【完結】好きな人にされたら嬉しい50のコト
Chapter.6
初めて二人きりでお喋りしてから、由上さんは度々屋上に来てくれるようになった。
噂になったら困ると言った私の言葉を尊重して、周りに人がいないときを見計らってくれてるそうで、屋上に来て私以外に誰かがいるとそのままUターンしてるらしい。
ありがたいやら申し訳ないやら……でもやっぱりとても嬉しくて……。
いままであまり気にしないようにしていた見た目にも少し気を遣うことにしたりして、おねーちゃんにスキンケアの方法とか聞いたら、少しびっくりして、でも嬉しそうに教えてくれた。
由上さんとお話しできるようになってから、物事が好転するようになった気がする。
なんだろう、由上さんがそういうオーラを放ったりしてるのかな? くらい思ってしまう。
ちょっと神格化。でも由上さんは確実にそこに存在していて、私の心を明るく照らしてくれる。
そうやって、毎日が少しずつ楽しく、充実していった。
今日も朝からウキウキしているのは、毎週一回のお楽しみ、美術の選択授業があるから。
お昼に来てくれるかどうか気にしながら待たなくても確実に会うことができる唯一の時間は、私の心を浮足立たせる。
二時間目の授業が終わって美術室へ向かうと、すでに何人かの生徒が着席していた。視線が合ったから会釈をして挨拶を交わして、まだ周囲に誰もいない端っこの席に座る。
由上さんはまだ来ていない。
来ても多分、近くに来ることも会話することもない。なんとなく、二人の間の暗黙の了解、みたいな感じ。
2クラスの生徒がぞろぞろ集まる中、数名と会話をしながら由上さんが現れた。喋っていた男子と同じ机に陣取る。私が座っているのとは正反対、教室の対角線の端と端。
入学したてのころはこれでも近いと思えていたのに、いまでは遠いと感じている。
人間って贅沢だな~。
ぼんやりそんなことを考えていると、先生が入ってきた。
今日の授業は二人一組になって創作するという内容だった。
美術の時間中、たまにペアを組むことがある。なるべく固定のペアにならないようにと先生は言うけど、まだ誰ともそこまで親しくなれてなくて声をかけられない人――私は毎回戸惑って、所在なさげに陣取った席で辺りを伺うことになる。
そんな私を気遣って、少し離れて座る由上さんが声をかけてくれる。
そのたび同じクラスや隣のクラスの女の子が割って入ってペアになってくれた。
由上さんと私が組むのがイヤなんだろうな、と思いながらも、それに気付かないフリをして、声をかけてくれた女子に感謝しつつ授業をこなしていった。
そのおかげか、美術の時間で顔見知りになった人と廊下ですれ違うときに、挨拶をかわすくらいはできるようになった。
彼女たちも気さくに挨拶を返してくれる。私にしては大きな一歩だ。
その経験が私を少し成長させて、今日の授業は自分から近くの女子に声をかけることができた。
少し意外そうにしていたけど快く引き受けてくれて、密かに胸を撫でおろした。
視線を感じて顔をあげると、少し離れた場所で由上さんが安心したように微笑んでいる。
少しの変化、少しの距離があっても繋がっている気がして嬉しくて、私も少し微笑み返した。
美術の時間に一緒になにかできなくても、たまに二人で昼休みを過ごせていればそれでいい。そう思っていたのだけど、あるときから由上さんは屋上に来なくなった。
由上さんがお昼休みにどこかへ消えるという噂が広まって、教室を抜ける由上さんの後を追ってくる女子が現れるようになったから、らしい。
私の憩いの場である屋上が皆に知られるのを良くないと思った由上さんは、屋上へ行くのをやめた、と立川くんから教えられた。
そうなんだ……。
気遣いは嬉しかったけど、会えない寂しさのほうが大きくて……。
