されて返すけど、その視線は一緒にいる由上さんにそそがれてる。けど由上さんはそれを気にしたりしてない。
途中、津嶋くんが通りかかって何気ない感じで挨拶してくれたけど、なんとなく、空気がピリッとした気がした。
き、気のせいだよね。
立川くんはいつもと変わらずニコニコしてるし、きっと屋上でのことがあるからって思ってる私の考えすぎだよね。
津嶋くんはそのまま教室に入って、すでに着席している人たちと挨拶して談笑を始めた。
うん、やっぱり、気のせいだよ……。
話すのにも慣れてきて楽しくなってきたころ、校内に予鈴が鳴り響いた。
「あ、鳴っちゃった。じゃあ、また」
「はい……また」
由上さんと別れて、私と立川くんは一緒に教室に入る。
「仲良くなったんじゃなかったんだ」
「えっ?」
「いや、蒼和と天椙さんさ」立川くんは口元を手で隠しながら「一緒にメシ食ったりしてるって聞いてたから」私に耳打ちをしてきた。
「う、うん。そうだったんだけど……な、なんで?」つられて私も小声になる。
「蒼和と話してるとき相変わらず敬語だったし、なんか久しぶりに喋ってる感すごかったし」
「うん、今日みたいに長く喋るのは久しぶりだったかな……」
そういえば、体育祭準備の間は顔を合わせても会話に発展することはなかった。私はだいたい応援団メンバーと一緒にいたし、由上さんも誰かと一緒にいることが多かったし。
「そっかー。蒼和、寂しがるだろうから、たまにはかまってやってね」
じゃあ、と立川くんは自分の席に向かった。
(寂しがる?……由上さんが?)
立川くんが言い残した言葉に疑問符を付けて反芻して、私も自席に行く。
青春席を引いてからまた席替えがあって、私はもう立川くんと隣の席じゃなくなった。相良先生の気まぐれで行われる席替えも最初のころはビクビクしてたけど、体育祭が終わったいまでは誰と隣になっても大丈夫って自信がある。
親しいかどうかまでは謎だけど、クラスメイトとだったら誰とでも雑談くらいできるようになったから。
美術の時間に一緒になる隣のクラスの人とも多少喋れるようになったし、私にしては本当に進歩できてる。だから……。
今度、由上さんに会えたら、私から話しかけてみよう。
そう思った。
* * *
■知ろうとしてくれる
■ほめてくれる
白い四角を塗りつぶす。
由上さんが寂しがる……それが真実かどうか、私はまだ確認できていない。立川くんが嘘をつくとも思えないし、由上さんに直接聞いたんだろうけど……うーん、どういうことなんだろう。
考えても答えは出ないし、出たとしてもそれが正解かわからないしで、たまに思い出しても考えるのを途中でやめてしまう。
……少しは気に入ってもらえてるのかな……。
自惚れた考えなのはわかってるけど、そうだったら嬉しい。
嫌ってたら話しかけたりしてくれないだろうから、そこは自信あるんだけど……。
そういえば、由上さんが苦手にしてる人っているのかな。由上さんを苦手にしてる人がほとんどいないように、由上さんにそういう人がいるとは思えない。けど……。
由上さんのことになると、知りたいことか次々に湧いてくる。
今度聞こう、いつか聞こうと思っていても、由上さんを前にすると緊張して言葉がでなくなってしまう。
もう何回もお喋りしてるんだから、いい加減慣れてもよさそうなんだけどなー。
考えとは裏腹に、姿を見るだけでドキドキと心臓が跳ねるのは自分ではどうにもできないんだ。
自然にめくった次のページに書かれているのは、季節が秋から冬に変わるころのことだった。
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