屋上へ向かうのに隣の教室前を通りかかるたび由上さんと目が合うけど、由上さんは少し寂しそうな笑顔を浮かべて、すぐに視線をそらしてしまう。
雨の日の昼休みも、私のクラスに来た由上さんをクラスカーストの高い女子たちが連れて行ってしまう。
結局、私はまた一人でお昼ご飯を食べるようになった。
ただの元通り。
それでいいと思う。
噂が立って困らせたら申し訳ない。そう言ったのは私だ。
由上さんにも気を遣わせるし、ずっと甘えてるわけにもいかないから友達作らないとな、なんて思うけど、入学から数か月経っていると大体決まったグループができていて、私はそのどれにも属せなかった。
由上さんとの思い出があるから大丈夫。
寂しいけど、これでいいんだって言い聞かせて通学する。
しばらくそうしていたら、ウキウキする気持ちがどこから湧いてくるのか、それすら忘れてしまった。
どんよりとした空に似た気持ちで授業に臨む。
二時間目の授業のとき、窓の外から遠雷が聞こえた。気になって音のほうを見てみると、遠くの空が黒い雲に覆われてる。
(このまま雨になればいいのに)
小さな希望は叶って、授業が終わるころには窓に小さな雨粒がぽつぽつ当たり始めた。
校庭でやるはずだった体育の授業は体育館に変更された。
室内シューズをキュキュッと鳴らしつつ、パスが来ませんようにと祈りながらバスケに参加した。絶妙に良くない位置取りのおかげか、ボールに触れることはなく授業が終わる。
男女で分かれた更衣室で着替えを済ませ、運動着が入ったバッグを抱えて廊下を歩く。行動の速い人はすでに更衣室を出ていて、もうすぐ始まるお昼休憩に備えているようだ。
先生のはからいで、教室に戻る前に購買へ行って良し、というお達しが出たから、クラスメイトはここぞとばかりに購買や食堂へ行って人気のメニューにありつこうとしている。私もそのうちの一人。
購買部で大人気、売り切れ必至のフルーツサンド(季節・数量限定)とカレーパンをゲット! 体育終わりの空腹に足りるかわからなかったからツナサンドも買って、教室へ戻る間に終業のチャイムが鳴った。
教室内で授業を受けていた人たちが椅子や机をガタガタ鳴らして教室の外へ出てくる。流れに逆行するから、邪魔にならないように窓際へ移動してすみっこを歩く。窓の外には黒い雨雲が広がっていて、雨はまだやんでない。
教室に着いて自分の席に戻ろうとして、あまりの驚きに足が止まる。私の席に由上さんが座っていたからだ。
「あ、ごめん」
私に気付いて、由上さんが謝罪する。
「いっ、いえ」
カタンと音を立てて立ち上がると、「ちょっと椅子わけてよ」立川くんを手で払うようにして由上さんが座ろうと身体をすり寄せた。
「やめてよ、ただでさえ学校の椅子ちいさいんだから」
「じゃあこっち借ーりよ」
由上さんは立川くんの前の席に座り直す。
「ごめんね、借りてた」どうぞと手で促して、私を誘導してくれる。
「ありがとうございます……」
「こちらこそ」
由上さんは爽やかに笑って、立川くんとの会話を再開した。
次にこういう機会があったらどう挨拶しようかって考えてたけど、由上さんは普段通りで、意識してたのは私だけだったんだなって少ししょんぼりしてしまった。
違う違う、それは贅沢。
心の中で首を振って、買ってきたお昼ご飯を机の上に置いた。
クラスメイトの半分以上は教室に戻ってなくて教室内はガラガラ。みんな多分、食堂とか購買部横のエントランスとかに陣取ってお昼ご飯を食べているんだと思う。
私はいつも行く屋上が今日は使えないから、ドキドキするけど自分の席でご飯を食べる。ここなら由上さんの近くにいても、誰にもなにも言われない。…きっと、たぶん。
由上さんと立川くんはコンビニで買ってきていたらしい二人分のご飯を机の上に広げて、おしゃべりしながら包みを開けていく。私も同じように、購買で買ったパンを紙袋から取り出す……と
「あ」
由上さんがこちらを見て、声を上げた。
噂になったら困ると言った私の言葉を尊重して、周りに人がいないときを見計らってくれてるそうで、屋上に来て私以外に誰かがいるとそのままUターンしてるらしい。
ありがたいやら申し訳ないやら……でもやっぱりとても嬉しくて……。
いままであまり気にしないようにしていた見た目にも少し気を遣うことにしたりして、おねーちゃんにスキンケアの方法とか聞いたら、少しびっくりして、でも嬉しそうに教えてくれた。
由上さんとお話しできるようになってから、物事が好転するようになった気がする。
なんだろう、由上さんがそういうオーラを放ったりしてるのかな? くらい思ってしまう。
ちょっと神格化。でも由上さんは確実にそこに存在していて、私の心を明るく照らしてくれる。
そうやって、毎日が少しずつ楽しく、充実していった。
今日も朝からウキウキしているのは、毎週一回のお楽しみ、美術の選択授業があるから。
お昼に来てくれるかどうか気にしながら待たなくても確実に会うことができる唯一の時間は、私の心を浮足立たせる。
二時間目の授業が終わって美術室へ向かうと、すでに何人かの生徒が着席していた。視線が合ったから会釈をして挨拶を交わして、まだ周囲に誰もいない端っこの席に座る。
由上さんはまだ来ていない。
来ても多分、近くに来ることも会話することもない。なんとなく、二人の間の暗黙の了解、みたいな感じ。
2クラスの生徒がぞろぞろ集まる中、数名と会話をしながら由上さんが現れた。喋っていた男子と同じ机に陣取る。私が座っているのとは正反対、教室の対角線の端と端。
入学したてのころはこれでも近いと思えていたのに、いまでは遠いと感じている。
人間って贅沢だな~。
ぼんやりそんなことを考えていると、先生が入ってきた。
今日の授業は二人一組になって創作するという内容だった。
美術の時間中、たまにペアを組むことがある。なるべく固定のペアにならないようにと先生は言うけど、まだ誰ともそこまで親しくなれてなくて声をかけられない人――私は毎回戸惑って、所在なさげに陣取った席で辺りを伺うことになる。
そんな私を気遣って、少し離れて座る由上さんが声をかけてくれる。
そのたび同じクラスや隣のクラスの女の子が割って入ってペアになってくれた。
由上さんと私が組むのがイヤなんだろうな、と思いながらも、それに気付かないフリをして、声をかけてくれた女子に感謝しつつ授業をこなしていった。
そのおかげか、美術の時間で顔見知りになった人と廊下ですれ違うときに、挨拶をかわすくらいはできるようになった。
彼女たちも気さくに挨拶を返してくれる。私にしては大きな一歩だ。
その経験が私を少し成長させて、今日の授業は自分から近くの女子に声をかけることができた。
少し意外そうにしていたけど快く引き受けてくれて、密かに胸を撫でおろした。
視線を感じて顔をあげると、少し離れた場所で由上さんが安心したように微笑んでいる。
少しの変化、少しの距離があっても繋がっている気がして嬉しくて、私も少し微笑み返した。
美術の時間に一緒になにかできなくても、たまに二人で昼休みを過ごせていればそれでいい。そう思っていたのだけど、あるときから由上さんは屋上に来なくなった。
由上さんがお昼休みにどこかへ消えるという噂が広まって、教室を抜ける由上さんの後を追ってくる女子が現れるようになったから、らしい。
私の憩いの場である屋上が皆に知られるのを良くないと思った由上さんは、屋上へ行くのをやめた、と立川くんから教えられた。
そうなんだ……。
気遣いは嬉しかったけど、会えない寂しさのほうが大きくて……。
屋上へ向かうのに隣の教室前を通りかかるたび由上さんと目が合うけど、由上さんは少し寂しそうな笑顔を浮かべて、すぐに視線をそらしてしまう。
雨の日の昼休みも、私のクラスに来た由上さんをクラスカーストの高い女子たちが連れて行ってしまう。
結局、私はまた一人でお昼ご飯を食べるようになった。
ただの元通り。
それでいいと思う。
噂が立って困らせたら申し訳ない。そう言ったのは私だ。
由上さんにも気を遣わせるし、ずっと甘えてるわけにもいかないから友達作らないとな、なんて思うけど、入学から数か月経っていると大体決まったグループができていて、私はそのどれにも属せなかった。
由上さんとの思い出があるから大丈夫。
寂しいけど、これでいいんだって言い聞かせて通学する。
しばらくそうしていたら、ウキウキする気持ちがどこから湧いてくるのか、それすら忘れてしまった。
どんよりとした空に似た気持ちで授業に臨む。
二時間目の授業のとき、窓の外から遠雷が聞こえた。気になって音のほうを見てみると、遠くの空が黒い雲に覆われてる。
(このまま雨になればいいのに)
小さな希望は叶って、授業が終わるころには窓に小さな雨粒がぽつぽつ当たり始めた。
校庭でやるはずだった体育の授業は体育館に変更された。
室内シューズをキュキュッと鳴らしつつ、パスが来ませんようにと祈りながらバスケに参加した。絶妙に良くない位置取りのおかげか、ボールに触れることはなく授業が終わる。
男女で分かれた更衣室で着替えを済ませ、運動着が入ったバッグを抱えて廊下を歩く。行動の速い人はすでに更衣室を出ていて、もうすぐ始まるお昼休憩に備えているようだ。
先生のはからいで、教室に戻る前に購買へ行って良し、というお達しが出たから、クラスメイトはここぞとばかりに購買や食堂へ行って人気のメニューにありつこうとしている。私もそのうちの一人。
購買部で大人気、売り切れ必至のフルーツサンド(季節・数量限定)とカレーパンをゲット! 体育終わりの空腹に足りるかわからなかったからツナサンドも買って、教室へ戻る間に終業のチャイムが鳴った。
教室内で授業を受けていた人たちが椅子や机をガタガタ鳴らして教室の外へ出てくる。流れに逆行するから、邪魔にならないように窓際へ移動してすみっこを歩く。窓の外には黒い雨雲が広がっていて、雨はまだやんでない。
教室に着いて自分の席に戻ろうとして、あまりの驚きに足が止まる。私の席に由上さんが座っていたからだ。
「あ、ごめん」
私に気付いて、由上さんが謝罪する。
「いっ、いえ」
カタンと音を立てて立ち上がると、「ちょっと椅子わけてよ」立川くんを手で払うようにして由上さんが座ろうと身体をすり寄せた。
「やめてよ、ただでさえ学校の椅子ちいさいんだから」
「じゃあこっち借ーりよ」
由上さんは立川くんの前の席に座り直す。
「ごめんね、借りてた」どうぞと手で促して、私を誘導してくれる。
「ありがとうございます……」
「こちらこそ」
由上さんは爽やかに笑って、立川くんとの会話を再開した。
次にこういう機会があったらどう挨拶しようかって考えてたけど、由上さんは普段通りで、意識してたのは私だけだったんだなって少ししょんぼりしてしまった。
違う違う、それは贅沢。
心の中で首を振って、買ってきたお昼ご飯を机の上に置いた。
クラスメイトの半分以上は教室に戻ってなくて教室内はガラガラ。みんな多分、食堂とか購買部横のエントランスとかに陣取ってお昼ご飯を食べているんだと思う。
私はいつも行く屋上が今日は使えないから、ドキドキするけど自分の席でご飯を食べる。ここなら由上さんの近くにいても、誰にもなにも言われない。…きっと、たぶん。
由上さんと立川くんはコンビニで買ってきていたらしい二人分のご飯を机の上に広げて、おしゃべりしながら包みを開けていく。私も同じように、購買で買ったパンを紙袋から取り出す……と
「あ」
由上さんがこちらを見て、声を上げた。
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